ワールドスタンダードなジャズ-宮地遼「now it is」
ガラパゴス化するJジャズ
ジャズがグローバル化するなかで、かつて多くの優れたミュージシャンを生みだしてきたJジャズのガラパゴス化が深刻だ。
ガラパゴス化は必ずしも悪いことではなく、本家ガラパゴス諸島のイグアナのように、環境に適応して独自の進化を遂げた生き物には生命力の強さを感じる。
しかし、‘ガラ携’に象徴される‘ガラパゴス化’は、時代の進化に取り残され、滅びゆく運命を背負わされる。Jジャズも、ジャズとは名ばかりのインストロメンタル・ミュージックであったり、ひと昔もふた昔も前のスタイルを踏襲するフュージョンであったり、粗野で荒削りなクラブジャズであったりと、とにかく、出だしの10秒を聴いてジャパンと分かるしろものが多い。
一方で、秀逸な人材は、他の分野同様、どんどん海外に流出し、海外で活躍の場を見出している。
Jジャズが絶滅の危機から逃れうるとしたら、やはりこの島国を飛び出して一度は世界の最先端のジャズシーンに飛び込み、そこで吸収した新しい血をJジャズに持ち込む必要があるだろう。
今回感銘を受けたアルバムは、‘Jジャズ臭さ’を微塵も感じさせず、ミュージシャンの経歴を見ても、申し分なくワールドスタンダードなジャズといえるだろう。
コンポーザーとしての才能が光る作品
ベーシストのリーダーアルバムというと、やたら超絶テクニックを誇示するようなものが少なくないなかで、宮地遼の「now it is」は、ベースはあくまで控えめで、むしろ彼のコンポーザーとしての才能が光る作品。もちろん、その確かなベースプレーも要所要所にちりばめられている。
今年27歳の宮地は、20歳で渡米、ニューヨークで本場のジャズを学んだという。渡辺翔太(key)、朝田拓馬(g)、井口なつみ(dr)といったサポート陣の息の合った演奏も手堅い。特にドラムの井口なつみに注目ならぬ傾聴したいところだ。
ギターを前面に押し出した曲が多いなかで、時折石川広行のトランペットが効果的に鳴り響く。
どう聴いてもNYの最先端のジャズとしか思えない洗練された音づくりに貫かれたアルバムに仕上がった1枚。