人生波乗りジョニー男!!
運動会の季節がやってきた。地域のコミュニティが強固なエリアでは今でも「地域運動会」が盛んだが、スポーツが苦手な自分にとっては、"WATCH MODE"一択であり、先日は娘の運動会を"WATCH"してきた。
8割くらいに実力をセーブしつつゴールする徒競走、目立ちすぎないよう絶妙なモーションで調整する玉入れを経て、ラストを飾るのはダンスタイムだ。事前に何を踊るのか聞いても答えてくれなかったが、おそらくMrs. GREEN APPLEではないかと何の根拠もなく勝手に決め付けて、脳内では『ケセラセラ』がエアプレイされていく。
軸となる大きなストーリーがあり、いくつかに分かれたセグメントで年少・年中・年長がそれぞれ踊るというまさに幼児版ロッケストラで、まだまだ小さい子どもたちが、懸命に踊る姿は社会の希望そのものだ。しばらくして娘のクラスの番がやってきたとき、あるメロディが流れてきた。まさに不意打ちのアッパーカットと称しても良いくらいの衝撃だ。
……!?
これは…!?!?
えっ……!!!!!!
時は遡り、今から23年前の夏。ある書店にて当時愛読していた音楽雑誌「WHAT's IN?」の最新号を手に取っていた。J-POP黄金時代を支えたレジェンドマガジンだが、この雑誌の最初のコーナーは各アーティストの新曲の歌詞が掲載されていて、まだ聞かぬメロディを夢想しながら、一曲ずつ没入していくのが密かな楽しみだった(Z世代にはわからぬ愉悦?)。
この曲の歌詞を目にしたとき、サビはCMで聞いていたものの、A・Bメロはまだ解禁されていなかったように思う。ただ、歌詞を読んだだけで、21世紀最初の夏は史上最高の夏になることが確約されたのではないかという強烈な期待感が10代だった私のグリップをがっつりと握っていく。
だって、「青い渚を走り 恋の季節がやってくる」だよ?
「いつか君をさらって 彼氏になって 口づけあって愛まかせ」だよ?
狂った果実のようにこの曲を聴き続けた夏だった。そして毎日のように口ずさみ、毎日のようにこの曲の良さを力説し、気付いたときには名刺に刻まれたキャッチフレーズは「人生波乗りジョニー男!!」だった(注:当時はネット活動が盛んだったため、プライベート用の名刺を作っていた)。
恋の季節は確かにやってきたような気がしたが、彼氏になって口づけあったことは一度もなく、どちらかというと苦い夏になってしまった。それでも青春の一ページというのは輝かしく、今でもあの頃の情景を夢に見ることがある。あれから四半世紀近く経っても、あの躍動感に満ちたイントロを聴くだけで、一瞬にして「少年」に戻れる。
さて、この曲とは一体何か。当時はサブスクもネット配信もなかったため、毎回CDをコンポに入れて聞いていたが、CDの内ジャケにデザインされたコーラを飲む肖像画(確か背景は水色)を見るだけで、自然とリズミカルなメロディが再生されていく。この世に存在する全ての楽曲の中で最も好きな曲、それこそが2001年7月4日にリリースされ、ミリオンセラーの大ヒットを記録した桑田佳祐『波乗りジョニー』だ。
…時は流れて2024年10月。スマホでビデオ撮りしていた自分の瞳に見えてきたのは、あの頃の「少年」の幻影だ。そして、スマホに映った自分とよく似た顔をしている女の子が陽気に踊っている姿を見て、"胸熱"になってしまい、感動の鼓動が止まらない。
…帰り際、この感動をどうしても共有したくて、
「あの踊ってた曲、いい曲だよね。パパ大好きなんだよ!」
と話しかけてみたところ、彼女は無情にもこう言い放った。
「あんまりすきじゃない…」
そこは嘘でも好きだと言ってくれよ~。現実はなかなか厳しい。でもきっとあの頃の自分と同じ年になれば、魅力をわかってくれるに違いない。『波乗りジョニー』よ、ありがとう。