私たちが引き継ぐもの
衝撃のニュース
2020年5月21日、日本経済新聞電子版で衝撃的なニュースが飛び込んできました。
大学入試の過去問題集などを手がけてきた聖文新社(東京・千代田)は21日、7月末に廃業すると発表した。後継者の不在が理由。小松彰社長(85)をはじめ、社員の高齢化が進んでいた。(以下略)
聖文新社といえば、聖文社のときから全国有名大学の入試過去問題を50年分収録した問題集、『全国大学数学入試問題詳解シリーズ』を出版していたことで有名です。ほかにも中原道喜先生の『マスター英文法』や『マスター英文解釈』を吾妻書房から引き継いで出版しており、その後に全面改訂した『新マスター英文法』、新訂増補『マスター英文解釈』、さらには『誤訳の構造』、『誤訳の典型』、『誤訳の常識』など中原道喜先生の名著を数々刊行してきた出版社という印象をもっていました。
記事によれば、小松彰社長が85歳。社員の高齢化で後継者不在とのこと。これは昨今の個人書店や出版社が抱える一種の社会問題であり、聖文新社も例外ではなかったのでしょう。私は、出版取次で十数年勤務した経験があり、これまで出版社が事業を継続出来なくなる裏側で数々の名著が消えていくのを見てきました。今回もまた、名著が世の中から消えていくのかという淋しさを感じました。
「これ、何とかならないかな。」素朴な疑問でした。
とはいえ、弊社には、『全国大学数学入試問題詳解シリーズ』を引き継げるほどのノウハウはなく、英文法関連書ももう何年も新刊を出していない。無理だ。
後世に伝える役割
書籍を出版するメーカーの役割は何だろうか。いまの世代はもちろんのこと、出来るだけ後世に伝えられるものを伝えていくことが役割なんじゃないだろうか。でも今の自分たちにどこまで出来るのか。そんなモヤモヤした日を数日過ごしました。そしてそのモヤモヤがいつまで経っても解消されないので、社内でそれとなく相談してみました。
私:「聖文新社のニュース知ってます?」
代表:「見た見た。衝撃的でした。」
私:「あれ、うちで出来ないかなぁ?」
代表:「あ、同じこと考えてた(笑)」
こんな会話がスタートでした。
「話がうまくまとまるかはわからないけど、想いだけでも伝えてみるか」
とにかくお話だけでも聞いてくださいと懇願して、コロナ禍で訪問も憚られる状況の中、お話を丁寧に聞いてくださいました。
何度か訪問させていただき、その都度温かくご対応いただきました聖文新社の皆さまにはこの場を借りてお礼申し上げます。本当にありがとうございました。
私たちの遺しかた
聖文新社様で作り上げた書籍は非常に精度が高く、今の私たちでは到底同じ仕事が出来ません。私たちが出来ることは、聖文新社様がこの出版業界に、読者にもたらした大きな功績を後世に伝えていくことだと考えています。
そのため復刊という言葉ではなく、引き継ぎという言葉で表現いたしました。
権利者様をはじめ、印刷会社、デザイナー、この仕事に携わった全ての方の意思が次の世代へと受け継がれるよう、元の形を出来るだけ遺して引き継ぎたいと考えています。
読者の方々へ
刊行までは少しお時間をください。
一気に11点もの書籍を作り上げるのは結構大掛かりなことです。今の私たちにはそこまでのリソースがありません。申し訳ございません。
順番に準備を進めてまいりますので、もう少しお待ちいただければ幸いです。
準備が整った書籍につきましては、順次弊社ホームページの刊行予定「これから出る本」で公開していく予定です。
また、TwitterやFacebook、noteなどでも順次公開していきます。
これからも応援よろしくお願いいたします。
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