パリの石油王
大学4年の春休みということで、同期の男3人で卒業旅行に行ってきた。目的地はフランス。メンバーは福島出身のOと、八王子出身のT、そして俺。
どういういきさつでフランスになったかは忘れたけど、12年ぶりにフランスにきたので、すこし思い出してみようと思う。
5泊7日、学割プラン。フライトとホテル以外は何もついていない。深夜に日本を飛び立って、早朝に到着予定だったと思う。
パリについて最初の感想は、とりあえず眠い。空港からホテルまで旅行会社のバスで送ってもらっても、朝5時にチェックインできるわけではない。
バスの社内では、旅行会社の日本人のお姉さんが、いろいろ教えて、くれなかった。
「パリの地下鉄については予習してきていますよね?」
俺たち、何もしてない。予定も立ててなければ、地下鉄が走ってることすらよくわかっていない。お姉さんこわ。
早朝から放り出されても困るので、その場の勢いで旅行会社がやっている、モンサンミッシェルの観光ツアーに申し込んだ。
モンサンミッシェル。パリからは片道4時間、海に浮かぶ協会。潮が引いたら歩いていけて、満ちると海に浮かぶ。厳島神社みたいなものではないかと思っている。片道バスで4時間ってことは、とりあえず仮眠ができそうだ。その場で旅行会社に現金で支払ったら、いきなり有り金の半分を失った。
モンサンミッシェルは、オムレツが有名らしい。旅行会社に支払った参加費には、このオムレツ代も含まれていた。3人でテーブルにつくと、旅行会社の人から「おひとりでご参加の方がいらっしゃるのですが、相席でも大丈夫でしょうか」と聞かれた。どんな人がやってくるんだろうか。
20代後半ぐらい?のお兄さんだった。
「君たち大学生?」「何学部?」この、何学部?という質問が、俺たちにとってはけっこう苦しい。
日本大学文理学部。文学部でもなければ理学部でもない。いっそ教育学部だと言いたいこともあるし、実際そう言ってしまうこともある。だからこそ、知ってる人は文理学部と聞けば、すぐに日大だとわかる。そして、お兄さんもそうだった。
「え?日大の文理??京王線の桜上水の???俺、桜上水に住んでるよ!!」
多分、多くの大学生は、卒業旅行で海外に行って、「なんて世界は広いんだ」と思い知るだろう。俺たちは違った。「なんて世界は狭いんだ」。突然打ち解けた我々は、一緒に観光をつづけた。
お兄さんは石油会社に努めていて、フランスに研修に来ていた。「せっかく海外に住んでるから、体力は惜しまず、休みの日はできるだけ観光にいくことにしている」とのこと。なんか、なんかかっこよかった。
4時間かけてパリに戻り、「また必ず、桜上水で会いましょう」と、固い握手を交わして分かれた。
で、気が付いた。俺たちはお兄さんの連絡先はおろか、名前も聞いていなかった。残された情報は、石油会社で働いているということだけ。それだけで、石油王というあだ名をつけた。フェイスブックで石油王と調べてみたけど、もちろん見つからなかった。
しかし、奇跡は続いていた。帰国して半年ほどたったある日、俺とTが駅前をぼんやり歩いていると、そこにスーツケースを転がした石油王が現れたのだ。「いやいやいや、久しぶりだね。オスロに行ってたんだ。日本は暑いね。」またまた、かっこいい登場だった。
ようやく名前と連絡先を交換して、後日4人で食事に行った。
というのが、卒業旅行1日目の話。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?