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毎週金曜日は気になる敬語

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敬語は本来、敬意を伝えるツールであり、人間関係を見える化する便利なツール。そんな敬語の有用性を見直し、100%活用するために、ポイントや誤用例を紹介します。毎週金曜日に更新してい…
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『猫語の教科書』に学ぶ敬語のエッセンス④〜目上が優れているとは限らない

世にも賢い猫が、なんとタイプライターを駆使して原稿を仕上げ、人間の家の乗っ取り方を指南する『猫語の教科書』。 猫好きにはたまらない本でしょうけれど、それだけでなく、実際に読んでみると驚くことに敬語のエッセンスが散りばめられていました。 なるほど猫があれほどに人間を魅了してやまないのは、見た目の可愛さに甘んじることなく、ここぞというときの敬意を十分に踏まえているからなのですね。 敬語は人を支配するためのものではありませんが、人間をいとも簡単に支配してしまう猫から学ぶ敬語のエッ

者 < 人 < 方

者とは 「狼藉者!」という言葉がありますね。 狼藉とは乱暴な振る舞いのことです。 そして者は物に通じ、同語源です。 つまり、「者」であれば人を下げて扱っているわけですから、「人」と表現するのは、「者」と表現するよりも、敬意のある表現です。 方とは方とは、方角を表す言葉です。転じて、名前を呼んだり直接指し示したりすることがはばかられる尊い人を指すときに使われます。 つまり、「人」よりも「方」のほうが、敬意のある表現です。 自分を指して人とは言わない「私って、コーヒー飲め

お下見~気になる敬語#20

緊急事態宣言も緩和され、酒を出す店からも活気が伝わってくるようになった。 そんな中、この看板を見つけた。 「お下見」……? いや、「冷やかし大歓迎」という看板なら見たことはあるが、「お下見大歓迎」は初めて見た気がする。 まぁ、近所で見つけた看板だから、今までもあったのかもしれない。今まであったものに気づかなかったなら、他所にあっても気づかずにいたのかもしれない。 ともあれ、どうにも違和感がぬぐえない。 パーティなどもできる個室のあるところなので、下見に来る客もいるであ

来週のお届けになります~気になる敬語#19

私の記事を、言語学者のアミール・カビールさまが、引用してくださいました。 引用された私の記事はこちらです。 「~になります」は、 の表れであり、 という問いを立てたとき、 と結論づけています。 とおっしゃるアミールさんですが、私は「事実としては大きく異なってはおらず、悪気もないならば、言葉は多少間違っていても構わない」という意識でいると、いつの間にか言葉が認識や気持ちに影響を及ぼすので、外から分かる言葉から正していくべきと考えています。そして、それが端的に現れるの

『猫語の教科書』に学ぶ敬語のエッセンス③〜矛盾も受け入れる

世にも賢い猫が、なんとタイプライターを駆使して原稿を仕上げ、人間の家の乗っ取り方を指南する『猫語の教科書』。 猫好きにはたまらない本でしょうけれど、それだけでなく、実際に読んでみると驚くことに敬語のエッセンスが散りばめられていました。 なるほど猫があれほどに人間を魅了してやまないのは、見た目の可愛さに甘んじることなく、ここぞというときの敬意を十分に踏まえているからなのですね。 敬語は人を支配するためのものではありませんが、人間をいとも簡単に支配してしまう猫から学ぶ敬語のエッ

『みなさん これが敬語ですよ』~読書感想文#12

『みなさん これが敬語ですよ』は、萩野 貞樹先生の本です。 萩野先生の魅力萩野先生については、多分、好き嫌いが別れるでしょうね。 ご自身でも自覚していらっしゃるようで、本の冒頭に、自分の話が気に食わない人は読むな、というような主旨のことが書いてありますが、株式会社リヨン社から発行されているので、よかったら読んでみてください。 また、敬語についての考え方が異なる人についてプロローグ(p.12)では、「~と主張する人たちは、しばしば非常に依怙地で」と形容する一方、彼らが自分

『猫語の教科書』に学ぶ敬語のエッセンス②〜建前

世にも賢い猫が、なんとタイプライターを駆使して原稿を仕上げ、人間の家の乗っ取り方を指南する『猫語の教科書』。 猫好きにはたまらない本でしょうけれど、それだけでなく、実際に読んでみると驚くことに敬語のエッセンスが散りばめられていました。 なるほど猫があれほどに人間を魅了してやまないのは、見た目の可愛さに甘んじることなく、ここぞというときの敬意を十分に踏まえているからなのですね。 敬語は人を支配するためのものではありませんが、人間をいとも簡単に支配してしまう猫から学ぶ敬語のエッ

『猫語の教科書』に学ぶ敬語のエッセンス①〜所有者敬語

世にも賢い猫が、なんとタイプライターを駆使して原稿を仕上げ、人間の家の乗っ取り方を指南する『猫語の教科書』。 猫好きにはたまらない本でしょうけれど、それだけでなく、実際に読んでみると驚くことに敬語のエッセンスが散りばめられていました。 なるほど猫があれほどに人間を魅了してやまないのは、見た目の可愛さに甘んじることなく、ここぞというときの敬意を十分に踏まえているからなのですね。 敬語は人を支配するためのものではありませんが、人間をいとも簡単に支配してしまう猫から学ぶ敬語のエッ

思考や行動を変えるのは難しいから、敬語を使うというのはどうでしょう?

例えば人の悪口を言って笑っているとき、それはちょっとした息抜きになっているかもしれない。悪口とはいっても別に「死ね」とか言っているわけじゃないし、そもそも、「あいつさぁ」で通じる人としか話さないから、別に誰の話とも明言していない。 そんなことは、学校でも会社でもよくある風景ではないでしょうか。 そこへ、「そういう話、よくないと思うな」と言う人が入ってきたらどうでしょう。 いや、別に逆でも構いません。 建設的な意見しか言わず、悪口も愚痴も聞いたことがないという集団の中に

温故知新~「ハレ」と「ケ」で敬語を考えてみる

先週は、敬語を使う相手に対し、好き嫌いどころか、相手が悪人にしか見えなくてもそれが上司であるならば敬語を使うと書きました。それは、人が考える善悪はその時々によって変化するものだけれども、敬語とはその場の人間関係における上下に基づいて使われるものだからです。 しかしこのように書くと、個人的な好き嫌いの感情や人それぞれの善悪の判断にはまるで価値がないと言われているように感じられるかもしれませんね。 でも、そういうことではありません。このように敬語を使うことで「メタ認知」を養う

相対敬語を使うことで、メタ認知を手に入れる

先週は、「人智を超えた何か、人の都合では変わらない何かを想定しましょう」と書きました。 その想定によって、俯瞰した視点を手に入れることができます。 敬語は善悪をも超える敬語は、自分の個人的な判断にはとらわれずに敬意を表するので、自分から見て相手が善人か悪人かは気にしません。 「いやいや、悪人と分かっていて敬語を使うなんて、ヤクザの子分くらいなものだろう。犯罪者に敬語を使うなんて、俺は絶対にしないね」なんて考える御仁もいらっしゃるかもしれませんね。 しかしどうでしょう、自

敬語を使うには”自分を超えた”ではなく”人智を超えた”何かを想定する

先週は、「敬語は不平等か?」というテーマで、敬語が表す上下と人間としての尊厳は関係ないと書きました。 それならば、何に対して敬意を払うのでしょうか。 それは、人智を超えた”何か”です。 自分には分からないものがある、と考えると自分だけが愚かなような気がしてしまいます。ですので、人間は全知全能ではないのだと広く捉えましょう。かつ、その人間の向こう側に”何か”とのつながりを見て、その”何か”に敬意を払います。 ”お天道様”から見れば、人の善悪は小さい独特な敬語体系が生まれた我

敬語は不平等か?

以前、とある文章を読んで、「やっぱり、今認識されている敬語ってこういうことだよなぁ」と現実を突きつけられました。それが、作家である橘玲氏のこちらの文章です。 いや、私に言わせれば、「ビジネス敬語」には、「部長は平社員よりも人間として尊い」なんて含意はないし、どちらかというとあっては困るんだけど……。 ということで今回の記事をお届けします。 ご高覧くださいませ。 権力を抑制し個人の自由を最大化することを目指すリベラリズムには、万人が平等であり、誰もが等しく人権を持っている

敬語が世界を平和にする『日本語が世界を平和にするこれだけの理由』〜読書感想文#41の④

この本の著者は金谷武洋。カナダで25年日本語を教え続けた先生です。 先週は、他動詞のSVO構文を基本とする言語が二元論と支配につながるという著者の説を受けて、敬語はそれを否定すると述べました。 自己主張には自己主張を、敬語には共感をそれでは、英語では平和になれないのでしょうか。私はそんなことはないとも思っています。 もし、相手を単に支配することが目的なら、こちらが自己主張をし、相手は自己主張をしないのが最適です。しかし、英語圏では小さい頃から自分の意見を言う場が与えられ、デ