情報提供とコミュニケーション
電話応対を苦役だと感じている人も多いと思います。一方で電話応対を楽しんでいる人もいます。どうせなら苦役ではなく楽しんで仕事に向かってほしい、今回はそんなことが伝わればなと思いながら書きました。
さて前回、自分の体に取り込んだうえでの的確な感情表現は、お客さまの感情を浄化することすらできると、ちょっと大げさなことを書きました。
浄化するかどうかは別として、少なくとも感情表現は単なる情報提供ではありませんよね。まず、情報提供とコミュニケーションの違いを書いておきます。
情報提供とは
コールセンターにおける情報提供とは、単に質問に答えるということです。
もしくは、”私は知っているけれど、あなたは知らない情報”を提供するということです。
例えばネット通販の窓口であれば、値段や商品の在庫状況、商品の仕様や購入方法などなどです。
A:◯◯はいくらですか?
B:1000円です。
A:どこで売ってますか?
B:横浜店に在庫があります。
上記のようなやり取りであれば、単なる情報提供と言ってよいでしょう。
情報提供では、情報を与える側(B)には何の変化もなく、情報を受け取る側(A)には、情報が増えた、というだけの変化が起きます。おおかたのお問い合わせはこれで十分かもしれません。
しかし中には、情報提供を求めているのではない電話が入ります。コミュニケーションを求める電話です。
コミュニケーションとは
コミュニケーションとは、お互いに影響しあうことです。
情報提供では(A)だけが変化しますが、コミュニケーションにおいては、(A)(B)双方が変化します。
例えば、謝罪という感情表現であったとしても、こう言われたら謝罪しなさいという手順に則って詫びている限り、(B)に変化はありません。謝罪の前も後も、会社のルールに則って仕事をこなしているだけです。
相手の話に耳を傾け、それを体に受け入れたとき、謝罪の言葉が口を突いて出てしまう。このとき、(B)に変化が起きたのです。その自分の中で起きた変化を的確に表現し、それが(A)に伝わったとき、(A)もまた変化するのです。
そのためには、(B)がきちんと“その場に居る”ことが重要です。
“その場に居る”とはどういうことか。それを分かって頂くために、“その場に居ない”とはどういうことかを説明したいと思います。
”その場に居ない”とは
“その場に居ない”とは、体はそこにあっても気持ちや意識がそこにないことです。
例えば「どうせバイトだし、ここではお金さえ貰えれば、本当にやりたいことは別にあるし。」と考えて接客をしている場合、気持ちはそこにありません。
「こう言われたらなんて答えるんだっけ。あれ、こんな質問、教わったっけ?マニュアルのどこに書いてあるのかわからない!」ということばかり思っている人は、入電者ではなく、マニュアルを見ています。入電者の前に居るのは、マニュアルの代理です。
この人にとって入電者の質問はテスト用紙に書かれている設問に過ぎません。
あなたは、こんな人に対応してもらいたいですか?
では、きちんと”その場に居る”とはどういうことか。三波春夫の言うように「雑念を払ってまっさらな、澄み切った心で」入電者に集中するのです。
この人はどんな人だろうか、この人はどんな気持ちで電話をかけてきたんだろうか、この人は今どんな状況にいるんだろう、この人はなぜこの質問をしてきたんだろう、この人はどんな言葉をかけてあげたら喜ぶだろう、この人にはどんなふうに説明したらわかってもらいやすくなるだろう、この人は、この人は…。
とにかく入電者に集中するのです。全身全霊で入電者に向き合うのです。
そうすれば、私は何を言えばいいんだろう、と不安になることもなければ、まして私の言うことを聞いてくれない、などという不満も出てくることはありません。
情報提供はよく出来たWEBサイトでもできます。コミュニケーションは人にしかできないことです。
そして、たとえ情報提供を求めている人であっても、つっけんどんな対応でも全く気にならないという人は稀です。基本的に人は、相手の反応を気にしコミュニケーションを求める生き物です。
”全身全霊で向き合う”とは
”全身全霊で向き合う”などというと、とても大変な疲れる仕事のように思われるかもしれませんがそういうことでもありません。
例えば、ちょっと想像してみてください。
自分は全く興味のない買い物に一緒に行ってほしいと頼まれて付き合う場合、ただ相手が選んでいるのを見ながらゆっくり歩いているだけなのに、とても疲れますよね。
一方、ゲームが好きな人なら、熱中して何時間でもプレイに集中しているかもしれません。
ゲームのほうが、よほど神経を集中させ、脳みそをフル回転させているにも関わらず、買い物のほうが疲れるのはなぜでしょう。
買い物だから疲れるのではなく、
興味がないことを
させられているから
疲れるのですよね。
質問されるから調べさせられる、ではなく、電話くれた人にサービスを提供するのです。
”受電”とは電話を受けることですが、行うべきことは受身ではありません。サービスとは能動的な仕事です。
どうぞ自分から、コミュニケーションを取るようにしてみてください。
相手に興味を持ち、仕事に興味を持って行えば、電話は苦役ではなくなります。
では、また。
世界や自分自身をどのような言葉で認識するかで生き方が変わるなら、敬意を込めた敬語をお互いに使えば働きやすい職場ぐらい簡単にできるんじゃないか。そんな夢を追いかけています。