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【TV】パチンコ(Season 2)

第1シーズンの時は、良いドラマだなと思って観ていたのですが、第2シーズンですっかりハマってしまい、今年ベストドラマかもって思ってる勢いです。
ミン・ジン・リーによる原作も買って読んでいる途中ですがこれがまた猛烈に面白くて、素晴らしいです。

戦前の朝鮮に生まれたソンジャという女性が金持ちの商売人コ・ハンスの子を妊娠するが、ハンスには大阪に妻子がいるとわかり失望、牧師のイサクと結婚して大阪に移住して……
との話ですが、ドラマでは小説の後半であろう、ソンジャの孫ソロモンが1989年の東京で、ビジネスの世界で苦闘する話が並行して描かれます。
ソロモンの相手役として、『将軍』でブレイクしたアンナ・サワイが出演。
シーズン2では國村隼も出ています。

まず、在日コリアンの親子3代の物語を描くという時点で、日本というか極東の戦後史、それも裏面史のような話です。
日本人が朝鮮人をどう扱ってきたかがよくわかり、その差別の様子も具体的に描かれます。
差別を問題意識を持って描く作品には優れたものが多く、『シンドラーのリスト』『関心領域』はじめ各種のホロコーストもの、『ドリーム』『デトロイト』など米国でのアフリカ系差別テーマなど色々観てきました。

でも日本での朝鮮人差別の映像ってあまり見た記憶がありません。
自分がユダヤ人差別やアフリカ系差別に関わることはほとんどありませんが、日本で暮らしていれば朝鮮人差別と部落差別はすぐそこにある社会的差別で、当事者意識が強く求められるテーマです。
本作『パチンコ』を主人公側に共感して観ていても、自分が彼らを虐げた側の人間なんだなって考えるこの居心地の悪さはとても重要です。
ドイツの人は『シンドラーのリスト』を複雑な気持ちで観なければならないし、米国の白人は『ドリーム』を観てばつの悪い思いをしていることでしょう。
同じような気持ちを味わってドラマを鑑賞するのは重要な体験です。

さらに歴史ものとしてもキツいことに、主人公たちは朝鮮の北部出身なので、朝鮮戦争が始まると、故郷は北朝鮮ということになります。
作中では、ハンスの部下キムが祖国の戦争に参加するべきとの意思を抱いて北朝鮮に渡ります。
日本からの支配が終わってみたら、今度は祖国が分断されてしまうという悲劇も待っていたというわけです。
この、戦争に出かけていったキムがまたカッコ良くも悲しく切ない人物で、たまらなく魅力的です。

ただ、ソンジャに子を産ませたコ・ハンスは彼なりに愛情が強く、ソンジャの家族を熱心に援助しますので、いざという時に金が手に入ったり、大阪から疎開した先も比較的恵まれた環境だったりと、貧しくて悲惨な境遇が延々続くというわけでもないのがミソです。
ソンジャもハンスの援助を受けたくもないけど背に腹は変えられないし、長男のノアは真の父を知ることなく勉学に励んで早稲田大学に進学し、夫イサクの兄ヨセプは長崎で被爆して生還……と、塞翁が馬のごとくいろんな出来事に翻弄され、その都度複雑な気持ちにさせられる物語になっています。

このあたり物語性が強いのはもちろんですが、そんな複雑な気持ちを表現する俳優陣がとにかく素晴らしいです。
映像はフィルムルックの重厚な撮影で、大がかりなセットもたくさん組んでいる中で、登場人物が言葉少なに心を通わせますが、表情や仕草がものすごいです。
原作で明確に示されていますが、登場人物の感情はたいてい一筋縄ではなくて、善意も愛もいっぱいでありながら、それ以外のいろんなものとの葛藤が常にある状況ばかりです。
ドラマでは彼らが何を感じているのかを想像させる脚本となっており、その中でしっかりと気持ちを表現する俳優たちの演技力にはそれだけで涙を誘うものがあります。

原作は途中まで読んでいるのですが、小説の前半と後半をクロスオーバーさせて構成しているほか、映像化の仕方には特徴があります。
物語は基本的に同じながら、原作小説が省略した箇所を映像にして、原作に書いてあることは映像にしない、というようなやり方が目立ちます。
また原作では人物の気持ちを地の文で細やかに記載するのですが、ドラマ化にあたってそれをセリフにしたりはしません。
セリフはなんなら原作より少なくて、その分映像と演技で見せるやり方です。
このアダプテーションには本気が感じられますね。
ものすごく本格的な映像ドラマを作ろうとして、原作をよく消化していると思いました。
なので原作もドラマもそれぞれに強く感動できます。

タイトルの『パチンコ』は、ソンジャの次男モーザスがパチンコ店で働くようになりやがて自分の店を持つに至る、というわけで、在日コリアンの日本での位置付けを語る重要な要素を示しています。
ただこれ、原作小説のマーケティングでも苦労したんじゃないかと思うんですが、在日コリアンの問題をマジメに考えたい人が「パチンコ」なんて題名の本を買って読もうとはあまり思わないでしょうし、現に私も書店で見かけた時は興味を惹かれつつも、うーんと思ったりもしてましたので、ドラマに対しても食わず嫌いになってる人は多そうです。
でも私の中で今、「パチンコ」という言葉の意味が変わってきたところがあって、あのゲームをやろうとは思わないけど戦後の極東の歴史と文化の重要な一側面を示す言葉なんだなって思えてきてます。

とにかく、できるだけ多くの人に鑑賞してもらいたい、本当に素晴らしいドラマであり小説です。

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