フットボールのインテンシティを高めるためにトレーニングからできること
フットボールのインテンシティを高めるためには、どんなトレーニング戦略をとるべきだろうか?
これは多くの方が気になる部分で、多くの現場で様々な取り組みがなされていると思います。
また、
・そもそもインテンシティってなに?
・intensityは強度と同じ意味なの?
という部分は、目指すべきところを明確にするためにも確認しておきたいところです。
今回の記事では
フットボールのインテンシティに関して、そのトレーイング戦略の1つの視点と、その言葉の意味や捉え方をまとめていきます。
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こちらの記事は以下の2つの記事をまとめて再編集したものです。
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1章 フットボールのインテンシティ
■トレーニング量を減らすという戦略
「インテンシティの高いサッカーをするためには、トレーニング量を減らすことが必要だ」
と、僕は考えています。
その一つの理由は、大学時代、1日75分のトレーニングで大学日本一を獲った監督・チームを毎日見てきたからです。
そこでは、ただトレーニングを減らしているわけでなく、その結果としてより質の高い・強度の高いトレーニングができていました。
実際に経験したことは強烈なインパクトとして残ります。
そして上記のように考えるのは、何も自分の過去の経験だけで言っているのではなく、
・トレーニング負荷とはなんなのか?
・強度と量はどのような関係にあるのか?
・強度の高いアクションを行うための前提条件はなんなのか?
を考え、学んだ結果でもあります。
それは特別な知識ではなく、トレーニングの一般原則の話です。
さらに同じような思考は、以下の記事からも読み取ることができます。
こう考えていくために、まずは前提として、トレーニングの負荷・量・強度の関係を知ることが大切です。
基本的なことですが、サッカーのトレーニングでも、ここが前提に理解できていないと、せっかく立てたトレーニングプログラムの効果がガクッと落ちてしまいます。
トレーニング負荷に関しては以前こちらの記事で書いています↓
上記記事を見てもらえれば、まずトレーニングの負荷と強度の違いをわかってもらえると思います。
強度は負荷の一要因です。
同時にトレーニング量も負荷の一要因であることもわかってもらえると思います。
さて、今回はトレーニングの強度と量の関係から、インテンシティの高いサッカーを実現するためのトレーニングには、前提として何が必要か、考えてみます。
■居残り練習とグアルディオラ監督
上記のグアルディオラ監督の記事から一部抜粋します。
本当に「100%の集中力」が必要な練習メニューを組んで、同じだけの集中力を保ちながら指導出来ているか。育成に関わる全ての人間が考え直さなければならない永遠の命題である。「居残り練習」するエネルギーも含めて出し切らなければならない練習をデザインし、常に選手の100%を求め続ける。そんな当然の事が重要になってくるのではないだろうか。
引用:結城康平 「居残り練習」を捨てよ。グアルディオラの「練習論」。
「厳しい練習は、精神的な強さに繋がる」という認識があることを否定するつもりはない。実際、厳しい練習を仲間と共にやり切ったという自信がチームを大きく変えることもある。しかし、日常的にそのような練習を続けていては、成長期の選手への負担が高まるだけだ。それ以上に、「どのように練習の質を高めるか」という部分こそが考え抜かれるべきだろう。日本のスポーツ界には、どうしても「練習の量」を重要視する傾向が残っている。
引用:結城康平 「居残り練習」を捨てよ。グアルディオラの「練習論」。
ここでは
・100%で練習に取り組むこと
・より練習の密度・質を重視すること
の重要性が書かれています。
より詳しく考えるために、トレーニングの強度と量の関係を見てみましょう。
■トレーニングの強度と量
冒頭に、トレーニングの強度と量は、負荷の要因の一つと書きました。
実際にはトレーニング負荷はこのようにより多くの要因が関わりますが、シンプルに考えると
トレーニング負荷=トレーニング強度×トレーニング量
とすることができます。
ここで大切なのは、強度と量はトレードオフの関係に あるということです。
例えば走る距離が長くなれば速度が落ちるように(100m走と1000m走)
ウェイトトレーニングで挙上重量が増えれば回数が減るように(80kgなら10回できるが100kgなら1回だけ)
仮にサッカーの試合が30分ハーフであれば、試合を通してより高い強度で連続したアクションが起こせるように
強度と量はどちらかが増えれば(減れば)、どちらかが減る(増える)という関係にります。
より強く・より高みを目指す場合、トレーニング負荷をかけていくことが必要ですが、その場合、この強度と量のトレードオフの関係により、問題が起きる場合があります。
■負荷が高いが強度が低い場合
・トレーニング負荷=強度×量
・量と強度はトレードオフ
と考えると、負荷が高いが強度が低い場合がでてきます。
トレーニング量が多い場合、強度は低くなります。しかしトレーニング負荷は高くなってしまうことがあります。
仮に身体に問題のない選手が1000m走と100m走のいずれかを行う、となった場合に、どちらが身体的な負荷が高く、どちらが強度が高いか考えるとイメージしやすいと思います。
1分間高い強度の運動を求めた場合と、同様のものを3分間継続するように求めた場合、どのような現象が起こるでしょうか?
仮に、その運動強度が「最大努力で行ったとしたら1分しか継続できないほどの強度」だったとします。
すると以下のような現象が起きると推測できます。
もしも運動時間が1分だと思って運動していた場合、おそらく1分まで最大努力を続けた後、運動強度がぐっと落ちていきます。それ以上は継続できないためです。
これが図の左です。
ここで、もしも選手が余力を残している場合は、コーチングで強度を維持させることもできますが、それは長くは続かず、3分間維持することはできないでしょう。
すると次回以降同様のトレーニングを行うとしたらどうなるでしょう。
次回以降、そのトレーニングがどの程度続くかある程度想定できる場合、それに合わせて右図のように、最後まで継続できるように運動強度を下げてトレーニングを行う可能性があります。
これが図の右です。
選手からすれば、それは自然な行動です。
きついから落としているというよりも、無意識に、そのトレーニングを達成しようとする反応です。
もちろん、強度を少し下げてでも、3分間継続することが目的のトレーニングであれば、それでいいです。実際のサッカーでは、それも大切な要素になります。
しかし、求めたい強度が1分間しか継続できない強度である場合、3分間のトレーニングを行うと、その強度でのトレーニングができなくなってしまいます。
下は先ほどの図ですが、トレーニング負荷を「強度×量」で考えると、右の3分間のトレーニングの方が、負荷は高くなると考えられます。
しかし、強度が高いのは左の1分間のトレーニングです。
つまり右は左と比較して負荷は高いが強度が低いという状態です。
ここでは1分と3分で比較しているので、それほど大きな問題にはなりません。
例えばこれが3vs3のスモールサイドゲームであった場合、3分間では目的とする強度でトレーニングできないと気づき、1分間に設定を変えればいいだけです。
これが「毎日のトレーニング時間」「1週間のトレーニング時間」であった場合どうでしょう。
同じことが、その日のトレーニング全体の中で起きてしまいます。
そしてそれは、より気づきにくくなります。
長時間練習・量重視のトレーニング弊害の1つがここにあり、トレーニング強度があげられないのです。
120分のトレーニングで、90分のトレーニングと同じ強度・密度で行うことはできません。
しかし負荷は120分のトレーニングの方が高くなることはあり得ます。
とはいえ、実際に現場にいる方は、2〜3時間練習しても、強度も保てていると考える方もいるかもしれません。
しかし本当にそうなのか考える必要があります。
例えば、1000mを「全力」で走る時と100mを「全力」で走る時、その全力は、速度は同じでしょうか?
同様に2時間「全力」でトレーニングした時、それは90分「全力」でトレーニングした時と同じでしょうか?
どちらがより、負荷ではなく、強度の高いトレーニングができるでしょうか?
もちろん負荷の高いトレーニングや、トレーニング量も大切です。
しかしまずは、サッカーのトレーニングであれば、「トレーニング強度」を高くすることを前提にする必要があるはずです。
なぜなら、レベルの高い相手と試合をして苦しむのも、日本が世界と比較して不足しているのも、その一つにはインテンシティの低さが挙げられるはずだからです。
■まずは量?強度?
現状、日本のスポーツ文化では、トレーニングの量を増やすこと、長時間練習することがマジョリティだと思います。
その弊害の一つは、ここまで書いたように強度があげられないことです。
つまり、要求されるプレーのスピード、判断の素早さ、ボディコンタクトの激しさなどは低下してしまいます。
もちろん最適な量を見つけるためには、トレーニング量や時間を増やして検証してみることも必要です。
しかし、仮に日本サッカーの課題として、海外と比較しインテンシティが低いこと、認知を含めたプレースピードが遅い・精度が低いこと、があるのだとしたら、その「一つの解決案」として、トレーニングの量を減らすことがあるのではないでしょうか。
トレーニング量を減らすことで、選手はより高い強度を発揮できる身体的準備が整う可能性は十分に考えられます。
そしてその限られた時間の中で、その密度・強度・質をどれだけ高められるか?という思考でトレーニングを行っていくことが必要だと考えています。
そもそもサッカーは90分という限られた時間の中で何をするか?というスポーツだと考えると、その方が自然な思考ではないかな、とも。
それは結果として、頭も体もフレッシュな状態で、トレーニングに集中できる、より質の高いトレーニングに繋がるはずです。
またここまでの量と強度の考えは、そのトレーニングの負荷コントロールという視点だけでなく、「習慣」という視点でも重要です。
正直、身体的な問題よりも、低い強度でのトレーニングによりその強度・スピードが「習慣」になってしまうことの方が問題だと思います。
高い質・強度・密度・スピード(身体的にも認知的にも)を確保できることを前提にして初めて、それを維持できるトレーニング量はどれくらいかという思考になる。
トレーニング量の設定はそういった思考の順序で行うのが、いいはずです。
勘違いして欲しくないですが、たくさん練習するな、長時間トレーニングするなといいたいわけじゃないです。
それ以前に考え直さなきゃいけない前提があるんじゃないかな、ということです。
2章 フットボールのintensityを定義する
■intensityの定義
ところでここまで、具体的に解説しませんでしたが、そもそも強度とは、スポーツにおいてどのような意味なのでしょうか?
また、前回記事のタイトルはインテンシティ (Intensity)という言葉を使い、それは主に「強度」という日本語として使用しましたが、Intensityは強度という意味なのでしょうか?
書籍「通訳日記」よりインテンシティという言葉の定義を抜粋してみます。
このチームが目指すところは、スピードに乗った状態でハイテンポのリズムで精度の高いプレーを展開すること。具体的には、攻撃の時にはオフザボールの動きを繰り返して前線を活性化させる。守備ではアグレッシブに行き、相手をはめ込む動きをする。これをインテンシティと定義する。
引用:矢野大輔「通訳日記 ザックジャパン1397日の記録」2014.文藝春秋.
ザッケローニ監督が日本代表関東だった時、高校1年〜大学2年であった自分ははっきりと意識していませんでしたが、この頃からインテンシティ という言葉を日本サッカーで一般的に聞くようになったようです。
ザッケローニ監督のいうインテンシティ の定義は、上記の「通訳日記」によれば、
・スピード
・ハイテンポ
・高い精度
でのプレーを行うことで、具体的には
・攻撃でオフザボールの動きを繰り返す
・守備でアグレッシブに行き、相手をはめ込む
とされています。
もちろんこれが全てではないでしょうが、日本で当時言われたインテンシティは、大まかなニュアンスとしては、このように表現されていたようです。
①Intensity=強度
まず、Intensity=強度 と仮定し、強度の定義を、以下の2つの書籍をもとに示します。
強度は
・その運動の激しさ(努力度合い)
・緊張度
・一定の時間内での密度(単位時間たりのトレーニング量)
とされます。
実際の運動の中での強度の指標は、外的側面(外から見てわかること)として
・運動のスピード
・距離を克服するスピード(一定の距離を移動する時間)
・1回の重量
・動作、動きのテンポ
・作業の強度(単位時間あたりの仕事量)
内的側面(身体内で起きている生理学的反応)としては、
・心拍の度合い(心拍数を運動時間で割る)
・エネルギー消費の度合い
が挙げられます。
これらをまとめると、強度とは
ある時間(単位時間)あたりの運動の激しさ・努力度
と捉えられます。
強度ということばは、スピードを指したり、力の大きさを指したり、様々な現象をさすことができるので、どんなものを指しているのかわからなくなりがちです。
それも上記のように考えれば、
スピードを、ある時間あたりに進んだ距離(つまり速度)
力の大きさを、ある時間あたりに発揮した力の大きさ(つまりパワー)
と捉えることができ、時間と現象との関係性の中で強度という言葉を捉えることができます。
そういう認識をすることで、強度を
・激しさ(速さ、強さ、大きさ etc...)
・密度
という2つの視点でみることができます。
この2つを識別して考えることは大切で、なぜなら、強度が高いと言ったときに、仮に「激しさ」しか認識していなければ、1回のスプリントやプレス、カウンターなどのアクションがパワーを持って行えていれば「強度が高い」ということになってしまいます。
100m走であれば、その1回の100mだけ高い速度を出せれば高いパフォーマンスを発揮していると捉えられますが、サッカーでは、それを連続して繰り返したり、試合終盤までしたりする必要があります。
そこで強度を「激しさ・速さ・強さ」だけでなく、その「密度」という認識を持つ必要が出てきます。
それは90分の密度かもしれないですし、前半15分から30分までの密度かもしれません。試合開始1分の密度の場合もあると思います。
「激しさの度合い」と「ある時間あたりの激しさの密度」という視点も持つことで、「強度」いう言葉から2つの景色を見ることができます。
これはピッチ上でのintensityと非常に近い意味だと思いますが、強度という言葉だけだと身体的な側面での視点が主であり、ピッチ上での現象を表現するのには不足を感じます。
②Intensity=特異性
強度という言葉では、Intensityを表現しきれないのは、多くの人が感じると思います。
より包括的な定義を、PITTOCK ROOMのライターであるイクサポが記事の中で解説しています。
日本だとIntensityは強度(質)という認識が強い。しかし、ヨーロッパでは、強度ではなく特異性と捉えることが多い。つまりサッカーにおける特異的な練習が必要なのだ。
〜中略〜
Intensity包括的な概念であるため、分けることができる。
サッカーの構造を考えると、
・Communication:認知
・Decision Making:状況判断
・Executing Decision:実行能力
・Football Fitness:フィジカル
認知を行い、状況判断をし、それを実行することでプレーが成立する。あとはそのプレーに継続性やスピードなどを持たせるフィジカルが必要になるのだ。
つまり、Intensityの高い練習というのはこの4つの要素が含まれていることが重要である。
これが一つ一つ分離していては意味がない。1回の練習で含まれる比率は変化するにしろ、統合された練習がIntensityが高い、特異性の高いトレーニングと言える。
〜中略〜
この定義では、単に「強度」とするのに比べ、より包括的に実際の現象に近い視点で考えることができます。
サッカーでは、運動の実行には、
・Communication:認知
・Decision Making:状況判断
・Executing Decision:実行能力
が必要であることは、サッカー界でも、このマガジン PITTOCK ROOMでも繰り返し言われていますが、そう考えると、Intensityにこれらの要素を含めるのは自然にも思えます。
高い強度を実行するには、Football Fitness(フィジカル)だけでなく、それ以外の要素も必須だからです。
このような包括的な視点で考えると、日本語での「強度」はIntensityの要素の一つと考えるのが適しているでしょう。
Intensity=強度とすると、激しさや密度があれば、そこに認知能力の不足が見られてもIntensityが高いと表現できてしまうことになります。(もちろん認知能力などの不足があればピッチ上で強度を高めることはできないと思われますが)
しかし、フットボールのIntensityと 考えたときに、そこに違和感を感じるのが自然かと思います。
(Intensityが含む意味は納得ですが、個人的には「特異性」という言葉での表現だと誤解もうむ、あるいは示す領域が広すぎるようにも感じるので、それは今後いい日本語表現を探していくという課題かもしれません。)
■包括的な視点と局所的な視点
強度やintensityを考えるときには、包括的な視点とより部分的な視点との両方が必要だと思います。
強度という言葉の方がイメージしやすい状況もあるでしょうし、どうやってもそれだけでは難しい状況もあります。
フィジカルコンディショニングの視点では、強度という言葉の方が使いやすいことも多いです。
「強度」の高いトレーニングが日本サッカーに重要なのは、間違いないはずです。
そしてさらにそこから、Intensityの高いトレーニングが標準装備となれば、また一歩ステップアップしていけるのではないだろうか?と考えています。
そう考えると、「フィジカル」においても、フィジカルコーチやトレーナーではなく、絶対的に指導者の方々の力が必要です。
これからもよろしくお願いします。
■まとめ
もしもサッカーの課題にインテンシティの高さ・低さが関わっているならば、一つのトレーニング戦略としてトレーニング量を減らすことがあると思っています。
それはネガティブな意味ではなく、よりトレーニング強度を高めるための戦略です。
逆説的ではありますが、「トレーニング量を減らすべきだ!」は「もっとトレーニングしなきゃ!」と同義だと思ってください。
また、「インテンシティ、intensity、強度ってそもそもなんなの?」というところもはっきりさせておかないと結局は
「たくさんトレーニングしよう」
が間違った方向に進んでしまうのではないかと思います。
「たくさんトレーニングするために」も、「トレーニングを減らす」ことが必要です。
■最後に
3人のフィジカルコーチが、サッカーの指導者やサッカーに関わる人たちに向け
サッカーのフィジカル専門マガジン PITTOCK ROOM
を連載しています。
購読者数も180名となり、2月から
・3名のライターの増員!
・記事を一つ一つでも購入可能に!
という進化を予定しています。
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ライター
Kei Matsu
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