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サッカー選手の最大速度を引き出すロングスプリントトレーニング

サッカーの試合で行われるスプリントは一度に30m以下の距離で実行されるものがほとんどです。

下の引用元Tweetでは平均17mとされており、また別の研究ではサッカー選手の1度のスプリントは平均2秒以下で完結するとされていることから、サッカー選手の一度のスプリントは平均して15m前後であると考えられます。

これは現場的な感覚とも一致するのではないでしょうか。

30m以上距離のスプリントはそれを実行する頻度は少ないとしても、決定的なシチュエーションと結びつくことも珍しくありません。

しかし意識せずにサッカーの練習を行っていると距離の長いスプリントや選手の最大速度が発揮されるようなスプリントが全く行われていない、ということが起こりやすいです。

サッカーで要求されるアクションでありながらサッカーの練習中には起こりにくいアクションの1つが最大速度でスプリントすることであると考えています。

<関連過去記事>
サッカー選手は最大スピードで走る機会が少ない


今回はサッカー選手の最大速度を引き出すロングスプリントトレーニングに関して書いていきます。


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■サッカー選手のスプリント速度

以下の記事でも紹介したようにサッカー選手の最大スプリント速度は30km/hを超えます。
30km/h以上の速度で走ることはユース年代以上であれば珍しいことではないです。

海外トップレベルの選出たちは試合中に37km/hを超える速度を発揮する選手もいます。

関連過去記事
サッカー選手のスプリント速度の基準とスプリントトレーニングの設定 〜30mスプリントのタイムから考える〜

上の記事で書いたように、速い選手は20m以内の距離で30km/hに達することができますが、そのためには20mを光電管計測のタイムで3秒以内に走れるスプリント能力が必要になると考えられます。

試合中に発揮されるサッカー選手の最大スプリント速度の多くは30〜35km/hの範囲であり、33km/hを超える速度を発揮する選手は誰が見ても速いと感じるレベル、34km/h, 35km/h台を発揮できる選手は日本国内トップクラスのスピードスターたちと言えるでしょう。


こちらの動画ではクリスティアーノ・ロナウド選手の試合中のスプリント速度が紹介されています。

12m地点で既に30km/hに達し、20m地点では32km/hに達しています。

32km/hという速度自体は、Tweetでも触れているようにそれほど珍しいものではありません。
しかし10〜15mほどの距離で30km/h以上の速度に達してしまう加速能力はサッカー選手として驚異的といえるでしょう。


■陸上短距離選手の最大速度

陸上100m走では最大速度に達するのが男子は60m付近女子は40〜50m付近であり男子よりも最大速度に達するのが早いです。

女子は男子に比べて加速が小さいことが最大速度に達するのが早くなる理由の1つとされています。
0〜30m程度までの急激な加速を一次加速、そこから最大速度発揮までの緩やかな加速を二次加速といいますが、女子は特に二次加速が男子と比べて小さいことが特徴です。


以下の資料は、少し古いデータですが、2013年高校総体の陸上競技決勝におけるバイオメカニクスデータをまとめたものです。
高校生当時の桐生選手のデータも載っています。

平成25年度全国高等学校総合体育大会 2013北部九州総体 バイオメカニクス速報データ集


①最大速度

上記データによると男子100m走で優勝した桐生選手のタイムは10.19秒、6位の選手は10.67秒です。

それぞれの最大速度は40.7km/h(11.3m/s)38.8km/h(10.79m/s)で、当然のことながらサッカー選手をはるかに超える速度を発揮しています。

女子100m走を見てみると、1位の選手が11.7秒、6位の選手が12.05秒です。

それぞれの最大速度は1位の選手が35.2km/h(9.78m/s)、6位の選手が34km/h(9.45m/s)です。

トップレベルの高校男子・女子陸上短距離選手の最大速度と試合中のサッカー選手の最大速度を比較すると、おおよそ以下のようなイメージになります。


②最大速度に達した距離

次に最大速度に達した距離を見てみると、男子100m決勝では

・1人が60〜70m区間
・4人が50〜60m区間
・1人が40〜50m区間

でした。

女子100m決勝では

・1人が50〜60m区間
・5人が40〜50m区間

でした。


先ほどの男子選手は60m付近で最大速度に達し、女子選手は40〜50m付近で最大速度に達する、という知見と一致するものです。

男子は60m付近(50〜70m)女子は40〜50m付近(40〜60m)で最大速度に達する



■サッカー選手の最大速度を引き出すのに必要な距離

サッカー選手の最大速度に達するまでのスピード曲線のデータは現在持ち合わせていないので、陸上選手のデータやこれまでの経験からサッカー選手の傾向を推測してみます。

1)陸上選手の傾向をサッカー選手に当てはめると、最大速度に達するまでの距離は男子陸上短距離選手よりも短いことが想定できます。

2)またサッカー界ではフィジカルテストとしてでは30m走を測定することが多いですが、ユース年代選手は30mの区間ではその選手の最大速度にはほぼ達しないことから、サッカー選手の最大速度を引き出すには30mの距離では不十分であることも確認できます。

3)さらに100mを10秒台で走る高校年代トップクラスの男子陸上選手でも最大速度に達する距離は40〜70mと幅があることや、女子選手では最大速度に達するのが早い傾向(40〜50m付近)があります。

これらのことから、サッカー選手が最大速度を発揮するためには40m以上の距離が必要であろうと推測でき、また最大でも70m以下で十分であろう(60m以下で十分である可能性が高い)と推測できます。

40〜60m区間で最大速度に達することが多いと推測できる

最大速度を引き出すことを目的としたロングスプリントトレーニングでは、この40〜70m(60m)の距離を基準にトレーニング設定をします。



■サッカー選手の最大速度を引き出すロングスプリントトレーニング

サッカー選手の最大速度でのスプリントを引き出すためのトレーニングとしてロングスプリントトレーニングがあります。

このトレーニングの目的は以下の2つです。

・試合での最大速度のスプリント発揮へ向けての準備
・最大速度向上を含むスプリント能力の向上

試合へ向けての準備という意図と、長期的な視点でスプリント能力向上を狙う意図があります。


そしてこのトレーニングで目的を達成するためのポイントは以下の4つです。

①最大速度が発揮できるよう一定以上のスプリント距離を設定する
②相手をつけて競争させる
③ボールとゴールを設定する
④休息時間を長く設定し、本数を少なくする

以下それぞれのポイントについて解説します。



①最大速度が発揮できるよう一定以上のスプリント距離を設定する

先ほど説明した理由から

40m以上70m以下の距離

を基準に設定しています。

40m以上の距離はセンターサークルの自陣側の端から、相手ペネルティエリアまでの距離が45mであるため、フルスプリントトレーニングではこの距離を活用すると行いやすいです。

この位置で行うことで「③ボールとゴールを設定する」にも関わりますが、スプリント→シュートまでを行うことができます。

また自陣ペナルティエリア-相手陣ペナルティエリアの距離が72mであるため、最大でこの距離で行う、と考えておくといいかもしれません。

ゴールをペナルティエリアにしたときの各地点からのスプリント距離



②相手をつけて競争させる

相手をつけ競争させることでより選手が速く走れる環境を設定します。

競争の仕方は様々な方法がありますが、一例をあげると

・同じ位置から同じ距離を競ってをスプリント
・スタート位置を前後・左右にずらし、片方がもう片方がタッチできるかどうかで勝敗を競わせる

などの方法があります。

「③ボールとゴールを設定する」と合わせて設定することでさまざまなバリエーションでロングスプリントトレーニングを行うことができます。



③ボールとゴールを設定する

みなさんご存知のように、サッカー選手はボールとゴールがある状況でより高いモチベーションを持ってスプリントすることができます。

「②相手をつけて競争させる」と組み合わせて行うことでさまざまなバリエーションでトレーニングを設定できます。

以下いくつか例をあげます。

例1 1つのゴールに先にシュートを決めた方の勝ち。例2に比べてGKがいないデメリットはあるが、同じゴールを目指すため競争意欲は高くなりやすい。
例2 2つのゴールで実施。先にゴールを決めた方の勝ち。ボールの出し方を工夫すればシュート練習としても実施可能。ゴールの距離が遠すぎると、競争意欲が低下するため程よい距離で行うのが良い。
例3 後ろから追いかける選手はシュートを打たれる前にタッチすれば勝利。ボール奪取まで行ってもいいが、トップスピードでの接触による怪我のリスクと実施するメリットを考えて行う必要あり。


このときボールを設定する位置に注意が必要です。

40m地点でボールに達するように設定してしまうと、シュートをするためにそれより前から減速動作が始まってしまいます。

そのため40mのスプリントを要求したい場合には、45m地点にボールを置くなどの工夫が必要です。


④休息時間を長く設定し、本数を少なくする

休息時間の設定に関してもこれまでPITTOCK ROOMではたびたび触れてきました。

関連過去記事
トレーニング効果を最適化する運動休息比へのこだわり ~そのトレーニング、もっと良くできるかも?~

休息時間が短いとより持久力への負荷が高くなり、疲労により最大速度を発揮することが難しくなります。


40〜60mのスプリントは6〜7秒程度で完結します。

スピードトレーニングでは運動休息比を1:10≦に設定することが基本ですが、6〜7秒のスプリントに当てはめると休息時間は1分〜1分10秒以上設定することになります。

しかし実際に行ってみると40〜60mスプリントを複数本行う場合に、1分程度の休息時間では完全回復は難しいです。
特に最後の数本で出力が落ちてしまうことも珍しくありません。

そのため可能であれば2分以上の休息短くても1分半以上の休息を設定すると良いでしょう。

本来であればより長い休息時間を確保したいところですが、その場合は実施するスプリント本数や、トレーニング内で確保できる時間、そしてトレーニングのテンポなどとの兼ね合いなども含めて調整が必要でしょう。


次に行うスプリントの本数に関してです。

最大努力を求めた場合、3〜5本のロングスプリントで十分です。

それ以上の本数は最大速度が発揮できなくなってくる傾向や、選手が疲労を予測してスプリント速度を調整する傾向が出てきます。

あらかじめ行う本数を伝え、その本数は多すぎるより少なすぎると感じさせる本数にすることが、サッカー選手に最大努力でのスプリントを要求するポイントでと考えています。


■フルスプリントトレーニングの注意点

①怪我のリスク

その選手の最大速度を引き出すことを目的にするため身体への負荷が大きくなります。

特にハムストリングや大腿直筋、内転筋への負荷がかかりやすく、筋肉系の怪我が多い選手や現在痛み・違和感などを抱えている選手は注意が必要です。

トレーニングの目的が「最大速度を引き出す」ことである以上、万全な状態でなければフルスプリントトレーニングはスキップし、後に紹介する加速走を行うのがいいでしょう。


②実施タイミング

・試合への準備
・怪我の予防
・トレーニング効果の獲得

の3つの視点から、このスプリントトレーニングをいつ行うかは重要な問題です。

チームの予定や選手個人の特性などによって一概には言えませんが、試合の2〜3日前に行うのがいいでしょう。

避けるべきタイミングは

・OFF明け1日目→怪我のリスク
・試合前日→試合への準備として最適と言えるか?を検討※
・疲労した状態のタイミング→最大速度の発揮が困難

です。

※翌日に疲労を残さない量の実施であれば有効。

関連過去記事
1週間の中で持久力向上のための反復スプリントトレーニングとスピード向上のためのスプリントトレーニングを両立させるために考えること


■ロングスプリントトレーニングを実施できない場合に行う加速走

様々な状況でフルスプリントトレーニングを実施したくない、しかし同じようなスプリント刺激を加えたい、という場合には加速走を行います。

関連過去記事
肉離れを防ぐためのサッカー選手の段階的なスプリントの導入 -加速走からスプリントへ-

40〜50程度の距離を徐々に加速しながら走ります。

この時最大スプリントの何%まで速度を上げるか設定して行います。

設定は選手の主観的なコントロールと外から見たコーチの目で判断する場合とタイムを測定して行う場合がありますが、サッカーのチーム練習のように大人数で同時に行う場合には選手の主観的コントロールに委ねつつ、参考としてタイムを測定してあげると実施しやすいです。

加速走では動きを制御できる範囲でスプリント刺激を加えることができます。

上記記事でも紹介したように、怪我の予防やリハビリテーションの復帰前段階にも活用できます。


リスクがある場合にはロングスプリントトレーニングは避け、可能であれば加速走を行うことで、怪我なくトレーニングを積んでいける可能性を高めることができます。



■まとめ

筋力トレーニング、プライオメトリクスで力発揮能力を高め、スプリントの技術トレーニングで動きを改善していたとしても、そもそもスプリントする機会が少なかったり、10〜20m程度の短いスプリントしか行えていなかったりすると、本来その選手が発揮できる最大値を経験することができません。

特に育成年代ではその選手の特徴を伸ばすことと同時に、幅を広げられる機会を作ることも重要だと考えています。

最大速度を発揮させることもその1つではないでしょうか。

ぜひトライしてみてください。

今回は以上です。

ありがとうございました!


■参考

平成25年度全国高等学校総合体育大会 2013北部九州総体 バイオメカニクス速報データ集



ライター

Keisuke Matsumoto

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