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【映画】ブリッツ ロンドン大空襲

Apple TV+の新作映画(劇場公開はなし)。
そういえばバトル・オブ・ブリテンの映画って観たことないなあと思ったのですが、戦争ものといっても本作は民間人が主人公で、『空軍大戦略』みたいなミリタリー要素はほとんどありません。
思い出されたのは、何かと似ている2大ロックミュージカル、ケン・ラッセルの『トミー』とアラン・パーカーの『ピンク・フロイド/ザ・ウォール』でしたね。
父親が不在でロンドン空襲が描かれ、母親は軍需工場で兵器の生産に携わるとか、共通する描写が多いです。

一方、日本では独立プロ系で多く作られている反戦映画によく似てもいて、『東京大空襲 ガラスのうさぎ』とか『ボクちゃんの戦場』(絶対知られてないだろうと思ったけど、今調べたらベルリン国際映画祭で賞を獲ったりしてました)などとほぼ同じモチーフだなと思いました。
民間人居住区への爆撃、子供の疎開というのは日本の作品ではよく見ますが、外国映画では珍しいなあと。

しかし、ゲイリー・オールドマンの『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』を観たときも思ったのですが、戦時にやっていたことは、日本もどこの国も、全くと言っていいほど同じなんだけど、その後戦争に勝ったか負けたかでその意味が真逆なんだよなあ…… と若干モヤモヤしながら観ておりました。

しかし本作、主人公が白人女性と黒人男性の混血の少年であることがミソです。
彼が商店に掲げられた「大英帝国のバナナ」「大英帝国の砂糖」などのポスターや、アフリカ大陸でそうした作物を収穫する黒人の人形を見る場面があり、ここで作品のテーマがはっきり打ち出されていました。
ドイツ軍に蹂躙されやがて「正義側」となる英国も、そもそも植民地主義を代表する世界的大帝国であることを意識させ、それも有色人種への搾取で成り立っているという現実をまのあたりにする場面でした。
ここはセリフなどでその意味を説明しませんが、その少しあとに、知り合ったナイジェリア人の男性が「人種で人を分断したらヒトラーと同じだ」と演説する場面がありました。

ここで明確に語られているように、それでなくても差別されている有色人種が、戦時にはより過酷な目に遭っていたことが本作の主なテーマでした。
第二次世界大戦の被害国たる英国でありながら、その国が行なってきた加害をしっかり描こうというところに、現代からの視点がしっかり出ています。
正直な話、『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』のラストで感じた「戦争やるぞー! っていうのをハッピーエンドにできるんだから、戦勝国はそりゃ、そうだろうなあ」というモヤモヤは、本作にはまったくなかったです。
一方、日本の反戦映画も、民間人の被害と悲劇を描くものの、日本という国家の加害性にはあまり目が向いてないなあって思っていたので、そのあたりも本作には納得感がありました。

物語としては、疎開に向かう汽車から脱走して自宅をめざす少年が、善悪まじえさまざまな人に出会っては過酷な体験をするというもので、オーソドックスな構成によるテーマのわかりやすさが良好でした。
黒人差別というと米国の映画でよくモチーフになりますが、英国でもそうした差別は当然あるとともに、有色人種がこれほど英国社会に浸透していたというのも、あまり見覚えのない描写のように思いました。
前述の『トミー』とか『ザ・ウォール』には白人ばかり映っていたように思うんですよね。
監督スティーヴ・マックイーンは黒人であるということで、彼にとって重要なテーマなのでしょう。
第二次世界大戦ものの映画を新たに作る意義を示せていました。

全編にわたって英国らしさがすごくて、英国を舞台にした映画やドラマ、あと「モンティ・パイソン」で見たなあと思うような人物や風景、英語の発音や声の出し方(怒鳴ってるところとか)など、強い英国面のフォースがみなぎっています。
それだけに、主人公含めた有色人種の存在が際立って感じられました。
この主人公を演じた9歳のエリオット・ヘファーナンが素晴らしく、世界をみつめる子供の眼を見事に演じていました。

母親役のシアーシャ・ローナンは、ブロンドと青い眼で、子供との対比を見せつつ歌も披露。
ほかに『ジョーカー』のゲイリーことリー・ギル、ザ・ジャムの?ポール・ウェラーもそれぞれいい役で出てます。
ところどころで際立つ、物体のドアップの映像や、何度か見られる、キービジュアルとなる花などで詩情も醸し出していました。
花はヒナギクでしょうか、デイジーってことになるのでしょうが、『2001年宇宙の旅』でHALが歌う歌、っていう以上のことを知らないので、英国人にとってどんな意味があるのかわからなかったですが……

大がかりな破壊シーンも多い割には映画の印象は思ったより地味なんですが、それだけに丁寧さがあり、多くの人にとって観る価値のある秀作であると思います。

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