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パワーエレクトロニクス研究室運営 ~これから研究室配属される皆さんへ~

はじめに

 大学3年生や大学院から他大学に進学する場合には,どこの研究室に所属するかが大きな興味事項かと思います。私も学内外の研究室の噂話はたくさん聞きますが・・・何が本当なのかって全然わかりません。そこで,私の研究室については私自身が直接発信する必要があると考えたので,この記事を公開することとします


基本方針

 次世代の研究者・技術者の育成において、私が最も重視しているのは学生の自律性です。研究室では、学生が自ら考え、判断し、行動する力を養うことを重視した指導を行っています。具体的な研究活動において、学生自身が回路の設計~製作~実験~解析~論文執筆まで一貫して携わります。部品の選定から、測定・計測作業、さらにはCADを使用した回路図面の作製まで、可能な限り学生自身の手で行います。これは、実務で必要となる実践的なスキルを確実に身につけてもらうためです。もちろん,教員や先輩が指導したり議論をしながら,自分自身の研究テーマについて携わることになります。

段階的な目標

研究室では、学年に応じた目標を設定しています。

  1. 学部4年生:電気学会全国大会での発表

  2. 修士課程:電気学会研究会の発表、IEEE主催の国際会議の発表、IEEEや電気学会の学術雑誌への論文投稿1件

  3. :博士課程では、学術論文2本の執筆・投稿、国際会議での発表。これに加え、日本人の博士課程学生の場合は3ヶ月以上の海外留学を推奨し、国際的な視野を広げる機会を提供しています。

大学院生への指導

大学院生の指導においては、特に自主性を重視しています。研究テーマは、研究室に所属した学生の希望と教員側の希望を調整して決定しています。さらに、研究の進め方は教員と学生が議論して決定します。もちろん、類似したテーマを持つ学生間でのディスカッションは積極的に促していますが、これも学生主体で行われます。企業との共同研究やプロジェクトに携わる場合には、外部機関との研究打ち合わせにも参加してもらい、実践的な議論の能力向上も図っています。
 各自の研究の進捗状況は、毎週行われる研究室全体で行うミーティングで共有しています。全員が集まり、それぞれの研究の進捗や課題、新たな発見などを発表する場です。このミーティングでは、各々が取り組む研究内容を互いに理解し、新たな視点やアイデアを得ることを目的としています。個別の研究進捗については,個別にスケジュールを調整し議論する場を設けるようにしています。これは、全体ミーティングで研究進捗の大枠を把握した上で、個々の研究にじっくりと向き合う時間を確保するためです。

M1主導の研究室運営

 研究室の運営は、M1の学生が中心となって行っています。PCや備品の管理、研究室全体のスケジュール調整、さらには研究室飲み会などのイベント企画まで、M1が主体的に取り組みます。飲み会は不定期に開催され、研究室全体の親睦を深める良い機会となっています。研究室メンバーだけでなく、卒業生や企業との共同研究者も参加することもあります。

研究室設備

 パワーエレクトロニクス回路の設計・製作を行うのに必要不可欠な基板加工機を完備しています。最近は大学の設備で3Dプリンタが使えるようになったので、様々な用途で活用しています。測定器としては、オシロスコープ、パワーメータ、インピーダンスアナライザーなどの基本的な測定器はもちろん、半導体の特性評価のためのカーブトレーサーやCV測定器など、研究に必要な設備が揃っています。ソフトウェアも、パワエレ回路用シミュレーションソフトや電磁界解析ソフトをはじめ、研究に必要なものを用意しています。研究に必要な部品は、インターネットサイトで購入することが多く、全員が使うコネクタや基板以外の電子部品はその都度購入しています。

研究費

 研究活動には、学生さんが想像する以上に費用がかかります。実験に必要な部品や資料、測定器の購入・レンタル費用,研究員の雇用はもちろん、学会発表のための旅費・参加費、論文投稿費なども必要です。
 大学では、一般的に「校費」と呼ばれる運営費が各研究室に配分されます。本学では「基本研究費」と呼んでいますが、大学によって名称は異なります。基本研究費に加えて、学生一人当たり○○円が配分される場合もあります。ただし、この金額は大学によって大きく異なるのが現状です。
 さらに、研究室によっては、教員が外部から研究費を獲得している場合があります。主なものとしては、

  • 科学研究費補助金(科研費):文部科学省が交付する競争的研究資金

  • 省庁関係の提案公募研究:各省庁が公募する研究課題に応募して獲得する研究費

  • 企業との共同研究:企業から委託を受けて行う研究

 などが挙げられます。これらの外部資金獲得状況は、研究活動の活発さを示す指標の一つと言えるでしょう。科研費の獲得状況はデータベースで比較的容易に調べることができますが、省庁関係や企業との共同研究費については、情報公開されていないケースが多いです。

 教員によっては、自身のウェブサイトなどで獲得研究費を公開している場合もありますが、すべてを公表しているとは限りません。研究費の使い道や管理方法も、研究室によって異なります。研究室見学や面談の際に、研究費に関する質問をしてみるのも良いかもしれません。ただし、研究分野によっては、高額な実験設備や消耗品を必要としない場合もあります。 理論系の研究や、コンピュータシミュレーションを主とする研究などは、比較的費用がかかりにくい傾向があります。そのため、外部資金の獲得状況だけで、研究室の活発さを判断するのは適切ではありません。

研究テーマ・実績

 当研究室では、パワーエレクトロニクスに関する要素技術的な内容が多い傾向にあります。最近の「パワーエレクトロニクス」という単語は非常にす裾野が広がってきておりますが、研究対象としては、パワーエレクトロニクス回路やその応用分野の研究開発が対象となっています。そのため,国内での活動は電気学会の産業応用部門,半導体電力変換研究会が主戦場となります。投稿論文は,電気学会産業応用部門誌やIEEEに投稿しています。

最近の論文発表は、Google ScholarやResearch mapに掲載されていますので、そちらをご覧ください。

https://scholar.google.com/citations?user=mWXJmmYAAAAJ&hl=ja&citsig=AMD79opIIfo3POpbhGNazxSQkPqlQJKL6g

ワークライフバランス

研究室運営において、学生の健康と生活の質を重視している点です。徹夜作業や土日出勤は推奨していません。なぜなら、研究室の最終目標は研究成果の追求ではなく、学生が社会で活躍できる力を身につけることだからです。なお,アルバイトに使う時間については適切な範囲となることをお願いしています。

自立した研究者・技術者の育成

このような指導方針の根底にあるのは、「自立した研究者・技術者の育成」という考えです。研究成果を上げることは確かに重要ですが、それ以上に、学生自身が力をつけ、社会で一人で生き抜ける力を養うことを重視しています。私たちは、この方針こそが、将来の技術革新を担う人材の育成には不可欠だと考えています。

最後に

研究室選びにおいて、研究テーマや設備と同じくらい重要なのが、教員の人間性です。教員と学生は、研究活動を通して密接に関わることになります。指導方法やコミュニケーションスタイル、性格などは、研究室での生活に大きく影響します。授業で見せる姿は、教員の一面に過ぎません。研究室では、学生とより近い距離で接するため、授業とは異なる一面を見せることもあります。本当にその教員と相性が合うのか、指導スタイルは自分に合っているのかを知るためには、実際に会って話してみるのが一番です。研究室訪問や個別面談などを積極的に活用することをお勧めします。教員の人間性を知ることで、研究室での充実した生活を送れる可能性が高まると思います。

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