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【TV】シュリンキング:悩めるセラピスト

11月ごろから割と激動気味で忙しく、生活サイクルもちょっと変わったのでコンテンツ鑑賞のペースがダウンしました。
特に映画は12月1日に『川っぺりムコリッタ』を配信で観ただけ(結構良かったので、いつかレビューを書くかもしれません)。
TVドラマシリーズを追うのも結構大変ですが、やっと『スター・ウォーズ:スケルトン・クルー』に追いつき、『サイロ』シーズン2の最新話をこれから観る、ぐらいのところまで来ました。
そんな中、先日完結し、非常に良かったのが『シュリンキング:悩めるセラピスト』のシーズン2でした。

まず本作はApple TV+の『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』とスタッフが重なっているということで、シーズン4でめでたく完結した『テッド』が終わってからの『テッド』ロスを埋めるためみたいな作品であったということがあります。
この『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』、私がこれまで観たすべてのTVドラマの中でも最高傑作であると思うのですが、それはまた今度。
本作『シュリンキング:悩めるセラピスト』も似たテイストがあり、キャラクターの掘り下げ、特にあらゆる人物に対する愛情に満ちた視線が徹底していることが『テッド』に共通しています。

ただ、英国のサッカーチームの監督になぜか米国から呼ばれたアメフトの監督、というシチュエーションの強さに対して、本作はいきなりセラピストの物語であることのひねりの弱さというのは感じられていました。
セラピストを主人公にしたら、いろんな人物の良い面悪い面を掘り下げる話になるのは当たり前じゃない? という不思議な感想が『テッド』を意識すると起きてしまうのですね。
なので第1シーズンは楽しめましたがそこまでハマらない感じでした。

でも第2シーズンはかなりハマりましたね。
主人公がセラピストといっても、妻を交通事故で失った絶望から立ち直る過程を描いているので、主人公自身がセラピーを必要としている立場。
一緒に仕事をするハリソン・フォードなども優秀なセラピストでありながら、年齢など様々な悩みを抱えており、お互いが心の交流を深めながら自らの悩みに向き合っていきます。
こうした基本構造は第1シーズンと変わっていないのですが、それがものすごく面白くなってきたのは、エピソードを重ねて掘り下げが進んだからなのでしょう。

シーズン2では、飲酒運転で交通事故を起こした加害者、いわば妻を殺した張本人でもあるルイスが姿を見せます。
このルイスを演じているのが、『テッド・ラッソ』で強烈な印象を残したブレット・ゴールドスタインで、彼が製作にも携わっているということですが本当に素晴らしい俳優です。
マッチョな見た目の上に、起こした事故の重大さから周囲から受け入れられず、自分のことを許すこともできない孤独な男を繊細に演じて胸に迫ります。

主人公のジミーと娘のアリスもこの男のことを心から憎んでおり、決して許すことのできない存在ですが、それでも彼に関わっていくことで色々なものが変化していきます。
交通事故に端を発する諸問題が物語の軸になりながら、シーズン2ではさまざまな親子の関係が描かれていきます。
つらい現実から逃れようと自宅にコールガールを呼んでは飲んだくれていたジミーと、思春期で友人や異性との関係で揺れるアリスとの関係。

性に奔放な同僚のギャビーは母との関係に悩み、隣人のリズは3人の男子を産み育てたあと、アリスを娘のように可愛がって彼女を支える。
ジミーのクライアントのひとりだったショーンも権威むきだしの父親との関係に悩む。

またとりわけ印象的なキャラクターが弁護士のブライアンで、同性カップルとして養子を迎えることに対して全力で戸惑います。
そしてジミーの隣人リズから育児の手ほどきを受け、子を持つよろこびを知らされる……このくだりには泣けて仕方なかったですね。
いつも陽気だけどものすごくナーバスでコミュニケーションが決して上手くない、っていうブライアンのキャラクターを魅力的に演じるマイケル・ユーリーという役者さんが素晴らしいです。
親子関係の難しさが描かれながらも最終的にそれを素晴らしいものとして描くことにチャレンジしている点が、シーズン2の特に良いところでしょう。

もうひとつ重要なのがハリソン・フォードが演じるポール。
優秀なセラピストである彼も、年齢とともに衰える自分の心身に苦しみます。
彼が老いをどう受け入れていくのか、愚かな後輩としてのジミーが有効に作用していきます。
ハリソン・フォードも今や82歳ということで、それより若くは見えますが、今さらインディ・ジョーンズやってる場合じゃないわけで、老境を演じる俳優として新たなキャリアを構築しようとしているのかもしれないと思いました(一方で、そろそろ引退するつもりなのかもしれませんが……だとしても文句も言えませんよね82歳では)。
ハリソン・フォードってマジでいい役者なんだとよくわかる演技でした。

主人公のジミーはおじさんなんだけど全然落ち着いていなくて、色々なものにこだわって過ちをおかしてしまう姿に同年代の自分としては共感するし、それでも立ち直る様子にも勇気づけられます。
この「等身大」っぷりを演じるジェイソン・シーゲルが大変良いです。

シーズン2を最後まで観て、セラピストのドラマなんだけどドラマにセラピー効果を持たせることができるかな、という意識が作り手にあるのかもしれないとも思いました。
そういう「効能」を作品に持たせようとすることはいびつな結果を招くことが多いと思うものの、問題提起や注意喚起を行うと力があるのが映画やTVドラマというもの。
そうであるなら、ポジティブな効果を作品に持たせようとしてもいいのではないか、と思える作品でしたね。
凡百のドラマ以上に、痛みも悲しみも感じられるようになっているし、それを乗り越える苦しさも喜びもしっかり描いていますからね。
その意味では『テッド・ラッソ』に並び称すことが可能なレベルに達しているとも思いました。


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