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【SF】2025オールタイム・ベストSF応募(海外長編・編)

https://www.hayakawabooks.com/n/n1761af76b5bf

SFマガジンのオールタイム・ベスト、海外作品で何を投票したかもお知らせします。
こちらは結構たくさん読んだ中から選んでますので、そんなに変なラインナップではないのでは。
まず今回は長編のみご紹介しましょう。

海外長篇ベスト5
1. 『ディファレンス・エンジン』ウィリアム・ギブスン&ブルース・スターリング2. 『闇の左手』アーシュラ・K・ル・グイン
3. 『プロジェクト・ヘイル・メアリー』アンディ・ウィアー
4. 『ドクター・アダー』K・W・ジーター
5. 『ソラリス』/『ソラリスの陽のもとに』スタニスワフ・レム

ディファレンス・エンジンをベストにする人は多くないかもしれませんが、濃密すぎる歴史改変SFとして、何度読んでも把握しきれない、でもとにかくすごい小説です。
スチームパンクと思われていますが、ガジェットがたくさん出てくる19世紀風ファンタジーというスチームパンクの主流からは大きく外れており、歴史改変ものと考えるのが良いでしょう。
『ニューロマンサー』をベスト5から落としてでも入れるべきと思いました。

2位の『闇の左手』も、両性具有人類が生きる惑星の気候と独自文化の書き込みがすごく、これも難しい小説でしたがとにかくなんかスゴイとの感覚から選出。
再読してもいないんですが、5位の『ソラリス』同様、自分には手が届かないと感じる、至高のSFのひとつです。

最近の作品、というか21世紀のベストとして、3位の『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は外せないと思いました。
誰かがTwitterで「こういうSFが読みたくて、SFを読んできた」というようなことを呟いていましたが、よくわかります。
SFファンがSFに求める一番大事なものが詰まっている最高の作品です。
アンディ・ウィアーは『火星の人』(オデッセイ)に続いて本作が映画化進行中とのこと。
ということは、映画が完成してプロモーションが始まったら内容がなんとなくわかってしまうので、そうなる前に、未読の人はすぐに読んだ方が良いです。
最初のページの何もわからない状況から、だんだんわかってくる過程が、まさにSFなんです。
そのあとの展開もSFなら、クライマックスもSFだし結末もSFだし、なにもかもが徹頭徹尾SFそのもので、それでありながら読者を選ばないであろう軽妙な語り口と娯楽性。
『三体』も当然考えましたけど、より好きな作品としてこちらにしました。

4位の『ドクター・アダー』ですが、サイバーパンク以前のサイバーパンク的SF小説として、もっともパンク感が強い作品として強烈でした。
読んでいるとセックス・ピストルズが聴こえてきそうな暴力的なテイストの訳文に興奮しましたね。
背徳的なモチーフがいっぱい出てくるけど、耽美的な方向に走らないのがイイ。

5位は新版は買ったものの、まだ旧『ソラリスの陽のもとに』しか読んでいないのですが、やはり圧倒的でしょう。
相手は異星の知性なんで、何もわからないんですよわかろうとしたって無駄なんですよ、っていうだけの話を長編小説として書けるのは、レムしかいないんじゃないかと誰もが思いますよね。
タルコフスキーとソダーバーグが映画にしていますが、映画にするためにだいぶ「人間寄り」の脚本になっており、こりゃ仕方ないかなって思います。
小説という形式でしか、この作品のツボは表現できないでしょう。

その他、候補にしたのは以下です。
『ニューロマンサー』ウィリアム・ギブスン
《ハイペリオン》四部作 ダン・シモンズ
『アッチェレランド』チャールズ・ストロス
『ブラッド・ミュージック』グレッグ・ベア
『レッド・マーズ』キム・スタンリー・ロビンソン

『ニューロマンサー』については……何度読んだかわからないし、入れて当然ですが『ディファレンス・エンジン』を優先したせいでベスト5から落ちました。
とにかくカッコイイけど難解っていうこともあり、薄っぺらなファッション小説との見方も当時ありましたが、SFが苦手としてきた「文化」(文明ではなく)の未来に本格的に取り組んで成功した最初の長編小説、という面があります。
それに、結末で明かされる真相とか考えると、結構骨太なSFなんじゃないかと思うんですよねえ。
Apple TV+でのドラマ化が気になります。

《ハイペリオン》四部作もスコセッシが映画化するという話があったような気がするのですが立ち消えでしょうか。
ロール・エンディミオン役?のディカプリオが歳をとったのとクズ役を演りたがったせいで、キャスティングが難しくなったに違いない。
超大作映画6部作ぐらいで、ポスト『スター・ウォーズ』を狙ってほしいです。
エピックなSFとして『デューン』も良いですが、『ハイペリオン』だけでいろんなジャンルの短編SFが6編楽しめるしかけで、そういう盛りだくさんなところにお得感があるんですよね。
一番好きなのは、『ハイペリオン』の筆頭「司祭の物語」ですよ。
あの地味ーな、19世紀小説のような、文化人類学的な雰囲気がたまらないです。
中島らもの『ガダラの豚』にもああいうのがあってすごく好きでした。

サイバーパンクの発展形として理想的だと思ったのが『アッチェレランド』で、現代とあまり変わらない近未来の描写が妙に的確。
第一部の主人公マンフレッドはネット有名人「プロ奢られヤー」さんそのもので、かつApple Vision Proを装着してうろつきまわるような人物なので、その的確な近未来描写に驚きます。
そこからの加速度的な発展が極端で、現代から未来に助走をつけて一気に離陸するみたいな感覚がありました。

『ブラッド・ミュージック』は、サイバーパンクではありますが、バイオテクノロジーもの、かつ大人が考えた人類補完計画(庵野秀明は大人じゃないのかって話ですが……)みたいな内容で、エヴァンゲリオンの元ネタのひとつなんでしょう。
過激なビジョンを示しながらもそこに至る過程が丁寧で、すごくよくできてるなあと高校生当時思ったものでした。
高校の時は『ニューロマンサー』よりフェイバリットだと思ってた作品です。

『レッド・マーズ』は、傑作ぞろいの火星SFの中でもアンディ・ウィアーの『火星の人』が出るまでは最高傑作かなと思ってました。
ジェフリー・A・ランディスの『火星縦断』グレッグ・ベアの『女王天使』なども良かったんですが、『レッド・マーズ』は規模の大きい火星テラフォーミングプロジェクトに参加する人々の群像劇で、火星を環境改造しようとするとこういう問題が起きるんだなあと勉強した気分でした。
続編は読んでないのですが…… ハヤカワ文庫ばかりになりがちなので創元も入れようなかなって思ったのです。
結局5位までは全部早川ですね(ディファレンス・エンジンは当初角川でしたけど)。

ほかにも『重力が衰えるとき』とか『ディアスポラ』とか《老人と宇宙》シリーズとか『ジュラシック・パーク』とか『ファーザーランド』『高い城の男』とか『永劫』『時間的無限大』とか、『うしなわれた世界』『フランケンシュタイン』『未来のイヴ』なども……
きりがないです。

次回は海外短編についてお話しします。

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