【映画】ネクスト・ゴール・ウィンズ
会社の映画好きの人がおすすめしていたので、観てみました。
タイカ・ワイティティ監督だと『ジョジョ・ラビット』を観ました。
『マンダロリアン』も全部観たので彼が演出したエピソードも観たはず。
おおむね宣伝通りの、素直に楽しい、明るいトーンの映画でした。
ワールドカップで31-0で負けたという最弱サッカーチームである米領サモア代表を、不本意な理由で任された主人公がチームメンバーとともに「1ゴール」を目指していく、という定番感のあるお話ですが実話が元になっているということ。
タイカ・ワイティティの演出はひとひねり、というほどでもない、半ひねり程度のギャグでしっかり笑わせてくれます。
定番感のある話だろうと思わせつつ、監督自ら演じるヘンな牧師が語り部となる冒頭でさらに脱力気味になるのもうまいところ。
主人公が、神秘的なオバさんに出会って一念発起するところなど笑えるところが非常に多かったです。
また、こうしたスポーツものは、得点の場面など重要な瞬間をどう描くかが工夫のしどころですが、やはりなかなか工夫があって、それによって他の作品とはまた違った盛り上がりを感じさせてくれました。
物語ではとりわけ、サモア文化にあるらしい「ファファフィネ」という一種のトランスジェンダーであるジャイヤの存在が大きいです。
白人男性の主人公トーマスに対し、アジア系トランスジェンダーという対称的な属性が物語の葛藤ポイントです。
なんとなく日本人は、「西欧はLGBTQへの理解が進んでて、それ以外の地域はそうでもない」という対立を見てしまいそうになりますが、ここではそれが逆転している、というか、サモアではトランスジェンダーといってもファファフィネが昔からあるのでべつだん進歩的ではないという、正しく「非西欧的価値観」がぶつかってくるのが非常に重要です。
ジャイヤを演じたカイマナが特にすばらしかったですが、今まで『スティーブ・ジョブス』や『プロメテウス』などで見てきたのとはかなり違う、コメディ演技に全力のマイケル・ファスベンダーも非常によかったです。
サッカー協会会長の奥さんを演じていたレイチェル・ハウスという役者さんはApple TV+の『ファウンデーション』で見てた顔でした。
この役者さんに、あのミヤコ様みたいな役をあてたApple TVはスゴいキャスティングだとあらためて思った次第。
さて、Apple TV+といえば……っていう訳でもないんですが、スポーツ物に興味のない私でも大いに楽しんだ本作。
Apple TV+の『テッド・ラッソ 破天荒コーチがゆく』に全体に似てるなーと思いました。
私が、TVドラマ史上最高作ではないかと思っている『テッド・ラッソ』は、米国のアメフトのコーチが英国の由緒ある(けど弱い)サッカーチームを建て直す話でした。
設定もどことなく似てるし、コーチが自分に向き合うことが重要なポイントになっている点も共通です。
この『ネクスト・ゴール・ウィンズ』の元になっている事実は2014年の出来事なので、『テッド・ラッソ』の元ネタのひとつなのかもしれません。
10話×4シーズンでたっぷりと精密に描いた『テッド』に比べると、短い時間にシンプルに描いた本作には、ややダイジェスト感もないこともありません。
そのコンパクトさが良さでもあるんですけどね。
ワイティティも、先に『テッド』でやられちゃって悔しかったんじゃないかな。
どちらも万人におすすめできる作品ですので、『ネクスト・ゴール・ウィンズ』観に行って気に入った人は、もっとすごいのがありますよという意味で、『テッド・ラッソ』も強く推したい。