光る君へ 三条院と藤原道雅
大河ドラマ「光る君へ」
木村達成さんが演じる三条天皇は
百人一首の三条院です。
帝は退位すると「上皇」となり
「院」の敬称で呼ばれます。
三条天皇は目の病(大河ドラマでは耳の具合も悪い)を理由に藤原道長から譲位を迫られました。
万策尽きて退位することを決めた夜、明るい月を見て詠んだ和歌が百人一首に撰ばれています。
こころにも
あらでうきよに
ながらへば
こひしかるべき
よはのつきかな
和歌の意味
本意ではないが、辛いこの世に 生きながらえたなら きっと いつか恋しく思い出されるであろうな。この夜更けの月も。
三条天皇は30代まで東宮として過ごし、ようやく即位したものの、在位はわずか4年半でした。
退位の決心をした、まさにその時の和歌は 辛く苦しい胸の内を そのままに感じられます。
満ちた望月を詠んだ道長(演:柄本佑さん)と
失意の目に映る月を詠んだ三条院が対照的です。
三条院とゆかりの深い歌人が「光る君へ」に登場しています。
福崎 那由他さん演じる藤原 道雅(ふじわらのみちまさ)です。
藤原伊周(ふじわらのこれちか 演:三浦翔平さん)の長男ですね。
道雅は、祖父 藤原道隆(みちたか)にも可愛がられましたが その道隆は早くに病死、父 伊周は没落の末 亡くなり、後ろ盾を失って出世を望めませんでした。
百人一首では
左京大夫道雅(さきょうのだいぶみちまさ)です。
最後の役職が京の都の東側を警備する役所の長官であったので、「左京大夫」と呼ばれました。
道雅は当子(まさこ・とうし)内親王(ないしんのう)と恋仲でした。
当子内親王は伊勢の斎宮の任を終えて京の都へ戻り、道雅と恋に落ちたといいます。
当子内親王の父 三条院の逆鱗に触れ、道雅と内親王は仲を引き裂かれました。
この時 道雅が詠んだ和歌が百人一首に撰ばれています。
いまはただ
おもひたえなむ
とばかりを
ひとづてならで
いふよしもがな
和歌の意味
今はただ、あなたへの想いを諦めてしまおうと そのことだけを、人づてではなく(あなたに直接)伝える方法があったらいいのに。
三条院が命じた見張りにより、二人は逢うこと叶わず、和歌のやりとりさえも難しかったでしょう。
当子内親王は悲しみのあまり病を患い、出家の後 亡くなってしまいます。
直接想いを伝えることが叶わないと知ると、より深い悲しみが感じられます。
道雅は生涯 従三位に終わり、中関白家という家柄を考えても不遇でした。
出世の希望なく、恋も終わり、道雅は人生に失望したのでしょう。賭博場で暴れたり、人に暴力を振るったり(ふるわせたり)し、荒れに荒れた素行から「荒三位」(こうざんみ・あらさんみ)と呼ばれました。