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【映画】フィンガーネイルズ
Apple TV+の配信専用映画ということで、『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のように劇場公開されることはないのですが、映画作品として感想を残します。
また大学の後輩、野坂尚也が吹替をやっているので吹替で観ました。
といっても尚也の演じた役はちょっと出てくるだけなので感想への影響は特にありません。
話題になることの少ないApple TV+の映画ということで、以下はネタバレなしでオススメポイントを伝えたい感想となってます。
カップルが爪を引き抜いて検査機にかけると愛情の有無が判定されるという不思議テクノロジーが普及した社会でのSF恋愛ドラマ。
テクノロジーへの科学的興味が満たされることを期待する人はいない、藤子・F・不二雄などの寓話っぽいタイプの作品であることは観る前からわかります。
観ていてまず非常に興味を惹かれたのが、登場人物の挙動不審ぶり。
ヒロインのアンナ、パートナーのライアン、仕事の同僚アミールの3人でほとんどの話が進みますが、全体にどこか不安そうな、何か隠していそうな微妙な演技を続けます。
この感じでずーっと演出するって、どういう芝居つけたの……?
と、少々驚きつつ物語を追いますと、アンナとアミールが職場で出会ういろんなカップルのアリな感じ・ナシな感じがなかなかに説得力があって、そこも演出の凄さを感じました。
そんな中でもライアンが意外としっかりしたまともな男なのになぜかイマイチな感じ、「所長」の無邪気で不気味な感じなど、人間の微妙なリアルさかげんにも、なんとも驚かされましたね。
後半になって彼らの関係に決定的な変化が訪れる事件が起き、そのあとはなぜかひどくハラハラさせられる、サスペンスフルといっていい感覚がありました。
みんなが自分の気持ちや他人の気持ちをどこかで疑っていて、正解を知ろうと必死になっている世界であることが活きてきます。
オーウェルの『一九八四年』に代表される管理社会テーマのSFや、実在した管理社会を描いたトム・ロブ・スミス『チャイルド44』にも通じる、お互いを信じることの難しさを突きつけられる設定であるといえます。
こんな痛そうな方法で検査するのイヤだなって思いますが、検査しないと自分のことさえ信用できない、検査するかどうかがカップルの大問題になる、さらには検査結果をより良いものにするための「実習」(エクササイズ)までする、という奇妙さには笑わされつつ怖いです。
そこに、学歴や就職先や年収やいろんな外部要素に振り回される現実の我々の姿が重なってきます。
奇妙な設定と人々の奇妙な振る舞いを観察する前半から、真実に迫っていく後半までとても良い流れで、期待をはるかに超える面白さでした。
恋愛ものっていうことにはなりますが、設定がもたらす相互不信の世界が想像以上にエキサイティングでしたので、SFや管理社会ものに興味ある方も楽しめるんじゃないかと思います。