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【映画】深い谷の間に

Apple TV+の映画新作ですが劇場公開はなし。
なんとびっくりの娯楽性が盛り盛りの映画で、腰が抜けるほど面白くて、劇場で観られないのがもったいない作品でした。

「高度な訓練を受けた2人の工作員は、極秘の大峡谷の両側を警備することになり、距離を縮めていく。谷の底から邪悪なものが出現し、2人は協力して生き残らなければならなくなる。」
と言う紹介文からして、モンスターホラーではないかと思ったら想像以上にそれでした。
が、スパイ物の雰囲気で始まりながら、ホラー、銃撃戦などのアクション、SF、そしてロマンティックコメディでもあるといういろんなジャンルに次々と変化する展開が最高です。

霧に包まれて底が見えない大峡谷の両側にある監視所に配置された二人のスナイパー。
「西側」にはマイルズ・テラーが、「東側」にはアニヤ・テイラー=ジョイがそれぞれ孤独に過ごしますが、やがて双眼鏡越しでのコミュニケーションが始まります。
『セッション』『トップガン マーヴェリック』で観るものを複雑な気持ちにさせたマイルズ・テラーですが本作ではそれほどややこしい感じはないものの、ハードなタフガイのようでありながら優しい表情を見せたりと多面的であることで魅力が感じられるのはさすが。

それ以上にアニヤ・テイラー=ジョイが素晴らしく、若く感受性豊かな女性という側面と、銃器の扱いにたけたプロのスナイパーという側面を同居させるのが見事でした。
華奢な身体に大きく力強い眼、鋭いアクションで、非常に可愛く撮られています。
チェスの場面がありましたね……彼女の出世作『クイーンズ・ギャンビット』が意識されたのでしょうか。

二人の恋愛感情にそんなに複雑なところはなくて「一直線」なんですが、なにしろ障害だらけのシチュエーションなので、そこについてだけ安心して観ていられるのでした。
といっても残酷・グロテスクを中心にエグい描写も多い作品なので、強烈なバッドエンドでいきなり終わるのではないかと始終心配になる感じが維持され続けてもいました。
変な映画でもあるんだけど、それが興味の持続と娯楽性に結びついていて最高でした。

作中のヴィランといえるシガーニー・ウィーバーもさすがの貫禄を見せますが、エイリアンシリーズでリプリーが最も憎んだ存在をみずから演じているところもあって、味わい深いです。
上に述べたようにジャンルがどんどん変化するのですが、そのいずれについても十分以上のクオリティがあると感じました。
銃器の扱いなどもかなりしっかりしているから、スパイアクション・ガンアクションとしては水準以上。
一方で、こりゃちょっと荒唐無稽じゃないのっていう場面もあるのですが、アクション映画としては工夫に満ちていて普通ではないレベルの盛り上げなので、ならいいかと思えたり。
ホラーとしても、地獄めいた描写の地獄っぷりも中途半端ではありませんでした。
SFとしては突き抜けてはいなかったかな。
真相が明らかになるステップなどはややご都合主義でありがちでしたが、映画オリジナルのSFとしては十分でしょう。

「第二次世界大戦以降の世界」に対するなんらかの視点があるのかなと思わせる要素もありましたが、そこは単なる設定上のしかけでした。
批評家からの評価を上げるポイントにはさして力を入れず、観客を引っ張って楽しませることに全力を挙げた、まさに娯楽大作です。
ゴア描写が苦手でないのであれば、多くの方がすごく楽しめると思われ、おすすめできます。

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