荒岡さんアイキャッチ

ドイツにおけるコーディネーション


本日はドイツのライプツィヒ大学スポーツ科学部に在籍し、RBライプツィヒU9でコーチをつとめる荒岡修帆(@a_shuho)さんによる

ドイツにおけるコーディネーション

をお送りします!

画像5



ドイツにおけるコーディネーション

画像6

初めまして!ドイツ在住の荒岡修帆と申します。
ライプツィヒ大学にてスポーツ科学を専攻しながらRBライプツィヒなどでサッカーやトレーニングの指導をしています。

今回は「コーディネーション」をテーマに僕がライプツィヒで学んだことの一部を紹介させていただこうと思います。


まず皆さんに質問です。
コーディネーションとは何だと思いますか?

日本でも度々見聞きすることがあるかと思いますが、今の皆さんはコーディネーションに対してどのようなイメージを持っていますでしょうか。また、コーディネーションの優れている選手と言われた時にどのような選手を思い浮かべますでしょうか。

少しばかり考えてみてから読み進めていただけると幸いです。


■スポーツにおけるパフォーマンス前提 

さて、コーディネーションとはいったい何かということですが、これを説明するためにはまず、スポーツにおけるパフォーマンス前提について知ってもらう必要があります。

パフォーマンス前提とは読んで字のごとくパフォーマンスにおける前提条件であり、ドイツでは多くの場合以下のように考えられています。

画像1

まず、大きく外的なものと内的なものに分けられるのですが、外的なものには天気やピッチコンディション、観客などのいわゆる環境要因が該当します。
内的パフォーマンス前提はさらに形態的なものと行為的なものに分かれていき、形態的なものには骨格や筋繊維タイプなどが数えられます。
既にイメージのついている方もいらっしゃるかと思いますが、ここまで挙げられてきたパフォーマンス前提は、基本的に選手自身の努力ではなかなか変えることができないものと言えます。

そのため、指導者としてトレーニングを通して改善に取り組めるのは、主にもう一方の行為的パフォーマンス前提になります。

行為的パフォーマンス前提はさらに5つの要素に分解されるのですが、その中の1つとしてコーディネーションは位置付けられています。これらそれぞれの要素は互いに影響しあっており、その中で何かに特化するもバランスを取るも全ては選手と指導者次第と言えます。
つまり、どれだけ全体を見渡しながら細部にこだわれるかが僕たち指導者には求められているのです。

また、コンディション能力とテクニック/コーディネーション能力を合わせて運動学的パフォーマンス前提と言われることもあり、その場合はコンディション能力が主にエネルギー系の前提条件、テクニック/コーディネーション能力が主に情報系の前提条件と定義されてきます。

ここでの情報系とは、視聴覚や皮膚感覚、深部感覚、平衡感覚などによる情報入力から、それに対処するまでのプロセスに関連するものになります。
なお、テクニックと共にまとめられていることから想像がつくように、テクニックとコーディネーションは別物でありながら共通点や相互作用の存在する非常に関係性の近い能力とされています。


■コーディネーション能力

ドイツにおいてコーディネーションは主にこのように説明されています。

画像2

簡単に言えば、動作の巧さを規定する能力になるかと思います。
そして発達したコーディネーションはスポーツにおいて動作の効率性や状況変化への対応力を向上させます。
ちなみにコーディネーションについての記述が初めて見られたのは1940 年代まで遡り、そこでは「動作においてどんな体勢からでも解決策を見出せる能力」と定義されているようです。

ここまで読んできて頭に疑問として浮かべている方もいるかもしれませんが、現状コーディネーションは直接数値で表すことが非常に難しい能力と言えます。
そのため、基本的に評価測定にはサッカーであればロングパスの正確性や、スラロームドリブルのスピードなどといったテクニックに対するテストが用いられます。


■コーディネーション能力の分類

では、いよいよコーディネーションについて深めていきたいと思います。

まず分類についてなのですが、日本でもよく見られるブルーメによる分類をベースに話を進めさせていただきます。

こちらが7つの能力をまとめたものです。

画像3

おそらく日本語が難しいと感じられることと思います。
ただ、ドイツ語のニュアンスを残したまま簡潔な日本語にしようと試みると、どうしてもこのような感じになってしまうのです。


・反応能力
サッカーにおいては味方の動きや呼ぶ声、または相手のアクションなどに反応する能力と言えます。

・バランス能力
サッカーにおいてはドリブルや相手との接触時におけるボディバランス、ヘディング時の空中姿勢などに影響を及ぼす能力になります。

・分化能力
これは僕が個人的に最もイメージしにくいかなと思っている能力なのですが、簡単に言ってしまうと動作において的確に力の強弱等を調整する能力と言えます。つまりサッカーにおいては動作に緩急をつけるときや、味方や相手との距離間に応じてパスの強さを調節するときなどに求められてきます。

・定位能力
一言で言うと空間認知能力になります。サッカーにおいては常に変化していく味方と相手の位置関係や、ハイボールの到達地点を把握するときなどに見えてくる能力です。

・連結能力
サッカーにおいてはフェイントやシュートなどそれぞれの動作におけるスムーズさに表れてくる能力です。

・リズム化能力
サッカーにおいてはドリブルやフリーランニングなどの個人スキルにおける緩急や、1対1における相手のリズムへの対応等における良し悪しを左右する能力です。

・変換能力
簡単に言うと状況変化に対応する能力です。サッカーにおいては味方や相手のアクションに応じてプレーを調整する場面や、雨によるピッチコンディションの変化に対応する場面などで重要になってきます。 



これら7つの能力それぞれが目的の動作に応じて適切な割合で動員されることにより、動作に巧さや器用さと言われるものが見られるようになってきます。
つまり、1つ1つの動作に必ずしも7つ全ての能力が含まれている訳ではなく、動作ごとにその質を決定づける重要な能力が規定されており、それらの水準が高まれば高まるほど全体として完成度に磨きがかかってくるということです。


■各年代におけるコーディネーショントレーニングの目的

次に、現場での導入方法へと移っていきたいと思います。

コーディネーションのトレーニングと言うと、日本でよく見られる神経系への刺激を狙ったエクササイズを思い浮かべる方も多いかと思いますが、実際にはあれが全てではなく、むしろそれらのエクササイズは特殊な例と言えます。

まず、コーディネーションのトレーニングには競技にどれだけ近いかといったスケールが存在します。
そのため実際にドイツの指導現場では、どの競技にも共通するようなものからサッカーなど1つの競技に特化したものまで、目的に応じて幅広く様々なコーディネーションのトレーニングが実施されています。

例えば、小学生年代などでは競技に特化しない鬼ごっこやボールゲームなどを用いたトレーニングがよく見られ、それらはどのスポーツにも応用できる基本的な情報処理スキルや多彩な動作スキルを身に付けることを目的としています。

中学生年代になると、少しずつ競技に近づいたトレーニング、つまりサッカーであればドリブルやパスゲームなどの中で、テクニックと結びついてコーディネーション能力の向上が図られてきます。
なお、ここでもハンドボールやバレーボールといった他の球技におけるアイデアを借りたトレーニングは引き続き実施されます。

そして高校生年代になると、それまでに培ってきたコーディネーション能力をいかに競技の中で発揮していくかということがメインになってくるため、外から見たらコーディネーションの要素が含まれていると言えなくもない競技特有のトレーニングといった感じの内容になってきます。
ここでは、小学生年代や中学生年代で行ってきたようなコーディネーションのトレーニングが、サッカーの練習ではあまりフォーカスの当てられない要素の補填や、リフレッシュを目的としてウォーミングアップなどに組み込まれることがよくあります。プロチームなどで見られる神経系への刺激を狙ったエクササイズもこの目的で導入されていると言えるでしょう。

このようにコーディネーションのトレーニングは、年代における目的に応じて姿かたちを変えながら現場に取り入れられています。


■コーディネーショントレーニングの原則

では実際にはどのようにトレーニングが組み立てられていくのでしょうか。

コーディネーションのトレーニングには他の能力のトレーニングと同様に原則とされていることがいくつか存在します。

画像5

ここでも一体どういうことなのという質問がすぐに飛んできそうなのでこれから説明させていただきます。


・トレーニング難易度の調節
コーディネーションのトレーニングにおいて最も大切と言っても過言ではないほど重要な原則です。
テクニックのトレーニングとは違い、コーディネーションを目的としたトレーニングにおいて反復は悪として扱われます。
というのも、コーディネーションとは情報処理に関連した能力であるため、同じことを繰り返すことにより収集すべき新たな情報が減ってしまうことは、トレーニング効果を低下させることに他なりません。
例えば、自転車に初めて乗ったときを思い出してみてください。当時はきっとバランスを取ることや、同時に周囲の状況を確認することに必死だったことと思います。
それが今ではどうでしょうか。周囲の状況を把握することはいつでも求められますが、それを意識的に必死になって行っているでしょうか。
コーディネーションのトレーニングにおいては、何かを完璧にできるようになる必要は全くなく、慣れる前に次の難易度へとステップアップすることが良いトレーニングの絶対条件と言えます。

・強調性と継続性
先ほどコーディネーションの分類について説明しましたが、トレーニングにおいてはそれらのどの能力を目的とするのか明確にしなければなりません。
もちろん1つの能力だけを抽出してトレーニングを組み立てることは難しいので、いくつかの能力が混ざっていても問題がないと言えます。
その上で各能力を継続的に伸ばしていくために、それらのトレーニングが定期的に実施されることが望まれます。

・前提となるテクニックの安定性と適合性
例えば、パスゲームを用いたコーディネーションのトレーニングはパスが正確にできないと始まりません。
そこでいくらドリブルが出来ようがあまり大きな意味合いを持たないでしょう。また、正確なパスをすること自体に集中力を使わざるをえないようでも、プラスαの課題を処理しなくてはならないコーディネーションのトレーニングの実施は困難になってきます。
そういった意味での安定性と適合性が考慮されたトレーニングがコーディネーション能力を的確に向上させていきます。

・継続的なトレーニングステアリング
他の能力を目的としたトレーニングと同様に、コーディネーション能力の養成においても長期的な目線がとても重要になってきます。

・最適な心身の状態
ここで言う最適な状態とは、心身ともにフレッシュな状態を指します。
理由としては、ストレスや疲労を抱えた状態だと、集中力の求められるコーディネーションのトレーニングにおいて十分なパフォーマンスが発揮されないことが挙げられます。
ただ、個人的にはサッカーの試合の終盤におけるコーディネーション能力の発揮を目的としたい場合は、あえてフレッシュではない状態で実施するのもアリだと考えています。

・意識性
筋トレなどでも言われるアレです。
ただコーディネーションのトレーニングでは、筋トレのように「反応能力や定位能力を目的としたトレーニングだ!」などと言う必要は全くなく、注意すべき情報源をどのように選手に見せていくかが指導者の腕の見せ所になってくると思います。

・適切なタイミングでの専門性向上
各年代における導入例にて触れたように、適切なタイミングで一般的なものから専門的なものへと徐々に移行していくことが、長期的なコーディネーション能力養成において大切になってきます。


原則について何となく理解していただけたでしょうか。

ただ実際のところ、僕たち指導者を困らせるのは、原則「トレーニング難易度の調節」に起因する自由度の高さになってくるかと思います。
コーディネーションのトレーニングには、これをやっておけば間違いないと言えるような絶対的なものは存在しえず、指導者が自身の創造力を働かせていくことでしかバラエティに富んだトレーニングを提供することはできません。


そこで次は、難易度調節における代表的なアイデアを共有したいと思います。


■コーディネーショントレーニングにおける難易度調節

ここまでで何回か触れてきましたが、コーディネーションとは情報処理と密接に結びついた能力であり、スポーツにおいては主に視覚、聴覚、皮膚感覚、深部感覚、平衡感覚の5つの感覚が重要になってきます。
これらをどのように組み合わせるか、それだけでトレーニングにかなりの数のバリエーションを生み出すことが可能になってくると言えるでしょう。

その上でいくつか手を加えやすいポイントがあるので紹介させていただきます。

画像7


・正確さにおける要求の増加/減少
パスゲームにおける距離感を広げることや、ラダーを使ったステップワークのトレーニングにおいてマス目を小さくすることなどが難易度向上の例として挙げられます。

・時間における要求の増加/減少
制限時間を設けたり短縮したりすることで動作遂行の難易度が上がることは想像に易いかと思います。

・複雑さにおける要求の増加/減少
神経系への刺激を目的としたエクササイズにおける難易度調節のほとんどは、ここで言われる複雑さにおけるものかと思います。また、トレーニングとして体操やダンスなどの慣れない動きをすることも、複雑さをもとにコーディネーション能力の向上を図っていると言えるでしょう。

・状況における要求の増加/減少
ここでの難易度向上に対する例としては、ゲームに新たなルールを追加することや、ピッチの形やサイズを変更することなどが挙げられます。

・負荷における要求の増加/減少
これは原則「最適な心身の状態」にて個人的な意見として触れた内容に近いのですが、コーディネーションのトレーニング内で求められる動作そのものの強度を上げることで、コーディネーション能力の発揮における難易度も向上させることが可能になります。また、ここでは心理的な負荷も対象になってきます。


イメージがつきましたでしょうか。
実際に僕もこのような基準をもとに、コーディネーションのトレーニングにおける難易度を調節しています。


■コーディネーショントレーニングの実践

最後に、「1対1」を例にしてトレーニングのバリエーションを一緒に考えていければと思います。

ベースは誰もが経験したことのあると思われるこの形とします。

画像11

まずどの感覚を組み込むかですが、基本的には視覚と聴覚になるかと思います。
視覚の場合は例えば、どちらの選手にもボールを持たせた上で、指導者が手を挙げた側の選手がドリブルで攻撃をスタート、反対側の選手が守備といった感じで反応能力の要素を加えられるかと思います。
聴覚の場合も同様に、指導者が叫んだ色の選手が攻撃でもう一方の選手が守備といったようにすることが可能でしょう。
もし中学生以上の練習に取り入れるのであれば、後ろの選手に背中を触られた方が攻撃といったように皮膚感覚と視覚を組み合わせることもできるかと思います。

次に正確さに手を入れていきます。ドリブルに正確さの要素を加えるのは1対1だと少し難しいので、シュートの正確さにおいて難易度を上げたいと思います。
例えば、ゴール前数メートルのところに線を引いて、その線の手前からシュートを決めたら2点などとすると、分化能力に対する難易度を少し向上させることができるかと思います。

時間における難易度調節では単純に制限時間を設定することでドリブルなどにスピードが求められようになるため、特に連結能力に対する難易度を向上させられると考えられます。

次は複雑さ。
ここでは例えばフェイントをしてからシュートを決めると2点といったようなルールによって連結能力やリズム化能力の要素を加え、アウトサイドでシュートを決めたら2点のようなルールによって更にバランス能力や分化能力に対する難易度を上げることが可能になるかと思います。

状況における要求では、例えばゴールライン上の両コーナー付近にドリブルゴールを設置して、指導者がどちらかの手を挙げてスタートさせたら普通のゴール、色を叫んでスタートさせたらドリブルゴールのような感じにすることで変換能力の要素を加えられ、同時に反応能力に対する難易度も上げることが可能になります。
その上でさらに2つのドリブルゴールに色を割り当て、指導者がスタート時に叫ぶ2つ目の色に該当するゴールしか通過できないなどといったルールを加えると、定位能力の要素も組み込めるかと思います。

最後の負荷については、例えば心理的な負荷を上げるにはシュートを外したら罰ゲームといったようなルール、身体的な負荷であればスタート時に左右どちらかのコーナーをまわらないといけないといったようなルールを加えることによって調整することが可能になるかと思います。


■まとめ

さて、何となくでもできそうな感じがしてきましたでしょうか。

理論については僕が知っていることのほとんどを書かせていただいたので、あとはどれだけ現場でトライ&エラーを繰り返せるかだと思います。

もし質問などがあれば、是非とも僕が主宰しているオンラインコミュニティを覗いてみてください。
そこではメンパーの誰もが気軽に投稿できるようになっており、また様々な種目や立場の方が参加してくださっているため、1つの質問を通して多方面からの情報や意見に触れることができます。
皆さんとのディスカッションを楽しみにしています。

では、今回はこんな感じで終わりたいと思います。
最後までお付き合いいただきありがとうございました!


●日本語で学びたい方へのおすすめ書籍

金メダルへの道しるべ 初歩の動作学-トレーニング学


●第16回ライプチヒ講座


ゲストライター

荒岡修帆

画像11

サッカー指導者/フィジカルコーチ
・ライプツィヒ大学スポーツ科学部
・RBライプツィヒU9コーチ

サッカーにおけるタレント育成の専門家になるべくドイツへ。ライプツィヒ大学にてスポーツ科学を専攻するとともにサッカーへの理解を深めるべく活動している。

オンラインコミュニティ
荒岡修帆 ~みんなの交流広場~

Twitter:@a_shuho



ここから先は

0字
マガジンだけでなくオンライングループでの意見交換やメニュー作りの相談まで可能なのでお得です(^ ^)

PITTOCK ROOM

¥1,000 / 月

サッカーコーチ・指導者のために作ったフィジカル特化型マガジン!! 育成・大学・プロの場で活躍する現役フィジカルコーチの3人が毎週更新して…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?