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だれかのそばにおいで

冗談じゃないわ 世の中誰も皆同じくらい悪い

中島みゆき『泣きたい夜に』より

泣きたくなるといつも頭に浮かぶフレーズ。
気に入っているのかもしれない。
思い浮かべて結局なみだが溢れてきて。
ひとりで泣きながら口ずさんだりしてる。

一人で泣くとなんだか自分だけいけなく見えすぎる

中島みゆき『泣きたい夜に』より

本当はこっちのほうが沁みているのかもしれない。
それは『蕎麦屋』の出だしともリンクしていて。

世界じゅうがだれもかも偉い奴に思えてきて

中島みゆき『蕎麦屋』より

私は長いことそれを忘れていたけれど。
この2曲は同じアルバムに収録されていたんだな。
どうして忘れていたんだろう。
まあ。そんなことはどうでもいいか。


じぶんを責めすぎる癖がある。
なんて言うとちょっといい人ぶってる感じがしちゃうけれどそうじゃない。
誰のせいにもできないことに気づいちゃったから。
じぶんしか責めるものが無くなっただけ。

現状を現状のまま受け入れられたら。
こんなことにはならないのかな。
現状を現状のまま受け入れるのが悔しくて。
こんなつまらないことに神経をすり減らしているんだろう。

なにものかになりたかった。
もう包み隠さず言っちゃうけど。
なにものかになりたかった。
でもきっとわざわざ言うまでもないよね。
ばればれだもん。私。

きっと父も同じような気持ちでいたんだろう。
そう思いだす時がある。
もうずっと前の話だけど。
精神的に完全にやられちゃった私に父が言ったの。

おまえが主人公の小説を書くからさ
そしたらいまのおまえも報われるだろう

父のたわごと

トイレに隠れて泣いたよね。私。悲しくて。あの日。

あとから聞いた話だけれど。
父は親戚からずいぶん責められたらしい。
おめえが若いうちからひとり暮らしなんか許すからアイツはあんなになっちまったんだって。
アイツってのは私で。
あんなってのは精神を病んだこと。

私は私が主人公の小説なんて書いてほしくなかった。
そんな形で報われたくなんかなかった。
それに本当に報われたかったのは父だったんだと思う。
小説は結局仕上がらなかった。
それでよかったんだと思う。

そういえば昔。
自分の小説の主人公の名前を全部私の名前に置き換えて贈ってくれた人がいたっけ。
もちろんそれは私に対してだけで。
できあがった本には別の名前の主人公がいたと思う。
でも私はそれですっかり怖気づいてしまって。
彼とはそれきり。
もしかしたらなにものかになるチャンスをくれる人だったかもしれないのに。

その頃には私もう神経がだいぶ参っていたし。
ううん。そうじゃない。
彼は障害者だった。脚を引きずっていた。
彼とは一度だけ一緒に食事にいったんだけれど。
下北沢の小さな洋食屋さんだった。
私が連れて行ったの。
その少し前にあこがれの先輩に連れて行ってもらったことがあって。

賑わっていた店内が一瞬しんとなって。
私たちが席に着くとすぐにまた賑わいだして。

私それきり二度とそこにはいかなかった。
あの時のいい人ぶったじぶんを思い出すといまでも吐き気がする。

彼も。
中島みゆきが好きだった。

人形みたいでもいいよな 笑えるやつはいいよな
みんないいことしてやがんのにな
いいことしてやがんのにな
ビールはまだか

中島みゆき『狼になりたい』より


泣きたいだけ泣けばいいって。
ひとは簡単に言いすぎてるよね。
なみだ枯れるまで泣けばいいだなんて。
なみだが枯れた人の話なんて聞いたことないわ。
泣き疲れて眠ることはあっても。

ぼろぼろの顔で目覚めた朝の情けなさったらない。

きっと。みんな。
みんなって誰だか知らないけれど。みんな。
泣きたいけど泣かない夜をいくつもいくつも過ごしているよね。
悔しくて。情けなくて。何より悲しくて。
哀しみはあんなにやさしいのに。
悲しみはどうしてこんなに悲しいんだろう。

一人で泣くとなんだか自分だけいけなく見えすぎる

中島みゆき『泣きたい夜に』より

ひとりぼっちで泣いたりなんかしたらだめよ。
孤独に。自責に。自己嫌悪に。
コテンパンにやられちゃう。
そんなの。
あんまりじゃない。

ひとりで泣ける人はちゃんと明日が待っている。
待っているはずの明日を見失ってもひとりで泣くの?
泣くのか。そうか。
まあ。人それぞれだもんね。

それでも。

誰かの。
どうか誰かのそばで泣けますように。
やり方は間違っているとしても。
たとえすぐに返り討ちに合うんだとしても。





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