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【TV】極悪女王
Netflixの最近のドラマでは『地面師たち』も面白そうですが、観た人が絶賛する熱量はこちらの『極悪女王』の方が高いと思ったので鑑賞。
予想以上に面白くて感動的なスゴいドラマでした。
ダンプ松本と極悪同盟、クラッシュギャルズといった存在は、私の世代だとドンピシャというところで、子供の頃はビューティ・ペアとかマッハ文朱(彼女が主演の『宇宙怪獣ガメラ』は映画館で観たんですが涙)がいたなあとかの記憶はありますが、女子プロレスはもちろんプロレス自体に興味を抱いたことは全然なく、私にとっては、いまだによくわからない格闘ショーという存在のままです。
小学生の頃は『あしたのジョー』が好きで、大人になってからボクシングをちょっとやったぐらいなんですが、プロレスとボクシングは似たように見えて全然違うものですよね。
人生を通じてまったく関わってこなかったプロレス…… と思ったのですが、小学生時代『タイガーマスク』のTVアニメの再放送をかなりしっかり観ていたのを思い出しました。
悪役レスラーとの戦いがエスカレートする終盤にかなり夢中になったのを覚えています。
でも反則する選手とどう戦うか、ってそれはスポーツものとは言えないのではないかって思ってしまうわけですよね。
しかし本作を観て、あの「虎の穴」との戦いみたいなものも、現実のプロレスという世界ではそれなりに真剣に取り上げられているのだとわかって驚きました。
このあたり、プロレスへのリテラシーがある人はまた違う感想を抱くのだと思います。
総監督・白石和彌による配信ドラマという点ではAmazon Primeの『仮面ライダーBLACK SUN』を観たのですが、学生運動関連の描写が良いもののSF設定の取り扱いがうまくいっているようには思えず、全体に残念な作品でした。
今回の『極悪女王』は実話ベースであることや、70年代終わりから80年代の、アウトサイダーの世界を描く点など、白石監督の資質に合っていたのが大きそうです(白石監督の映画作品は観たことないのですが)。
まずエピソード1の時点では、興行団体を運営する兄弟の70年代的なカッコ良さが目立ちました。
ハンサムな斎藤工だけでなく村上淳に黒田大輔もものすごくカッコ良いです。
1時間強が5話という短いシリーズの中で、そのカッコ良さの中心がヒロインたちに移っていく作りになっていました。
また、そのカッコ良さを女性たちに授けるメンターとしての音尾琢真のユーモラスな魅力も素晴らしいです。
エピソード2のラストでの試合シーンでは、女子プロレスって素晴らしいものなんじゃないかと思えてくる、迫力ある映像でヒロインたちの魅力が輝き、心奪われましたね。
ドラマとしては、アラン・パーカーの『フェーム』(未見で恐縮ですが)のような夢を追う若者の青春群像劇になっていて、タイトルロールのダンプ松本に並んでクラッシュギャルズの長与千種がもうひとりのヒロインとなっているほか、ライオネス飛鳥など同期のレスラーたちをまじえての物語となっています。
この物語の中で探究されるのが女子プロレスである、というのが成功要因で、ショウビジネスとスポ根の双方のいいとこ取りしているなと思いました。
ショウビジネスや芸術系は、スポ根みたいに「血のにじむような特訓」をやっても嘘っぽくなるし、スポ根だって現代の目で見ると、限界を超えた特訓とかやっても体調を崩すだけで上手くならないんじゃない? って思ってしまいますからね。
プロレスだと、練習してても試合しててもすごくハードな映像になるし実際非常にハードなんでしょうし、しかもその目指すところのひとつとして、ショーアップされたバトルというのがありますから、エンタテインメント性が確保されます。
プロレスというものがよくわからない私からすると、作中ではちょっとあり得ないと思うような反則技が使われるし、リアクションはムダに派手なように見えるから虚構性があるよなあと思いつつも、それでも作中ではそれらがある程度リアルに行われていることになっていてとても怖かったです。
スプラッタ映画ならあれだけ血が出る話だったら一人か二人は死にますけど、本作の中ではあくまで試合の中で行われたこととして扱われていることに不思議さを感じながら、それでもウワーって思いながら視聴しました。
ある程度実話なのだと思うと余計怖いし、それでも観ている映像はすべてドラマなので、本当の血液ではなく血糊であるんだよなあと考えたりもしますが、やっぱり怖い。
その、リアルとファンタジーのはざまで翻弄されることがプロレスの面白さなんだろうと思うし、その面白さがドラマの面白さにそのまま繋がっているからこんなに引き込まれるんだろうなと思いました。
リアルとファンタジーのはざまという点では、キャラクターの多くがそれぞれに自分なりのプロレス像というものを持っていて、ファンタジーというかショー指向が強い千種と、ストイックな真剣勝負を指向する飛鳥との対立がみられたほか、こういう対立がいろいろな人物のあいだでいろいろな場面で起きる面白さがありました。
松永兄弟とて興行としての成功を最大化しようとしていますが、そのためにはリアルさが肝要なのかショーアップこそが重要なのか、揺らいでは対立を起こしました。
意外にも反則ファイトとクリーンファイトの対立はドラマの中ではそれほど起きていなくて、善と悪の戦いという構図が基本的に必要であることは、少なくともヒロインたちを含めたプロレス関係者の間では共有されている様子でもありました。
特にメインの香と千種はプロレス観は似通っていて、その善と悪の両側面を演じる意識がある描かれ方だったので面白いです。
ただそれだけに、悪の女王となることを決意したヒロイン、香はダンプ松本という自ら作り出した虚構に飲み込まれてしまって私生活でもダンプであろうとしてしまう過ちを見せました。
『ダークナイト』のジョーカー役にハマりすぎて亡くなってしまったヒース・レジャーのような状態だったのかなと思えました。
寄せられる誹謗中傷や脅迫のレターを見て、昔は観客が素朴だったよなあと思ったりもしましたが、番組中での役柄から誹謗中傷されて、木村花さん(まさに彼女も女子プロレスラーでしたが)が自死したのが2020年ということを考えると、パブリックイメージと実像の間のコントロールが難しいのは今でも変わらないのでしょう。
芸達者な演技陣の力もあって、多様な人間関係が織りなす群像劇として満足度が高い中、香を演じたゆりやんレトリィバァは、演技力どころではないんだけど存在感がひたすらあって、それだけに素晴らしいものがありました。
このキャスティングがまた、成功要因として大きかったんでしょうね。
ゆりやんってこういう娘なのかなっていう感覚が妙に胸に迫ります。
千種役の唐田えりか、飛鳥役の剛力彩芽のそれらしさも驚きましたね。
実際には、セクハラの問題がかなりあったのではないかと想像されるのですがその要素はまったく触れられていません。
そこは、多くの人物を実名で出しているのでセンシティブになりすぎるのを避けた
とは思うものの、恋愛要素も禁止されているからといってほとんどまったく描かないし、うまく捨象できたなと思いますね。
ここもドラマを短めにまとめるコンパクトさが奏功した面もあったのでしょう。
一方、女性への抑圧とそこからの解放というテーマもおそらくありました。
基本的に男性が女性同士を軍鶏や闘犬のように争わせる抑圧的な構図が終始ありながら、彼女たちがそこから脱出し解放を得る物語となっていたことも重要でした。
ビューティ・ペアを辞めたジャッキー佐藤が復活する経緯にもそのテーマが込められていたのでしょう。
それゆえに、最終回ではそれまで期待しなかった、圧倒的に爽やかな感動をもたらしていました。
観た人たちの熱量の理由、よーくわかりました。