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モゴック産ルビーを求めて、銃声鳴り響くタイ・ミャンマーの国境へ

カラッツ(KARATZ)代表の小山(おやま)です。今回はモゴック産ルビーを求めて、タイのメーサイ(Mae Sai)、ミャンマーのタチレク(Tachileik)という2つの町に訪れました。

2つの町、というか2つの国は陸続きになっていて、検問をくぐりさえすれば日帰りで2つの国を往復することができます。ちなみに川を渡るとラオスというまた別の国になります。

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「3つの国の国境」という言葉から連想されるとおり非常に危険な地域で、夜ホテルで寝ていると遠くでパラパラパラと銃声が聞こえます。領土争いによる現地民と国境軍との戦闘音だそうです。

知り合いの日本の宝石業者さんからはこんなふうに心配されました。

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「ナイフ突きつけられ」「腐敗した悪い人」という強烈な日本語が並び、一瞬ブルッと震えが来ます。

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心なしか、町行く人々の目もどこか鋭く感じます。

そんな場所になんでわざわざやって来たの?というと、「モゴック産ルビー」のデッドストックを探すためです。

モゴック産ルビーとは?

下記の記事に詳しい説明がありますが、

モゴック産ルビーとは言ってしまえば「世界最高峰のルビー」です。

ルビーのベストカラーは「ピジョンブラッド(鳩の血)」と呼ばれる濃い赤色ですが、一口に「濃い赤」と言っても産地によって細かな色味がかなり異なります。

モゴック産のルビーの特徴は「透明度の高さ」と、混じりっけの無いピュアな「赤色」。まさに「ピジョンブラッド」の名に相応しい、極上のルビーが過去に産出されています。

ルビーにしては大粒のものがとれていることでも有名で、特に2ct(0.4g)を超える大きさのものには高い値がつきます。

実際、上の記事を読むと、「過去、世界で最も高い価格が付けられたピジョンブラッドルビーのTOP3」が全てモゴック産であることが分かるかと思います。しめてお値段が9億円と9億円と34億円。なおルビーは産地鑑別のできる石です。

残念ながら現在ではモゴックでのルビー産出は枯渇しているため、デッドストックを探すしかありません。

そのほとんどは既に世界の宝石市場をグルグルと回っているものと考えられますが、モゴックに近いメーサイやタチレクでは地元の宝石街があるため、町に眠っているモゴック産ルビーを探しにやって来たというのが今回の出張の背景です。

まずはタチレク(ミャンマー)へ

タチレク(ミャンマー)の最寄りであるチェンライ空港(タイ)へは、バンコク経由で1時間半ほど掛かります。チェンライ空港からタチレクまでは車でさらに2時間ほど。陸路で国境を通過します。

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こちらがその国境付近にある検問の写真。

ちなみにチェンライ空港からタチレクに行くまでに、このような検問を2回通過します。帰りはより厳重になり検問は4回になります。毎回スーツケースを全開にされ、持ち物を全て確認されます。

彼らが一番警戒しているのは不正薬物。以前は日本のパスポートがあれば問題なかったのですが、近年日本人が薬物売買で摘発されたため、日本人へのチェックも厳しくなったということです。

改めて日々の日本での平和な暮らしとは別世界です。

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地元の寺院にお参りします。どうかモゴック産ルビーが見つかりますように。そして無事に帰れますように。

タチレク(ミャンマー)の宝石街

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タチレク(ミャンマー)の宝石街はこんな風景で、基本的には路上で宝石が売られています。

傘の下はこのようになっていて、どちらかというと観光地の土産屋さんの様相を呈しています。そこまで高級な印象は受けません。

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非常に特徴的なのが宝石の売り方。

通常こういったケースでは、宝石は「ルース(裸石)」といって、石だけの状態で売られています。一方ミャンマーでは規制によってそれが認められていません。ミャンマー政府(ミャンマー軍)が国内の鉱山を国有化しオークションを仕切っているため、民間でのルース販売自体が認められていないからです。

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そのため、ルースはこのように「わざわざメッキの枠に仮止めされて」売られています。メッキの枠にはほぼ資産価値が無く、またデザイン性も低いので外すしかないのですが、ミャンマー内にはそれを外してくれる業者がいません。

結局、隣国のタイに行って(基本的にはバンコクまで飛行機で行って)外す必要があります。このように国が積極的に「国力を低下させる」施策を行っていることについて、モヤモヤしながらミャンマーをあとにしました。

モゴック産ルビーは見つけられませんでした。

そしてメーサイ(タイ)へ

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国境をまた超え、ミャンマーからタイに戻ります。タイはメーサイという町です。ここにも宝石街があります。

メーサイでの宝石の仕入れ方は大きく2つに分かれます。すなわち「プロから買う」か「ストリートで買う」かです。

メーサイでプロの業者から石を購入するには、事前にアポをとる必要があります。事前にアポをとらないと・・・、

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こうなります。

店が開いてないのです。どこもシャッターが閉まっています。看板すらありません。

これを見てリカラットのメンバーは「つぶれたの?」「シャッター通りなの?」と言っていましたが、そうではありません。

まず彼らは通常決まった取引先とだけしか売買をしません。また治安が悪いので事前のアポが無いとシャッターすら開けてくれません。看板も危ないのでありません。私も知り合いの業者を通じてアポをとり、ようやく中に入れてもらいました。

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入ると中庭のようなところに案内され、こんな形で宝石をドサッと渡されます。ここから炎天下のもと、何百個という宝石の中から良い品質のものを選ぶ作業が始まります。

なおメーサイのプロの業者が扱う主な品は、ミャンマーから持ち込まれた「原石」です。上の写真はルビーなのですが、少し色がくすんで見えるのはそのせいです。

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ちなみに「原石」と「ルース」の違いは上のとおりで、カットが施されると「原石」が「ルース」になります。

こんな具合で業者を10件ほど回り、何百個もの原石を調べましたが、結局、モゴック産ルビーは見つけられませんでした。

そしてメーサイのストリートへ

タチレク(ミャンマー)にも無い、メーサイ(タイ)のプロの業者のところにも無い、となると、最後の手段が「メーサイのストリートに立つ売り子から購入する」という方法です。

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これはかなりのギャンブルです。なぜなら彼らの在庫は9割以上が偽物だからです。彼らのせいで「メーサイといえば偽物」といったイメージが世界の宝石商で共有されています。私の知り合いの香港の業者でも「二度とメーサイには行きたくない」と言っていた人がいました。

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それでも、これしか手段が残っていないので行くしかありません。道の真ん中に大きな机と椅子が置いてあり、そこに座るとストリートの売り子たちが集まって来るという仕組みになっています。

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ストリートの方のメイン商材は原石ではなくルース。これはミャンマー政府がルースの持ち出しを禁じる以前から彼らが所持していた、いわゆる「デッドストック」が取引の主であることを示しています。

もともと探していたモゴック産ルビーは、デッドストックでしか手に入りません。なのでその意味では筋が良いのですが、その偽物の多さと品質の低さには参ります。

売り子自身もどれが本物でどれが偽物なのかの区別がついていないため、悪意や騙す気持ちすら無く、文字通り「グチャグチャ」な状態で石が混ざり合っています。

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例えば上の写真はほとんどがガラスや含浸ルビー・・・。にも関わらず売り子たちは「3万バーツ(約10万円)だ!」と闇雲に価格を吹っかけてきます。久しぶりの日本からの業者なので、何か売りつけようと彼らも必死なのです。

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そんなグチャグチャのルビーたちを、こんな形で一つ一つライトで照らして20倍ルーペで拡大して調べていきます。ちなみに上の写真はフラクチャー充填処理されたルビー。価値は1,000円程しかありません。

昼が過ぎ、夕方になり、当たりは薄暗くなり、膨大な量のハズレ石で次第に疲労がたまっていきます。

ストリートに来てから既に6時間が経過しています。

だいたい20人の売り子と会話しました。

1,000石は見たことでしょう。

意識が朦朧とし始めたその時、ふと、息子用の絵本の「このあとどうしちゃおう」の一節が脳をよぎります。

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絵本の中で「いじわるなアイツ」は地獄におちます。

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地獄は大変なところです。なにせ1日のはじまりは「2種類の混ざった砂を分ける」ことから始まるのです。正直、絶対にやりたくありません。

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そんな2種類の砂と、目の前のルビーとが、頭の中で混ざりあって来たその時です。

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お?

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おおお!?

この色味。

この輝き。

このインクルージョン。

何よりブラックライトを当てた際に発する強い赤色の蛍光色。

これは・・・。

モゴック産ルビーにまず間違いありません。

これまで見たモゴック産ルビーの特徴と、1つ1つを脳内ですり合わせ、何回も「間違いないよな」を確認します。

「買います」と告げて十分な額の代金を支払うと、業者の方は目を丸くして小躍りしています。どうやら「本当に?」とタイ語で言っているようです。ええ、本当に買います。

私の方は東京に戻ったらGIA社に鑑別に出し、鑑別書が正式に出てようやくミッションコンプリートとなります。100%を期す鑑別結果を出すには、専門機材と時間が必要なのです。なのでこの場で一緒に小躍りするわけには行きません。逸る気持ちを押さえて丁重に御礼を言います。

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鑑別書が発行されるまでは約3週間ほど。その間は少しソワソワしますが、少なくともどう転んでも、品質の高い天然のルビーであることは99.999%間違いありません

心のなかでひっそりガッツポーズし、ストリートを後にします。

宝石商の日々はこういった形で過ぎ去っていきます。

ホテルに帰ればきっとまたパラパラパラと銃声が聞こえますが、今夜はきっとよく眠れることでしょう。

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次はどこの国に行こうかと帰り道でメコン川を眺めながら考え、メーサイの夜は更けていきました。

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最後までお読みいただきありがとうございます。

※ ルビーの原石/ルースの画像はGIAのGem Kidsから引用しました。

※ 絵本「このあとどうしちゃおう」の画像はAmazonから引用しました。

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