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食品業界のバーティカルなDXと、キュレーション型サブスクの親和性
シード・アーリースタートアップに特化したVCのジェネシア・ベンチャーズでインターンをしている水谷圭吾(@keiggg_gv)と申します。
本記事は、特定の食品業界に特化した(=バーティカルな)DXと、多くの作り手から商品を集めて届けるキュレーション型サブスクに高い親和性があり、そこに事業機会があるのではないか、という自分の考えを述べるものです。
また、D2Cブランドでのサブスク事業を考える際のポイントについても自分の考えを紹介しています。
読者の皆様に、食品業界DXや食品サブスクについての可能性を少しでも感じていただければ幸いです。
まとめ
【パンフォーユー】から考える、業界のDXとキュレーション型サブスク事業を並行して行う戦略が面白い
キュレーション型でどの食品を攻めるかは、【嗜好性】と【作り手の多様性】から考える
D2Cで重要なのは、【そのブランドならではの美味しさ】に加え、美味しさ以外の【+αの価値】をいかに作るか
食品の冷凍化には大きな事業機会があるのでは
チョコレートのD2Cブランド Minimal
数カ月前、Twitterで元中川政七商店CDO(現PTO)の緒方恵さんがMinimalというチョコレートブランドのサブスク宅配サービスについてつぶやかれていたのを目にしました。大の甘いもの好きな私はそのサービスに心惹かれましたが、ひと月4,000円というのは学生の私には高く、そのままブラウザを閉じました。その夜また気になって申し込みページを開いてみると、申し込み枠は既に完売していました。
私は思いました。工房やカカオの品種などにこだわるほどにチョコレートを愛する人のイメージとして浮かぶのはお金持ちで余裕のある方々が多いだろうな、と。(楠田枝里子さんがテレビ番組でチョコレートについて熱く語っているのを見たことがありますが、その影響はあるかも)
そんな方々にとって、ひと月4000円で毎月新しいチョコレートが届くのであれば、それは即買いだろうな、と。
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そんなことから、ある品物に特化した食品サブスク宅配サービスに興味を持ち、本記事を執筆するに至りました。
全国のパン屋さんからパンが届くサブスク【パンスク】
紹介したチョコのサブスクのMinimalの他にもう一つ、私が購入を検討している食品サブスク宅配サービスがあります。株式会社パンフォーユーが行っている【パンスク】です。
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Minimalは、自社で職人さんを抱え、商品開発・製造を行い、ECの他に実店舗も構えるD2Cブランドです。その販売チャネルの一つとしてサブスク型定期宅配サービスを行っています。
一方、パンスクは、全国どこかのパン屋さんからパンが届く、というキュレーション型のサービスで、自社でパンを製造していません。送られてくるパン屋さんを選ぶことはできませんが、恐らくパンフォーユーの社員さんお墨付きの、選りすぐりのパン屋さんのパンを楽しめるという点で、知らない全国のパンに出会う面白さがあります。
また、一度届けられたパン屋さんが気に入れば、そのパン屋さんのオンラインショップが利用できるようになります。
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自分でパン屋さんを選べない、けれど選べないからこそ出会える偶然性の面白さがこのサービスにはあります。共通点があるな、と思い出したのは映画配信サービスの「ザ・シネマメンバーズ」です。このサービスは、アマプラ・ネトフリなど大手サービスに比べ映画の種類はとても限られているのですが、このサービスは作品の本数ではなく質で勝負しており、ミニシアター・単館系作品を中心に、「本当に映画が好きな人」へ向けて厳選された映画が毎月配信されるのです。
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コンテンツ過多の時代に、パーソナライズされたレコメンデーションを与えてくれるのも良いですが、強制的な出会いを与えてくれるサービスもとても面白いと感じています。
また、パンスクを運営するパンフォーユーは、パン業界のDX推進を目指し、パン屋さんやパンを売りたい事業者、パンを届けてほしいオフィスに向けたビジネスも展開しています。ここが本記事のポイントで、キュレーション型サブスクと業界DXには高い親和性があると感じており、のちほど詳しく紹介します。
バーティカル食品サブスク宅配サービスの海外スタートアップ事例
食品ビジネスはお金になりにくい、というイメージを持たれている方も多いかもしれません。しかし、食品業界はまだまだEC化を進める伸びしろがあるうえ、海外では大型の資金調達を行うスタートアップも登場していることから、この領域には大きな可能性が眠っていると考えています。
ある食品領域に特化したサブスク型宅配サービスとして、高く評価されている2社を紹介します。
Daily Harvest 2015年創業 累計$120M調達
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自社生産の冷凍食品に特化したD2Cサブスク型宅配サービスを提供しています。
冷凍スムージーのデリバリーサービスをはじめとして創業し、現在はサラダやスープなど、商品の幅を広げています。1食あたり6.99ドルで、週9個または月24個から(結構多いですね)。配送時は冷凍されて容器に入っており、温めるだけで食べられて、準備もいらない点が魅力です。
「調理の手軽さ」という魅力は、国内だとオイシックスのkit Oisixや、大阪のスタートアップnoshが狙っています。
特にnoshは
・調理された料理を冷凍してお届け
・届いた後は、電子レンジで温めるだけでOK
・料理をお皿に移す必要もなく、食べた後はそのまま容器をゴミ箱へ
という魅力がある点で、Daily Harvestと共通しています。
冷凍食品市場は伸びているドメインであり、調理の簡単さに加え、賞味期限が長く廃棄が出にくい(=フードロス削減にもつながる)ため、事業領域として面白いと考えています。
Imperfect food 2015年創業 累計$229M調達
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規格外野菜を集めた野菜ボックスのサブスク型宅配サービス。Daily Harvestとは異なりD2Cブランドではありません。
送られてくる中身は完全に指定でき、規格外の農産物だけでなく、売れ残ったコーヒーや、サイズのバラバラな卵などもあります。通常のスーパーよりも3割程度安価だそうです。
日本ではオイシックス・ラ・大地が2021年9月より「もったいないマーケット」と称し、規格外の農作物などを購入できるサービスを行っています(定期宅配ではない)。
また、2021年2月より東京都中央卸売市場 大田市場の青果仲卸の株式会社サンオオタが規格外青果物のECサイトをオープンしています。
日本の青果物に対する規格はかなり厳しいと考えていて、規格外野菜をうまく集めることができれば、国内でもImperfect Foodと同様のビジネスモデルに可能性があるかもしれません。
食品サブスクの戦略仮説
キュレーション型か、D2Cブランドか
ある食品領域に特化したサブスク事業を始めようと考えた際、自社でその商品の開発・製造は行わず、ソムリエ的役割に徹するキュレーション型と、開発からECサイトでの販売まで、すべて自分たちで行うD2Cブランドの設立、という2つの大きな選択肢があります。
現在、国内では多くのキュレーション型サブスクが登場しています。日本酒の「saketaku」、クラフトビールの「otomoni」、チーズの「LE COMPTOIR」など、一見、サブスクになっていない領域はほとんど残っていないようにも思えます。どうぞ、googleの検索ボックスに「〇〇(食品名) サブスク」と打ち込んでみてください。プレイヤーはたくさんいますが、突出して大きく成長している事業は今のところ思い当たりません。
一方、D2Cブランドでは、(サブスクは行っていませんが)日本酒の「Clear」が大きく成長しています。累計調達額は約13億円で、高級日本酒ブランド「SAKE HUNDRED」の他、国内外で日本酒メディアを展開しています。
サブスクを行うD2Cブランドでは、お菓子のサブスクを提供する「snaq. me」が、累計6億円を調達しています。snaq.meは、当初はキュレーション型サブスクでスタートし、半年ほどでD2C型に変更されたそうです。
(代表の服部さんのnoteはどの記事も非常にインサイトフルです)
D2C型サブスクではその他に、コーヒーのサブスク「Postcoffee」や、ダイエットやボディメイクに主眼を置いた宅食サービス「Muscle Deli」などのプレイヤーがいます。
キュレーション型とD2C型のどちらを選択するか、についてですが、キュレーション型の留意点は
原価率を下げにくく、利益率を上げづらいこと
一度お気に入りの生産者を見つけると、サブスクを解約し、その生産者から直接購入する可能性があり、解約率を下げづらいこと
参入障壁が低い(かもしれない)こと
生産者の数が限られる(かもしれない)こと
などが挙げられます。
キュレーション型サブスクを大きく成長させるためには、ソムリエ的な価値の他に別の価値を付与するか、サブスク事業とは異なる事業を並行・先行して進めるのが良いのでは、という仮説を持っています。
キュレーション型×【作り手の課題解決】で〇〇経済圏を築く
サブスク事業とは異なる事業を並行して進める山の上り方として、パンフォーユーのように、サブスクビジネスと同時にその業界のDXを進める、という事業戦略は非常に面白いと考えています。その二つの事業間に大きなシナジーがあると考えるからです。
そのシナジーとは、サブスクに出品してくれる生産者の数と、購入したい消費者の数を増やせる、というものです。パンフォーユーを例にとり、この仮説を説明します。
パンフォーユーは、パン業界のDX推進を目指し、パン屋さんやパンを売りたい事業者向けの「パンフォー・ユーBiz」、パンを届けてほしいオフィスに毎月最大8種類のパンを届ける「パンフォーユー オフィス」を展開しています。
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「パンフォーユーBiz」により、パン屋さんのサプライチェーン管理や販路拡大を支援することで、多くのパン屋さんがユーザーとなり、パン屋さんと広いコネクションを持つことができると予想します。パンフォーユーBizを導入したパン屋さんは、パンスクへの出品に対する心理的不安も小さいと予想されますし、パンスクへの出品とパンフォーユーBizの導入を同時に始める、という営業も想像できます。
また、パンフォーユーがパンの新商品開発のノウハウを蓄積できれば、パンスクのためのオリジナル商品の共同開発なども依頼しやすくなると予想し、パンスクの魅力を向上できる、という好影響もあると考えています。
また、「パンフォーユーBiz」では、小売りや店舗経営のノウハウがないが、パン販売を行いたい人向けの、パン販売支援サービスも行っています。これにより、パンの作り手を増やすことにも貢献し、結果的にパンスクやパンフォーユー オフィスの出品者を増やすことにもつながると考えています。
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「パンフォーユー オフィス」は、オフィスに最大8種類の月替わりのパンを届ける事業です。パンのサブスクの消費者として、個人だけでなくオフィスもカバーしています。
以上に見てきた通り、パンフォーユーは新しいパン経済圏を作ろうとしています。
業界に特化したDXを進めると同時にキュレーション型ビジネスを進めることで新たな〇〇経済圏を築くことができれば、そこに大きな成長可能性があると考えています。
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特定の食品業界のDXや業務効率化に特化したスタートアップとしては、クラフトビール醸造所のDXを進める「Best Beer Japan」が面白いな、と感じています。
キュレーション型サブスク宅配サービスをどの食品でやるか
「冷凍食品」「不適格野菜」「パン」など、その切り取り方は様々ですが、
【嗜好性】と【作り手の数・多様性】がポイントになると考えています。
【嗜好性】については、単価が安い商品だと利幅がとりにくく、「少し高くても、全国の選りすぐられた美味しいものを食べたい」と考える層が多そうな、嗜好性の高いものであればあるほど良いのでは、と考えています。
その意味で、パンスクが届けているパンは9個で約4000円(送料込み)であり、スーパーなどで売られているパンとは異なる、パンの中でも嗜好性の高いものを届け、本当にパンが好きな人を狙っているのだろうと推測します。
【作り手の数・多様性】ついては、生産者のバラエティに欠ける食品であると、「家にいながら全国各地の選りすぐりの美味しいものが食べられる」という魅力がどうしても小さくなります。キュレーション型サブスクの一番の魅力はそこにあると考えているので、作り手が多く存在し、その多くが個人経営の店舗を持っていて全国各地に分散している食材・料理を事業対象として選ぶと、サブスクの価値が大きくなるのではないでしょうか。
D2Cブランドの【+αの価値】をどこに持たせるか
上述したDaily Harvestは冷凍健康食品という切り口で攻め、健康志向性の高さ・調理の簡単さという魅力を持ち成長しています。
陳腐ですが、D2C食品ブランドを立ち上げる際【そのブランドならではの美味しさ】はもちろんのこと、美味しさ以外の【+αの価値】をどこまで作れるか、重ねられるかどうか、が重要と考えています。snaq.meの服部さんは自社ブランドの価値をこう並べています。
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パーソナライズ×サブスクという魅力を抑えているのはsnaq.meの他に、アメリカでワインのサブスクを行うWincなどがあります。
Wincは簡単な6つの質問に答えるだけで、自分に合ったワインを選んでもらえる、という仕組みです。
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D2Cビジネスの長所として、消費者の反応などのデータを溜めることができ、新商品開発に生かすことができる、という点があります。ユーザーや扱う品物数を増やすことと、パーソナライズの精度向上のサイクルを回すことができれば、ユーザーにとって大きな価値が創造できるでしょう。
冊子などのコンテンツについては、弊社の水谷さん(@
KokiMizutani)が利用しているという「東北食べる通信」の例をご紹介します。
これは、簡単に言えば毎月、旬の食べ物が送られてくるサービスなのですが、ホームページでは「食べもの付き情報誌」と謳われていて、生産者・生産現場についてのストーリーが載った情報誌に力点が置かれています。水谷さんも、生産者の顔やストーリーを知るとなかなかやめられない、とお話されていました。
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Daily Harvestやnoshが狙っているような、圧倒的な手軽さ/便利さを実現する、というのも大きな魅力になりうるでしょう。
コーヒーのサブスクを行う「Cometeer」は、挽いたコーヒー豆をを一杯毎に急速冷凍することで、新鮮な状態のまま長期間保存できる革新的なコーヒーの楽しみ方を生み出しました。
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その食べ物の美味しさ以外にどのような+αの価値を乗せるかは、時間をかけて検討すべきところだと感じます。その+αの価値こそが、そのサービスを選ばれる理由になり、参入障壁になるはずです。
キュレーション型とD2Cの折衷案で攻める
今までは、キュレーション型かD2Cか、という二元論で話を進めてきましたが、定期宅配される内容の一部を自社製品にして、他は他社の商品にする、というキュレーション型とD2Cを折衷させる、というやり方もあります。
自社製品を混ぜることで、原価率を下げ利益率を上げやすくなりますし、自社製品に対する消費者データも集めることができ、より良い商品開発を行いやすくなります。弊社投資先の、糖尿病患者向けのミールボックスを販売する「Teatis」は、ミールボックスの中に自社製品のプロテインを加えるという、キュレーション型とD2Cを折衷した形でビジネスを進めています。
あらゆる種類の商品を自社で製造する、というのはかなり時間がかかることです。配送する商品の一部を自社製品にする、というような折衷案や、キュレーション型サブスクから始めて、徐々に自社製品の比率を増やしていく、という戦略も選択肢の一つだと感じます。
事業アイデア:冷凍された料理のキュレーション型サブスク
本noteで紹介したDaily harvestやパンフォーユー、Cometeerなどの共通点は、冷凍技術を上手く活用している、ということです。
冷凍食品は市場として成長している上
廃棄を抑えられる
長期間保存できる
温めるだけで食べられる
という魅力があります。
例えば、私の愛してやまない【カレー】を事業アイデアとして考えます。
個人的に、人気カレー店が最近取り組みつつある冷凍カレーやレトルトカレーは、実店舗で食べるカレーとあまり遜色なく、かなりおいしいと感じています。
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個人経営のお店のカレーのレトルト化や小ロットからの冷凍保存→発送を支援し、冷凍保存したカレーをサブスクで販売したり、それを展開させてオフィスへの配送をプラットフォーム型で行う、というような事業は成り立つのではないか、と妄想しています。販路拡大支援も同時に行い、個人経営のカレー屋さんの業務効率を改善しながらサブスクも行う、という業界DXとキュレーション型サブスクを同時に進める事業などはどうでしょうか。
また、これをカレー以外のあらゆる料理に応用し、例えばスープやスイーツなど、嗜好性が高い+作り手の数が多い領域で、業界のDXとキュレーション型冷凍食品サブスクを進める、という事業アイデアを考えました。
DXの型
ジェネシア・ベンチャーズで事業立ち上げのモジュールとしてストックしているDXの型のうち、この食品業界DXや食品サブスクに適用できるものを見ていくと、
#4データアグリゲーション、#5モノ・時間・空間のROI最大化、#12中間業者のデジタルエンパワーメント(パンフォーユーの業界DXの話)が当てはまるように思います。
#4データアグリゲーション
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#5モノ・時間・空間のROI最大化
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#12中間業者のデジタルエンパワーメント
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まとめ
今回は食品のキュレーション型サブスクやD2Cブランドの事業機会の可能性について記事を書きました。キュレーション型サブスクが増えることで、全国、あるいは世界中の遠く離れた食品に出会うことができ、そこから、その作り手のファンがたくさん生まれる社会に近づくと考えています。
また、外食とは違う食の楽しみ方がもっと広がり、美味しい食べ物にもっと多くの人が出会う社会がいいな、と妄想しています。
食品業界に限らず、キュレーション型サブスクやD2Cブランドでの起業に関心のある方、ぜひお話させてください。いつでもDM(@keiggg_gv)お待ちしています。私はしがないインターン生ですので、他のキャピタリストにお繋ぎすることももちろん可能です。
この記事についてのご意見・反論もいただけると嬉しいです。
さいごに
ジェネシア・ベンチャーズからのご案内です。もしよろしければ、TEAM by Genesia. にご参加ください。私たちは、一つのTEAMとして、このデジタル時代の産業創造に関わるすべてのステークホルダーと、すべての人に豊かさと機会をもたらす社会、及びそのような社会に向かう手段としての本質的なDX(デジタルトランスフォーメーション)の実現を目指していきたいと考えています。TEAM by Genesia. にご参加いただいた方には、私たちから最新コンテンツやイベント情報をタイムリーにお届けします。