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#逆噴射小説大賞2021
ジビエのレシピは信じない
まさかこんなカジュアルに撃ってくるとは思わなかった。さては素人だな。
「ばか! 発砲するなって言ったろ!」
怒られてやんの。そりゃそうだ。
あたしは屋上に乱立する室外機を踏み台にして跳躍する。視野がひらけるこの瞬間は好きだ。となりのビルに着地し、身体を一回転させて衝撃を逃す。
人間よりも優れた聴覚が、狩人たちの困惑を捉えてくれる。また火薬の爆ぜる音がした。
「撃つなって! 傷ついたら味が落
俳優アントニオ・マルティネスについての記憶
専任スタントという職業がある。そう、俳優には違いない。しかし、独自性を表現することはない。なにしろ俺の仕事は、あのアントニオ・マルティネスに成りきることだからだ。
「どうなった?」
バスローブに靴下という妙な出立ちでヘスは言った。
「全部済んだ。もう好きに過ごせ」
俺がナイフの血を拭いながら言うと、口髭の端から泡を飛ばすようにして俺を称賛した。
ヘスのような貧弱野郎が命を狙われるには相応