握りしめた1000円札

初めてのおつかいは、
歩いて3分程の自動販売機で
好きなジュースを買ってくることだった。

夕暮れ時、
なぜか分からないが1000円札を渡されて。

4歳くらいだったかな?

外は暗くて、小さな私にとっては怖くて
1000円札を握りしめて、近くの自動販売機へ向かった。

4歳の私には自動販売機がものすごく大きく感じた。

でもここでビビるわけにはいかない。

飲み物を無事に買って家にたどり着かなくてはいけない。

たった3分程の距離だけど
初めてのひとりきりに私はとても不安で
とにかく早く帰りたくて
飲み物をどころではなかった。

とりあえず1000円札を入れなきゃ。と
握りしめていた1000円札を…

入らない。

身長も小さくて、さらに強く握りしめていたせいでぐちゃぐちゃになった1000円札。

無理に等しかった。

けれど、何も買えずにこのまま帰ってしまったら
きっと親はがっかりする。

がっかりする。

手ぶらでは帰れないという気持ちが幼心にあった。

だから背伸びをして、必死に入れようとした

…入らない。

時間ばかりが経過していく。
私はもう泣きそうだった。泣いていたかもしれない。

すると

「大丈夫?」と

小学校高学年くらいの男の子が声をかけてきてくれた。

泣きじゃくりながら、握りしめた1000円札を握る私の姿に

その男の子は察知してくれたのか。

「買うの?」

うなずく私。

「貸して」

1000円札を渡した。

ぐちゃぐちゃになった1000円札を
綺麗に整えて

そのまま自動販売機に入れてくれた。

「どれ?」

何がいいのか決めていなかった私は泣きながら指を指す

「え?これで本当にいいの?」

うなずく私。

男の子はとまどいつつも、商品を選んでボタンを押してくれた。

「はい!」

ブラックコーヒーだった。

「あとはない?」

うなずく私。

そのまま様子をみて男の子はお釣りレバーを下げた。

ブラックコーヒーと出てきたおつりを小さな私の手に渡してくれた。

「落とさないようにね」そう行って、男の子は笑顔で去っていった。

「…ありがとう。」

私は聞こえるか聞こえないくらいの小さい声で、呟いた。

そして走って帰った。

帰ると 家の灯りにほっとした。

おかえりーと笑顔で迎えてくれた母と

ブラックコーヒーに笑う父がいて。

よく買ってこれたね。偉いねと誉めてくれた。

私は「うん」とうなずいた。

私は男の子が助けてくれたことはなぜか言えなかった。

きっと、自分ひとりで買えなかったことに自分の中で、ちょっぴりへこんでいたからだ。

けれど20年以上たった今でもその男の子の事は忘れないし、

初恋の人は?と聞かれたら
私は二度と逢うことがない、ほとんど顔も覚えていない、その男の子なんだろうなあとぼんやり思っている。

しかし、今にして思えば

初めてのおつかいで、夕方に行かすなよ!
そして自動販売機なら1000札はやめてくれよ!
と、親にツッコミを入れたくなる。

でも、その時間で、1000円札をもっていたから

その男の子の優しさに触れることができたから。

良い思い出です。

てか良い人で良かった!

今の時代だったら、色々危ないとか言われちゃうよね。

その名前も知らない男の子、

見てる事はきっとないだろうし、覚えていないだろうけど

聞こえなかっただろうから

ここで伝えたい。

ありがとうと。

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