タイ・チャンタブリでの宝石買い付け 〜 日本人が知らない色石のメッカ
カラッツ(KARATZ)代表の小山(おやま)です。
新しい取引先拡大のために、タイのチャンタブリという場所に色石の買い付けの旅に行ってきました。
タイという国はもともと宝石のマーケットとして有名な国なのですが、なかでもチャンタブリは様々な原石が世界中から集まる色石のメッカです。
海外での宝石交渉のリアルな世界を、是非ご覧ください。
タイのチャンタブリへの行き方
チャンタブリはタイの南部にある県の一つで、一般的にはひっそりとしたビーチリゾートとして知られています。
バンコクからは車で約4時間半で着きます。バンコクから長距離バスに乗る行き方が一般的なようです。
飛行機などの直行便はありません。急行の電車も止まりません。
特に大きな観光名所もありませんので、正直、あまり一般の日本人が手間暇をかけて行く場所とは思えません。
実はそんな町が、世界の宝石業者にとっては、モザンビーク、タンザニア、インド、カンボジア、タイなどで採れた石が持ち込まれる、まさにアジアの色石の集積地なのです。
さて、さっそくチャンタブリのゲートが見えて来ました。
なんというか・・・、曇り空で暗雲が立ち込めていますね。
大丈夫かな・・・。
チャンタブリでの買い付けは中々始まらない
チャンタブリの宝石マーケットに着きました。
こちらの写真は一般の人でも購入することができる宝石の露天です。
見てください。
えーと・・・。
・・・寝ていますね。
チャンタブリではこんな風景が浜辺の町一面に広がっています。どこでも確かに石は売っていますが、正直品揃えといい価格といい、日本国内で買うのと大きな違いはありません。
このままでは一般の観光客と同様の露天で見てお土産品を買って終わりになってしまうと焦っているその時でした。
たまたま乗ったタバコ臭いタクシーの運転手から、「知り合いのインドの商人を紹介するよ」と持ちかけられました。
怪しい。
これまでの私の人生経験からいうと、100%怪しいのです。
そもそもこの運転手が信頼できる人なのかどうか全く確信が持てません。
もしかしたら着いたら刃物で脅されて身ぐるみ剥がされるかもしれません。
ですが、もしかしたら良い買い付けが出来るかもという期待と、まだ何も買い付けてないなという焦り。そして少しの好奇心が勝って話に乗ってみることにしました。
結果的にこの選択が正解でした。
チャンタブリでの通過儀礼
幸いにも刃物で脅されることはなく、無事インドの商人を紹介してもらいます。
「日本から来たプロのバイヤー」ですと伝え、しばらく世間話をしていると、
突然インド人の商人が電話を掛け始め、さらに別の2人の商人が現れ、石を出されます。
商人「このピンクサファイアとアクアマリンを8,000B、3,000Bの値段でどうだ?」
たしかに、見た目はピンクサファイアとアクアマリンに見えます。
ちなみに1バーツは日本円で3.5円。つまり3万円と1万円なので悪くない値段です。
実際、手にとってみると・・・、
私「これピンクトルマリンと合成スピネルですね。相場でいうと800Bと150Bくらいなんですが・・・。全然石も違うし相場も違いますよね?」
すると、商人達はこそこそなにやら相談し始めました。
商人「チャンタブリでは宝石を買い付けるためには席の予約が必要なんだ。今回は特別に俺の席をゆずってやろう。」
どうやら何かの "試験" を通過できたみたいです。
なんか・・・ハンターハンターでこういうの読んだことあるな・・・。
いや現実なんですけどね。
『HUNTER×HUNTER』冨樫義博(SHUEISHA Inc.)より
何にせよ席の確保が出来たことで、ようやく宝石買い付けのスタートに立てました。
チャンタブリでの買い付けがようやく始まります
バイヤーが石を買う、と聞いた場合、皆さんが想像するのはどんな様子でしょうか?
業者がいるブースやお店をバイヤーが周って値段を交渉して・・・というのが、一般的な買い付けの風景かと思います。
ですがチャンタブリではその逆です。
買い手がブースを設けてそこに石を売りたい商人がやってくるスタイルです。
つまりブースが無い = 買い付けができない、ということを意味します。
このブースを確保するのに本来はツテが必要なのですが、幸運にも今回はたまたまそれをゲットできたというわけです。
ちなみに「譲る」と言われたはずなのですが、ちゃっかり1席5,000円取られました。
上の写真のように、会社名とその日買いたい石の名前を貼っておくと続々とバイヤーがやってきます。
日本からの訪問は相当に珍しいのか、もしくはカモだと思ったのか、多くの商人がブースを訪ねてくれました。
(そういえば滞在中、1人も日本人には会いませんでした)
ちなみに私の席は屋内でしたが、屋外にも似たような席があり、チャンタブリによく出入りするバイヤーは決まった席を持っているそうです。
こちらが実際の写真です。私は屋内なのでラッキーでした。
チャンタブリでの買い付けフロー
業者が私の席に来たら、下記の流れで売買スタートです。
① 業者がテーブルに石を100 〜 1,000石くらい置く。
② 私がその中から興味がある石を示すと、業者が電卓で金額を提示し、私が希望する金額を打ち返し、交渉開始。
③ 無事値段が折り合うと一旦その石が紙とテープとで何重にも巻かれるので、すり替え防止のため自分でサインをする。
ここまで済むと場所がホテルに移ります。
その場で現金取引を行ってしまうと、買い付け側だけでなく売り手側にとっても、犯罪のターゲットとなるリスクが一気に上がってしまいます。
そのため購入金額が10万バーツ(35万円)を超えると、どこの業者もこの「あとはホテルで」という流れになります。
この日は1日かけて60人ほどの業者と会い、ルビー、サファイア、タンザナイト、パライバトルマリンなど合計1万石ほどの石をやり取りしました。
さて、訪れてくれた60人は全員個人のバイヤーで、特に彼らどうしで連携はしていません。
毎回毎回、10倍 〜 100倍の値段を吹っ掛けられるのは当たり前。
終わる頃にはかなり疲れました。
けれども石を求めてまたチャンタブリに向かうのです
さて、こんな風に疲労困憊の日々だったのですが、その成果は目を見張るものでした。
今回はスケジュールの都合もあり短期間での滞在でしたが、慣れる頃には1日の買い付け石数が1,000石を超えました。
ハッキリ言ってこれだけの質と量の買い付けを日本で行うことはまず無理です。
というのも世界の宝飾市場は約20兆円ですが、日本の宝飾市場はその数%です。言ってみれば日本全体における「北海道」とか「埼玉県」くらいの位置付けしかありません。
やはり市場が小さい日本は優先順位的に後回し。日本に流入する石は世界のごく一部、ということを痛感しました。
正直、日本人としては悔しいですよね。
なので、我々のようなところが今回のように海外に出ていって、良い石と良い情報を仕入れることが、日本の宝石市場にとって非常に重要になると思っています。
これからも引き続き、世界の最新の色石レポートを発信していきます。
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