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【映画】ロード・オブ・ザ・リング ローハンの戦い

年明けの映画鑑賞の最初はこちら。
トールキン好きの長男と一緒にIMAX吹替で観ました。
「ロード・オブ・ザ・リング」を名乗りながらも日本的アニメ映画ということで、パチモノ的に思っている方もいるかもしれませんが、あの映画シリーズの正当な前日譚であり、ピーター・ジャクソンも製作総指揮に入っている「中つ国サーガ」の新作です。

原作となるのは『指輪物語 追補編』の中に数ページあるローハンの王ヘルムを中心にしたエピソードで、『ロード・オブ・ザ・リング』六部作の200年ぐらい前の出来事です。
『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』の名シーン、クライマックスのヘルム峡谷での攻城戦と同じ場所でのやはり攻城戦が描かれます。
でも本作ではまだヘルム峡谷と呼ばれてはおらず、ヘルム王の名が冠されることになる経緯が語られることになります。
物語的には六部作とのつながりはそれほど強くないので、これだけ単体で観ても良い作りである一方、旧作ファンは物足りないかもしれませんね。
でも原作を読むような人からすると、六部作以前は追補編とか『シルマリルリオン』などで語られた内容は歴史の教科書みたいなものですので、それが映像化されている時点で結構胸熱です。

映画の独自色としては、原作でヘルム王の娘とだけ書かれていた人物にヘラという名前をつけて主人公にしたこと。
これは非常に良い脚色で、女性ゆえに「正史」に名前すら載らないが戦に大きく貢献した人、というのが実に歴史ものっぽいです。
これがまた、『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』で大いにフィーチャーされたエオウィンにつながってます。
エオウィンといえばローハンの盾もつおとめ。
権力欲に毒された王のなれの果てであった指輪の幽鬼を打倒した存在です。
こうして歴史の伏流水、裏面に注目するしかけとなっているわけですね。
なにしろ映画のナレーションを語るのがエオウィンです(原語では旧作のエオウィン役、ミランダ・オットーが演ってます)。

つまりこれは歴史を正面で動かす側である男性キャラクターがあまり良いはたらきをしていないともいえます。
なにしろこの200年後には指輪戦争が起きるわけで、そんな世界に誰がした、といえば第一にサウロンだけれども、彼の罠に屈服してしまった数多くの権力者がいたのですから、実はこの封建的な社会像がまるごと批判的に描かれているのが中つ国サーガであるともいえます。

そんなわけで、出てくる美術や衣裳なども基本的にはあの映画シリーズを踏襲しており、特に背景美術はCGを使って中つ国を美しく表現していますし、音楽もハワード・ショアが作ったメロディが聞こえたりと、じゅうぶん以上に中つ国六部作と繋がっていて満足度が高いです。

では日本的セルアニメとして映像化した手法がアリだったのかという疑問。
場面によってはこれは実写でみたかったというところもありますが、アニメならではの表現がうまくいっているのがヘルム王関連の描写でした。
一発で相手を殴り殺し、雪山をうろついて敵を素手で殺していくという非現実的な腕力の持ち主なんですが、これがまた、原作にそう書いてあるんだから仕方ない。
その強さを表現するのに、アニメ的誇張表現でなんとか説得力を持たせている場面が多いです。
これを実写でまともに表現するのは難しい、ということを考えると、アニメでなんとかうまくまとめてくれたなあと思いましたね。

日本的セルアニメとしては、ピーター・ジャクソンが好んだカメラのまわりこみをアニメでやっていたり、普通はこんなのやらないだろうと思うような大鷲や馬の描写があったりと超絶技術が感じられました。
モーションキャプチャによる3DCGで人物が動いていたりする箇所も多いのですが、そこは私は、ラルフ・バクシ版『指輪物語』のロトスコーピングアニメを思い出しました。
そう、中つ国の最初の映像はアニメだったのですね。
あの映画は終わり方に無理がありすぎるだけで全体には名作と言って良いと思うので、これを機会にもうちょっと評価が上がればとも思いました。

さらにクライマックスの攻城戦では、『二つの塔』によく似たシチュエーションでありながら独自色もしっかり打ち出していて、アニメ的な面白さも十分以上にありました。
そしてエンディングの歌がすばらしいです。
六部作でも印象的な歌がいくつもありましたが本作の歌はそれらと比較してもトップクラスに良い歌だと思いましたね。
指輪戦争への流れをほどほどに表現するラストといい、終盤非常に良かったです。

日本ではどうも、このシリーズのファンがマスを形成していないのか(ホビット三部作の宣伝が手抜きだったのがイケナイと思ってるのですが)、売り方としては吹替声優の豪華さで集客するしかないと思われたっぽい雰囲気もあり残念です。
いや実力派の演技陣で良質な吹替を作ってくれたのは本当に良かったのですが、それでもどうも客の入りは良くなさそうで……
Amazon Primeの『力の指輪』もかなり良いんですけどね。
ローハンどころか「ゴンドールの旗」とかすごいマニアックなグッズも劇場で売っていたりしますのでファンはぜひご購入を。
そうでもない方も、本格ファンタジーが堪能できる本作をぜひ一見いただきたいと思うところです。

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