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『アイダよ、何処へ?(2021)』を観ました。

自分がその場に居るような気持ちになるくらい、しっかりと起きたことを描いています。そして、起きたことの直前直後は見せますが、あまりに悲惨な『その瞬間』は見せていません。
それは女性のヤスミラ・ジュバニッチ監督が、あえて『その瞬間』を見せないようにしたのでした。この場所でいったいなにが起きていたのかを、目を伏せないでしっかりと最後まで見てもらいたかったのだと思います。
もし『その瞬間』をそのまま見せていたら、私はとても今作を最後まで見れなかったかもしれません。

長靴みたいなイタリアの、東側の海(アドリア海)をこえたところにある、ボスニア・ヘルツェゴビナという国で1995年に起きた話です。同じ年に日本では阪神大震災があり、オウム真理教による地下鉄サリン事件がありました。

今作はノンフィクションになるので『事実をもとにして作られたお話』です。
かといって、当時の事実を撮影した映像を繋ぎ合わせたものならドキュメンタリーとなるわけです。それとは違ってこの作品の場合は、敵も味方もすべて演者さんが出てきて演じ、舞台はセットだったり建物をお借りして撮影し、そうやって撮ったものを繋いで作品にしているので、『事実を知ってもらうため、事実を再現して作った映画』ということになります。

私はレンタル屋で「鋭くこっちを見ているアイダの顔」のジャケを見て借りて、あえて予告も見ないで観てみました。
当時この国は、いくつかの民族の縄張り争いが激化していて、他の民族のことを考えてるような余裕なんか全くなかったようです。
今作は何も前情報を知らないで見ても、わかりやすい作品だと思います。

この作品に描かれている件については、攻め込んだ側は裁かれるような事実を広く知られたくないし、攻められた側も失敗した事実を広く知られたくない。となると、どっち側も隠したくて、当然どこも協力もしてくれないわけなのでした(監督さんがインタビューで言っていた)。今更ながら、監督が作り上げた今作は映画館で見てあげたかったです。でも知らなかったのでDVDレンタルであっても、『ちゃんと最後まで作品を見よう』としっかり目を見開いて観ました。

今作で、まだ若い国連平和維持軍の青年が泣き出します。「わざわざ命懸けでここまで来たのに、私らはいったい何をやらされているんだ」というどうにもならない矛盾。フィクションは最後に正義が勝つけど、これは残酷な現実であり、ノンフィクションなのでした。
フィクションの架空のお話の爽快感も映画だが、ノンフィクションの事実を体験するかのような、まるで心臓を握られたかのようなドキドキ感も同じ映画なんだと思います(『アルゴ ARGO(2012)』もドキドキでした)。
そして、それまで全然知らなかったことを知るきっかけになるのもまた、映画なのでした。

他にはどんなボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の映画がるのかと調べてみたらかなりあって( https://ja.wikipedia.org/wiki/ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争 )、ネットDVDレンタル(Geoとか)で借りれるようです。

・今作のヤスミラ・ジュバニッチ監督:『サラエボの花 (2005年)』
・今作と同じ事件を扱ったジャコモ・バティアート監督作品:『U.N.エージェント (2008年) 』
・『ナイロビの蜂』のレイチェル・ワイズ出演の社会派アクションサスペンス:『トゥルース 闇の告発(2010)』
・アンジェリーナ・ジョリー監督の最初の映画作品:『最愛の大地 (2011年)』

(あと、ジャン=リュック・ゴダール監督が、なんとボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を題材とした作品を3作品『たたえられよ、サラエヴォ (1993年)』『フォーエヴァー・モーツアルト (1996年)』『アワーミュージック (2004年)』も作っていたなんて、全然知らなかったです)

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