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エコロジカル建築
アメリカ留学の初期は、それまでに興味のあるものをなるべく直に体験したいと思っていました。その中の一つが、エコロジカル建築です。消費社会が続き、環境負荷が高く、公害や貧富の差などの社会問題を改善するような象徴的なプロジェクトとして、実践している方々に憧れ、実際にいくつか伺ってみました。当時、エコロジカルな思想に関する書籍をいくつか読み漁り、パーマカルチャーについても興味がありました。
ガイア・シンフォニー
今、ふと思い出したのですが、エコロジカル建築やパーマカルチャーに興味を持ったのは、やはり大学時代にネイティヴ・アメリカンの思想や日本人のアニミズムの思想など、消費社会、物質主義的な生活に疑問を持っていたからだと思います。そういった思考でいると、やはりそういった人や情報に出会うことになりました。大学時代にスポーツ・ジムのアルバイトをしていた時に、勤務が一緒になった女性の方がいらっしゃいました。その方と会話をしていた時に、私の今後のことや興味の話をしたら、「ガイア・シンフォニー」という映画を紹介してくださり、上映会があるからぜひ行ったほうが良いと勧められました。龍村仁さんというドキュメンタリー映画監督さんが、世界で偉業を成し遂げている精神性の高い人たちを追いながら、人間の可能性を掘り下げ、地球の声を聞くような体験や物語に焦点を当てた美しい作品でした。そのあたりから持続可能な社会や生活に関するプロジェクトを応用になりました。
コヤニスカッツィ
また、同じ頃だったと思いますが、ネイティヴ・アメリカンの思想などを追っていたのもあり、「コヤニスカッツィ」という地球上の人類史を台詞やナレーション無しの映像とフィリップ・グラスの音楽で構成された映画に浸っていた思い出もあります。
アース・スチュワード・インスティテュート
こういった背景から、長野県駒ヶ根市にあるアース・スチュワード・インスティテュートのことを知り、植物を使った水の浄化システムを作るワークショップに参加しました。
名古屋市の中心地に近い比較的自然が残る地域で生まれ育ち、旅行が好きな両親に子供の頃から近隣の山や海へ連れて行ってもらっていましたが、自然の中でエコ建築を実践しているところへ伺うのは初めてでした。当時、海外の事にとても敏感で、アメリカの方がそのエコロジカル建築を手掛けたという先駆的な活動にとても心地いい衝撃を受けたことを覚えています。
ワークショップの当日は、循環型エコ・ツリーハウスや住居などの建物や仕組みを見せてもらい、その後、近くの川へ行って、葦を採取し、エコ建築の一部に準備されていた場所に移植すると行った内容で、気持ちいい汗を流し、主催者のダグラス・ファーさんのご家族や参加者の皆さんと美味しくお昼ご飯を食べたことも思い出します。
アースシップ・バイオテクチャー
テキサス州ヒューストンへ留学し、1年が経つ頃、確か2005年6月頃だったと思います。ニューメキシコのタオスにある「アースシップ・バイオテクチャー」へ2週間ほどワークショップに参加したのを思い出します。いつどこで知ったか忘れてしまいましたが、電気を自己発電し、建築物自体が水を濾過し、一年中エアコンが必要なく、建物の中で植物が育てられ、かつ、建築素材は空き缶や空き瓶、使い古されたタイヤなど、消費社会の象徴的なもので作られた未来的な外観のエコ建築でした。マイケル・レイノルズさんという方が、1970年代頃から考案し、整備してきたプロジェクトです。彼の周りには、多くの仲間が自然と集まり、どんどん規模が大きくなってきていました。
ワークショップでは、アースシップ・バイオテクチャーについての基本的な考えや仕組み、建物の見学などのオリエンテーションから始まり、実際の建物で滞在しながら、敷地内の新たなアースシップを建造するというものでした。そこは夏は暑く、冬は雪が降るエリアで大きな空と荒野が続く環境でした。朝日、夕日、夜にはミルキーウェイ、日本語で天の川が見られる地域でした。また、近くにはタオスという町があり、かねてからネイティヴ・アメリカンの居住地としても注目していたので、自然や宇宙などの捉え方の点で、それぞれの生活スタイルには何か共通するものがあるように感じられました。朝6時ごろには起床し、朝食を食べ、8時頃からタイヤに土を叩き込んだり、空き缶や空き瓶を積み重ね汗臭くなり、ランチにサンドウィッチを食べ、作業後には仲間でビールを飲んで過ごす愉快な経験ができました。一度、リオ・グランデ川沿いにあった隠れた小さな温泉に連れて行ってもらった時の爽快感などは、もう一度味わいたいなと思い出します。代表の方やチームの方にはとても良くしていただきました。また、現在は映画監督として活躍されるハナー・ジャヤンティさんとも出会うことができ、大変よくしていただいたのを思い出します。
アドビ・アライアンス
最後に、アドビ・アライアンスの思い出です。ヒューストンには、アートを通して地域社会の問題解決や生活向上などを目的として立ち上がったProject Row Housesというアート団体があります。リック・ローさんがリーダーとなり、仲間のアーティストたちと積極的に活動され、今では全米、世界にも知られるような団体です。ちょうどアメリカ留学をして2年が経った頃、実は2年目はコミュニティー・カレッジとアートスクールの二つに通いながら、作品ポートフォリオも作っていました。Project Row Houses主催で、ヒューストン近郊の大学生向けに滞在制作と展覧会企画があり、それに推薦いただきました。1ヶ月ほどの滞在制作と展覧会でした。確か、その頃までには、Project Row Housesの方々などともしっかりと面識ができ、いくつかプログラムに参加したのを覚えています。Project Row Housesについては、たくさんいい思い出があるので、また、次回以降に書かせていただきます。そのプログラムの一つで、サイモン・スワンさんの講演会がありました。サイモン・スワンさんは、ヒューストンにあるthe Menil Collectionの立ち上げにも大きく関わった方で、また「アドビ・アライアンス」というエコ建築を手掛けられていました。テキサス州プレジディオを拠点にメキシコとの国境を超えたオヒナガというところで、アドビ(日干しレンガ)で建造するワークショップの開催が予定されているというのを聞いて、すぐに参加申し込みをしたのを思い出します。日干しレンガの考えは、輸送による経済的負担や環境負荷が少なく、地域にある慣れ親しんだ素材である「土」と手の作業でできる安全な住居に住んでほしいというエジプト人建築家のハッサン・ファトヒーさんの思想を受け継いだものでした。
実際に赴いた時には、誰もいない荒野に佇むアドビ・アライアンスの建物を見学させてもらい、毎日アメリカとメキシコの国境を行き来しながら、土を練ったり、日干しレンガを規則的に積み上げたりして、泥まみれになりながら作業をし、夜にはアドビの建物の屋上で、寝袋に入り夜空の天の川を見ながら就寝した日々を思い出します。
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