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バブル崩壊後の残影 誠実不動産

高層ビル群の谷間にひっそりと佇む「誠実不動産」。その名の響きとは裏腹に、この小さな不動産屋は、バブル崩壊後の東京で独自の道を歩んでいた。社長の田中は、常に「誠実」を口にし、顧客第一主義を掲げていたが、その実態は複雑だった。

田中の野望と現実

田中は、時代の変化を敏感に感じ取り、生き残りをかけた戦略を練っていた。バブル期の栄光を知る彼は、再びあの輝きを取り戻すことを渇望していた。しかし、現実は厳しく、かつてのような派手な取引は影を潜めていた。

「商売は戦争だ。勝った者が全てを手に入れる。」

これが田中の信条だった。彼は、多様なステークホルダーとの関係を築き、情報を収集し、時にはリスクの高い取引にも手を伸ばした。政治家との繋がりもその一つだった。彼は、政治家たちとのパイプを利用し、有利な情報を得ようとしていた。

「政治家も結局は金だ。彼らに便宜を図ってもらえれば、こっちのものだ。」

そう嘯く田中の目は、常に次の獲物を探していた。彼のターゲットは、主に主婦や学校の先生など、不動産取引の経験が少ない人々だった。彼らは、田中の巧みな話術に魅了され、時には不利な条件でも契約を結んでしまうことがあった。

「解釈の違いですよ。考え方の違いです。」

田中は、そう言って顧客を丸め込んだ。彼の言葉は、時に優しく、時に力強く、相手の心に巧みに付け入った。

誠実不動産の日常

誠実不動産で働く社員たちは、田中の指示に従いながらも、内心では複雑な思いを抱えていた。

「本当にこのままでいいのだろうか?」
「顧客を騙して、自分たちだけ良ければいいのだろうか?」

彼らの胸には、日々の業務の中で生じる倫理的な葛藤があった。
しかし、生活のため、彼らは田中の指示に従うしかなかった。

営業部の佐藤は、特に葛藤を抱えていた。彼は、顧客の笑顔を見ることに喜びを感じていたが、時には罪悪感に苛まれることもあった。

「お客様の幸せを願うことが、本当にできていただろうか。」

彼は自問自答を繰り返した。

事務の立木は、会社の帳簿を見ながら、数字の裏に隠された真実に気づき始めていた。

「このお金の流れは、一体どこから来ているのだろうか。」
田中は、都市開発の情報をいち早く仕入れ、家の立ち退きや土地の買い占めを次から次へと行った。それと同時にある個人事務所への多額の振込も行われていた。政治家との癒着を行っていた。現預金の不透明な支出も最近は目立つ。勘定科目は全て雑費だった。

彼女は、会社の不透明な部分に疑問を感じ始めていた。

転機と決断

そんなある日、誠実不動産に転機が訪れる。ある政治家の不正献金が問題となり、同政治家の事務所の捜索で、田中からの金の動きも発覚した。また、事務所から内部告発として警察に書簡も投函した。告発内容は、瞬く間にマスコミにも取り上げられ、誠実不動産は社会的な批判を浴びることになった。

警察の捜査も本格化となり。田中は逮捕された。誠実不動産は倒産し、社員たちは路頭に迷うことになった。


立木は、告発者として名乗りを上げた。彼女は、会社の不正を明らかにし、真実を追求することで、自分の良心に従うことを選んだ。両親の家も田中に騙されて今はもう戻る事は無いが、せめてもの誠実を貫くことができた。

「商売は、人を幸せにするためにあるべきだ。真実は、いつか必ず明らかになる。」彼女は、勇気を持って真実を追求した。


※上記に登場する人物名、会社名は仮名になります。

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