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不正情報を入手した時の対処方法

 私は横領や詐欺を扱う知能犯担当の刑事経験が長く、会社役員や従業員の横領、詐欺などの不正事案を捜査することが多々ありました。そもそも企業が警察に訴えてくるケースは、当事者による被害弁済が不可能だったり、所在不明になった等の理由で「刑事事件やむなし」という判断が下された結果です。企業としてはなるべく表沙汰にせず、内々で処分することが多いので警察が関与するのは不正事案の中でも一握りだと言えるでしょう。


 社員の不正行為にはいろいろな種類がありますが「横領」はその筆頭です。私が経験したものでは被害額12億円という横領事件もありました。この会社は資金力がありましたから倒産は免れましたが、下手すると倒産する会社もあります。横領の怖いところは天井知らずという点です。横領によって社員の生活レベルは上がっていきますから手口も大胆になり、横領金額も増えていきます。「不正をやめたらビルが建つ」とも言われますが、隠れた売上、失った売上は大きいのです。


 さて、社員の不正はどんな形で発覚することが多いでしょうか。税務署の税務調査で発覚するケースもありますが、やはり身内の噂話がきっかけで発覚することが多いと思います。周囲にいる役員や社員はなんとなく不審感を感じ、噂話をします。不正社員の生活や遊びが派手になったりするので変化がわかります。その他には取引先からの情報もあります。社長同士が何気ない会話をしていて自社の不正のヒントをもらうこともあります。
では、不正の端緒情報を入手した場合はどう対処したらよいでしょうか?当然ですが「火のないところに煙は立たない」ので情報の真偽を確認しなければなりません。つまり事実確認をしながら証拠収集をしていきます。当該社員に悟られないように人証、物証を集めていきます。それは不正を確定し、当該社員を懲戒処分にするためです。

ここで一番厄介なのは証拠がなく、最終的に当該社員に話を聞いても否認するケースです。会社としては白黒つけられないので処分もできず、配置換えもできないという状況になってしまいます。ですから、少なくとも否認させないために、また、解雇した時に訴訟に勝てるための証拠を集めることが重要なのです。
 次に就業規則で懲戒解雇に関する規定を確認します。就業規則に明確な解雇事由がないと原則として懲戒解雇はできないからです。そして証拠が揃ったら当該社員から事情聴取をします。最低二人の社員で記録化しながら聞きます。最初は犯人とは決めつけずに質問していきます。事実を認めて被害額が確定したら被害をどう弁済させるかを決め、「支払誓約書」を取得します。また本人が横領を認めない時には本人の言い分を記載した「弁明書」を提出させましょう。これは後に裁判で争ってきた時に裁判になる前の本人の言い分と裁判の時の本人の言い分に矛盾がないかを明らかにしておくためです。事実を認めた時は「懲戒解雇通知書」を作成して本人に交付することになります。これら手順を間違えると逆に企業側が訴えられて多額の支払いを命じられるという重大なリスクがあります。ですからいざという時のために日頃から学んで熟知しておくことが重要です。

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