神楽坂景観塾 02
第2回ゲストレクチャラー
設計領域 studio SR
新堀大祐+吉谷崇 Daisuke Shimbori+Takashi Yoshitani
2009年、新堀大祐と吉谷崇により設立。設計という職能の領域を広げることをモットーに、土木と建築の垣根を越えた設計活動を全国で展開。個人住宅から都市デザインまで、人々のよりどころとなる空間づくりを手がけている。グッドデザイン賞、土木学会デザイン賞など受賞多数。主なプロジェクトに長崎駅舎・駅前広場デザイン(継続中)、伊豆市道の駅、松山市花園町通り、富士宮市神田川ふれあい広場など。
前半は設計領域のお二人に事務所を立ち上げられてからの10年についてレクチャーを頂き、後半は参加者からの質問を募集し議論を重ねました。以下、レクチャー及び議論の内容についてレポートします。
レクチャー『これまでの歩み』
設計領域のお二人には、まずどういった問題意識を持って仕事をしているのかというレクチャーをして頂いてから、具体的なプロジェクト内容について紹介して頂きました。
−問題意識
まず初めに、街づくりや都市計画など対象が「縦割り」されることを指摘されていました。隣同士の河川と広場の整備であっても、連携されていないことが多いとのこと。また、「横割り」もあり、構想から始まり計画、設計、施工そして維持管理へとフェーズが分断されていることが問題であると考えていらっしゃいました。
職能としては一般的には、横にも縦にもぶつ切りにされているうちの一つを担当している感じだが、1つの担当に留まらず対象やフェーズを超えて仕事をしたいという意識を持って事務所を立ち上げられたそうです。
−プロジェクト
お二人からそれぞれ、これまで取り組まれてきた各プロジェクトについてご紹介いただきました。
尾鷲コーポラティブフォレストのPJでは、東日本大震災が発生したことをきっかけに当初の作業道計画を修正し、事前復興計画として取りまとめたことをお話し頂きました。住民の方々とのワークショップやまちあるきを行いながら、日常時と災害時のそれぞれにおいて役割を持たせる計画となっていました。
陸前高田市の学校を中心とした復興まちづくりでは、住民と一緒にフィージビリティスタディを行なったことで、フィジカルな面も見据えながら計画が出来たのではないかと仰っていました。また、このプロジェクトの特徴的な点は設計プロポーザルの実施にあるそうです。設計者によるプレゼンテーションを市民に公開し、復興に対する提案を示すことで復興に寄与できないかと考えられたそうです。
長崎駅舎・駅前広場のPJでは、プロポーザル時の提案と業務開始後の設計デザインのお話を詳しく紹介して頂きました。ワールドクラスの資産を多く持ちながらもまちが分かりにくい長崎において、駅が「都市イメージの核」になるような拠点としての提案をされました。
松山市花園町通りの道路空間の再配分プロジェクトでは、交通解析や社会実験を行い計画を具体化していく過程のお話をして頂きました。大々的な改変に対する地元住民からの戸惑いの声もあったと言います。その声がきっかけで、その賑わいは誰のためのものなのかを考えたそうです。非日常から日常の使いこなしを見つけていくことで、段々と日常的に利用され賑わっていくのではないかとお話頂きました。
富士宮市では浅間大社ふれあい広場の設計を担当されており、その際は桜や富士山など場所の価値を顕在化することをコンセプトとした広場空間を実現されています。神田川の河川整備においても富士山を感じられる空間にするなど、まちの持つ価値を顕在化しつないでいく取り組みをご紹介頂きました。また、そのあとに続くまちかど広場とベーカリーの設計では、街に面した民間の店舗ということで、個人の立場から公共を考えるということを実践されたそうです。
飯田市リニア長野駅では、リニアという次世代の技術の塊が存在する空間に対して、どう風景を作っていくかがポイントとなるプロジェクトのお話でした。巨大で暴力的とも言える存在をローカルな技術によって受け入れる提案をお話頂きました。
-新たな問題意識
現代の情報社会や新しい技術の登場によって、個と公の関係性は変わりつつあると指摘されていました。自動運転を始めとする新技術がどう空間を変えていくか、また風景や暮らしを変化させていくかについて考えなくてはならないとお話頂きました。
これまでの10年は設計者の立場から手を伸ばして様々なことに取り組んできたが、全部を行うことの限界は感じていると言います。これから先は設計デザインに集中していくかもしれない、とも仰っていました。
ディスカッション
ここからは、レクチャーを受け寄せられた質問や疑問を元に議論された内容について記しました。(ディスカッション内容は会場も含めた文章となっています)
−仕事をしていく中で
“通常の都市計画は計画から設計へと落ちていくトップダウン方式ですが、お話を聞くと計画から設計へ、そしてまた計画へと展開していくボトムアップ的な都市計画をされていて面白いなとも思いますが、それは各段階で地元や市と深く関わり、信頼を得ないと難しいのではないでしょうか。どう仕事を繋げていっているのでしょうか。”
一つは、計画段階から関わっていることで、次のフェーズに対しても多少は早めに動くことができていると思います。次の動きに対する提案を仕込んでおくことが大事なのではないでしょうか。
“経済や経営まで踏み込まなくてはいけないように、対象が変化すると様々なことを勉強していかないと難しいのではないでしょうか。”
知識も経験もないので勉強していく必要があると思いますが、最近は専門家とタッグを組むことが増えています。事務所としては土木と建築の分けがないので、そこを分け隔てなくアプローチ出来ることは強みの一つだと思います。商業的な部分が弱いことが多いので改善していきたいと思っています。
−依頼される内容の変化
“どうしたらいいか分からないという地域からのリクエストは増えているのでしょうか。”
駅の話だと分かりやすいですが、駅の誘致をしてもそこから先が分からないという状況があると思います。事業として決まったことに対して、コンセプトから求められるということがあります。
“陸前高田でのプロポ実施は、元から考えていたことでしょうか。”
自分たちは設計事務所なので、もちろん設計が出来たらいいと思ってはいますが、震災復興という状況でもあったので、単体のプロジェクトではなく取り組みが広がりを持っていくほうがいいと考えました。それに加えて、この時期は色んな建築家が被災地に対して設計の提案をしても受け入れられていない状況というのが散見されていたので、そのエネルギーとフラストレーションのパワーをうまく活かせればと思い、裏方に回って取り組むことにしました。
−地域らしさとは
“地域らしさ、街らしさについてどう構想を練っていくのですか。”
基本的に地域らしさは無理やり作るものではないと思います。なぜそんなに欲しがるのか、くらいの感覚です。自分たちとしては当たり前のことと思っていますが、地域の人と話をするなかで形にしていくものではないでしょうか。
”まちをよく歩いている感じがしたのですが、やはりそれは大事なのでしょうか。”
まちはよく歩くようにしています。地域らしさやコンセプトは常に求められますが、苦手ですね。長崎のプロジェクト時には、コンセプトやモチーフに出来るものが多かったので、「らしさ」を言い切ることに抵抗がありました。
”それは、デザインをやっているとふっと出てくるのか、または絞り出すものなのでしょうか。日常に対して価値を得ようと思うと、そんなに簡単に分からないと思うのですが。”
デザインや設計の時に意識することは、地となる空間をつくるということです。こういう空間があればこんなことが出来るんじゃないか、と思いながら設計をしているわけですが、確かに日常を豊かにするためのデザインは難しいなとも感じます。
−地元住民との関わり
“設計者としての利用者との関係性についてお聞きしたいです。また、地元住民からの理解を得られたことに対して、どういうプロセスがあるのでしょうか。”
反対するのは変わることそのものへの心配であって、何度も通って話をして不安を取り除いていくしかないと思います。あとは、実際に出来上がる空間を見て欲しいとしか言いようがないですね。
模型をつくったり絵を描いたりして、伝え方としては出来る限りのことはやりますが、伝わらないことの方が多いと思います。
”それは実感としてありますが、結果としてうまくいっているのは何が響いた結果なのでしょうか。”
富士宮のベーカリーに関してはクライアントワークなので気に入ってもらえたからだと思います。一方、街路のプロジェクトについては必ずしも沿道の人たちから信用されていたということではないのかなと思います。
“出来上がる空間の使い方は聞いたりするのですか。”
ワークショップ等で聞きます。空間が出来上がった段階では使いこなしがぎこちなくてもだんだん成熟していきます。花園の場合は活用の社会実験を実施できたことが大きかったと思います。
“住民参加の先にあるものは何ですか。”
自分たちは東京にいて、どこへ行ってもよそ者です。その場所のことは住んでいる人が一番良く知っていると思いますが、外の人間でないと分からないこともあると思います。地元の話だけではなくて、グローバルとローカルをどう繋げるかが自分たちの仕事だと思っています。
−設計の領域を超えて
“設計者の立場から横にも縦にも手を伸ばしていくスタンスについて、実績は積んできていると思いますが、方法論的なものはあるのでしょうか。また、この方面は厳しかったなということはありましたか。”
維持管理や使われ方の話については、設計段階で考えています。その仕組みを設計と同時に作りながらやっているということはあります。
“これだけの事が出来ているのはなぜなのか。“
組織が小さいのでフットワークが軽いというのはあると思います。数を通った方が信頼も得られると思うので、フットワークは重要だと思っています。
−最後に
“お二人のモチベーションはどこにあるのでしょうか。大変だと感じないですか。”
やりたいことが出来ているとは思いますが、何故やりたいかと聞かれるとわからないですね。自分がプレイヤーになってやっている人は自分が救われるためにやっている側面もあると思いますが、僕らは意外と自己実現の気持ちがないのかもしれません。義務感や使命を感じているという点では土木分野の出身であることが大きく影響していると思います。
“次にどこを設計したいですか。”
大きいプロジェクトに関われる機会が多かったのですが、直接設計ができないこともあるのでストレスもありました。なので、小さめのプロジェクトを密度高くやりたいですかね。スケールでいうと1/200くらいで考えられるような仕事です。
自分の暮らしと仕事はあまり結びつけてきませんでしたが、空間を作ることで自分の暮らしが変わった、みたいなことも出来たらいいなと思っています。
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第2回神楽坂景観塾には前回よりも多くの方にご参加頂き、活発な議論が行えたのではないでしょうか。設計領域の新堀大祐さんと吉谷崇さんからはご自身の設計者としての立ち位置と具体的なプロジェクトの内容をお話して頂きました。大変貴重なお話を頂き、ありがとうございました。
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