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文龍との別れ

菊と15歳も離れていた文龍。菊が65歳のときに80歳になっていた。

パチンコ屋も大手が牛耳るようになって赤字が積もり、土地の名義だけ残して、人に貸していた。

文龍も年老いて、少し痴呆の症状も出てきた。

日本語で喋っていたのに、興奮してくると、台湾語になっていたりした。

急に暴れたりもするようになってきた。

まだまだ若々しく、龍園をバリバリ切り盛りしていた菊は、自分ばかり働かされているという不満もあって、ますます文龍を疎ましく 思うようになってきた。

この頃、不況に加えて、大手のイオンスーパーが郊外に出店し、元々の繁華街であった電車通りがすたたれてきた。

菊はまだまだ元気であったが、不況には勝てず、龍園も赤字がかさみ、閉店することになった。

当時、自宅の隣に酒屋があったが、ここも閉店した。町の美人として評判のおかみさんが、自分が持っている土地の上にアパートを建て て、1階を酒も扱うコンビニにして生計を立てていた。

この美人のおかみさんに対抗してか、追手筋のビルの借金をテナントで返した経験のせいか、

菊は、現在、龍園のとなりの駐車場にアパートを建てて 経営したいと文龍に相談した。

駐車場の隣には釣具屋があったのだが、移転で土地が売りに出たのだ。この釣具屋の土地を購入して、駐車場と合わ せれば、アパートを建てられるだけの土地の大きさになる。

駐車場の半分は文龍の名義、もう半分は菊の名義であったので、そこに建物を建てるには、文龍の同意が必要であった。

釣具屋の土地代を借金し、さらに大きなマンションを建てるとなると、借金の金額は数億、菊が自由に使うお金を確保すると、その返済 は40年以上に及ぶ。

以前文龍がやっていた土地転がしは成功したが、このデフレの時代に通用しなくなっていた。マンションが老朽化すれば、価値もうす れ、入居者も減っていくとみた文龍は、マンション を建てることに反対した。

菊は、「自分はまだまだやれる」自信があったため、文龍の合意を得ず、釣り具店の土地を購入した。当時銀行も融資をしぶったが、龍 園時代に世話になった農協が融資してくれるというので、そこから大きな借金をして、マンション構築の契約をしてしまった。

この土地の購買、マンションに関して、文龍は不安を頂き、旧友であった、もと警察官に相談した。

マンション、土地といった、大きなお金が動いたときに、いろいろな人物が登場した。

文龍の旧友の人間が突然やってきたり、いきなり、台湾人が家に住み着いたりした。

菊は恐ろしくなり、家から出て、美香が所有している追手筋のビルの4階に住むようになった。

このとき突然やってきた人達から、文龍には、実は台湾に家族がおり、子供もいることが判明した。

文龍が帰化、結婚しなかったのは、台湾の家族のためだったのだ。

文龍の母親の葬儀に出席し、大歓迎された菊。あれはなんだったのだろうか?

菊は、娘二人を連れ、神戸で宝石商をやっていた文龍の友達を訪ね、文龍の家庭のこと、今の自分たちのことを相談に行った。

その宝石商の妻もまた、菊と同じ立場であり、宝石商も台湾に家庭があったことをその場で知った。

みんなそんな感じなのか!

菊は、これまで文龍が自分に惚れていて、自分が文龍よりも働いて収入も持っているという自負があったが、台湾に家庭があり、しか も、そんな台湾人は文龍一人ではなく、割と一般的なことであるということに愕然とした。

しかし、菊はへこたれなかった。自分は一人でやっていける。マンションを建てれば、収入も入る。娘二人は自分の味方だ。

そう信じて、菊は、兄の一男と娘二人を保証人にたてて、無理矢理借金をして、マンションを建ててしまった。

共倒れになることを恐れたのか、文龍は自身の名義であった、パチンコ屋の土地と、龍園の土地を売り払い、そのお金を持って、文龍は 台湾に帰ってしまった。
菊からみると、あのとき登場してきた、元警察官や旧友と名乗った人たちが、文龍をそそのかしたのではないか?とも疑った。

文龍が台湾に行った後、菊は文龍と全く連絡が取れなかった。というか、とらなかった。

邪魔者は居なくなり、借金は大きいものの、安定した収入を得、誰の面倒も見ることなく、自由を謳歌できる老後がやってきた。

しかし、その借金は巨大で、マンションの土地、建物のみならず、一家が住んでいた家と土地、それに、土地は菊、建物は美香の名義の 追手筋のビルまでもが、担保に入っていた。

マンションの土地の半分は借金が無かったのに、マンションを建てるのに、なぜ、マンションの土地建物以外のすべての所 有物が借金の担保に入ったのか?ということに菊は疑問をなぜ持てなかったのか。

龍園が赤字倒産し、文龍が実は家庭を台湾に持っていたこと、などなど、いろいろなことが急にたくさんやってきたからなのか。

この借金の保証人は、3名おり、大阪の兄、娘二人であった。その後すぐに大阪の兄は亡くなり、事実上借金は菊と娘二人が背負うこと なった。

しかも、税金対策として、家賃収入を娘二人にも分けたことにして、税金の一部も娘に払わせた。

当時娘達は、仕事や子育て、姑の世話などに追われ、菊がもちかけた話をほとんど理解しないまま、ハンコを押してしまった。そして、 菊の専属の税理士に言われるがまま確定申告して、税金を背負っていた。

お金のことは親子といえども、しっかり精査し、母親を怖れず、断るべきは断るべきである。


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