明日の叙景 2018年・中国ツアー日記 1日目
中国国内をツアーすることは初夏には決まっており、航空券を購入したり、必要な書類にサインしたり、もちろん練習したりと準備は進めていた。しかし、ついに2週間を切っているタイミングでも告知が始まらず、正直に言うとかなり不安であった。
後に判明する話だが、現地のプロモータは顧客情報を持っており、メーリスにライブ情報を流すことで告知を行っていたそう。実際に集客はできていたので、これが彼らのやり方なのだろうと思う。大々的に告知することは政府の弾圧を受けるきっかけになってしまうのだろうか、これは自分の推測である。
実際にライブができるのか不安な中、20時に成田空港に集合する。成田空港は過去にネクロ魔バンドで航空券のドタキャンを食らった場所でもあるので、余計に不安になる。
荷物を無事に預け、食事をとり、四川航空の飛行機に搭乗する。今回のフライトは格安チケットなので、一度内陸部である成都で乗り換えたのちに北京に向かう。
四川航空はネットのレビューで総じて低い点数をマークしていたので待遇や荷物についてはかなり不安であったが、蓋を開けてみるとスタッフの対応も丁寧で安心した。余談だが、四川空港のCAは皆飛び抜けて美人であり、制服もチャイナドレスのコスプレに見えてくる。ロン毛の私は常々、接客業で言われる「清潔感」について疑問を呈して来たが、確かに見た目が整っていると安心するものだ。
5時間ほどのフライト中、各々勉強していたり、本を読んだりしている。自分はここぞとばかりにアニメ「フリクリ」をAmazon Primeで観て、感動していた。すっかりツアーを終えたあとの気分になってしまう。
成都では一晩空港で夜を明かさねばならず、ベンチに寝転んで全員で就寝。極力この手の乱暴なスケジュールは入れたくないのだが、致し方ない。人の出入りが少ない部屋を見つけられたのは良かった。
朝、成都から北京へもう一度移動し、無事に北京に到着。ここで今までやりとりをしていた現地のマネージャ/プロモータのYiQi Liu、そして一緒にライブを行うデンマークのHexisらと合流し、簡単に挨拶をする。
空港では一応、バンドで6000円ほどCNYに両替していたが、結局これはほとんど使わなかった。
さっそくハイエースで全員でホテルに向かう。Hexisのメンバーもフレンドリーなので軽く自己紹介などしつつ、全員で中国の入国事情や音楽事情など疑問に思っていることをYiQiに一気にぶつける。そして、そうこうしてるうちにホテルに到着。
ホテルは高層ビル群の隣にある、古めな街の一角にあった。後に聞く話では北京では、このような古い街並みを残すべく、高層ビルを建ててはならないエリアがあるそう。
つまり、北京は他の都市よりもスペースを活用しておらず、故に地価が非常に高価だそう。他の日に泊まったホテルよりも確かにボロい感じはあったが、中は綺麗で何も問題がない。布団に横になって数時間眠り、機材の調整を行う。
時差を考慮していなかったメンバーの勘違いで1時間早く宿から出てしまったので、そのまま外でギターの弦を交換。(上の写真参照。)自分としては景観に馴染んでいたつもりだったが、道を歩く老人にジロジロと見られていた。
会場に移動するべくハイエースに乗り込むとまさかのエンストが発生。路面電車が後ろからやってきてるというのに、道の真ん中で止まってしまい流石に焦っていたが、路面電車はパンタグラフを送電線から外して華麗に私たちを避けていった。そんな様子を見ている間に、恐ろしく問題解決スピードが早いマネージャが車をアプリで呼び、3分後には別の車で会場に向かう。
会場「bsp livehouse」はキャパ100人ほど、ビルの1階にある綺麗なライブハウス。飲食店も兼ねており、食事をするスペースがあったり、至るところに植物が飾ってある。
着いてからすぐに明日の叙景のリハーサルが開始、ギターアンプはMarshall JCM900が常設されていた。どうやら今日のトリはHexisではなく自分たちだと気づく。ドラムのスネアのヘッドが貼られていないトラブルもあったが着々と準備し、リハーサルは完了。
(正確にはスネアの内側にあるボルトが外れており、直すためにヘッドを外していたらしい。事実関係には正確さを求める明日の叙景メンバーである。)
リハーサル中は会場内で食事を取っているおばさん達が興味津々で自分たちのことを見ていたり、動画を撮影している。また、爆音が出ているのにも関わらず家族で食事をとり続けていて、面白かった。
物販としてツアーTシャツをレーベルに作ってもらったので、それを受け取る。
リハーサルを終えて中華料理を食う。余談だが、中国で食事をしているときは毎度コーラが支給される。ツアー中に食った飯はどこも美味く、この日もメンバーみな美味い美味いと言いながら食事をしていた。やはり現地人と組むとこういう利点があるのだ。
会場に帰ってしばらくすると、地元のバンドであるBLISS-ILLUSION (虚极)がライブを始める。(この日のライブレポートがフランス語だが公開されている。)
BLISS-ILLUSIONはAlcestのようなポストブラックのサウンドに、中国の文化を混ぜたスタイルのバンドだった。(上記ライブレポートに写真がある)
ノスタルジックなコード進行に、中国の笛が混じる。ボーカルは何やら巻物を手に持って読んでいる。中国の人々のクリエイティビティとして、自国の文化をはっきりと西洋の文化に混ぜてくるところがあり、非常に興味深い。
2番手はHexis、照明は自前のストロボのみ使用するライブであるが、どうも現地PAや照明と会話が噛み合わない。結局ボーカルがモニターの音量を上げろと怒鳴り散らしながらライブは開始。演奏時間はかなり短く感じたが、30分ほどだっただろうか。特にモッシュなどは起こらず、淡々と演奏して終わった印象があった。
薄々気づいていたが、中国には音楽カルチャーの土壌がないと言える。日本のライブハウスのように皆が黒いバンドTシャツを着ているということはない。Hexisのライブは日本だとモッシュが起こりうるサウンドではあるが、ハードコアパンクのカルチャーが根付いていない国ではモッシュは起こらないのである。
SNSをやっていると定期的に話題になる「モッシュ自然発生説」。体が自然に動くからモッシュであり、わざと暴れに行くのは如何なものか、という話だが、少なくとも土壌や文脈がないとモッシュは発生しないのだなと中国で気づく。
そして最後に自分たちの出番がくる。そもそも、今日やる予定だった別のライブハウスが政府により閉じられてしまったため、緊急で用意したライブハウスだったそう。時間も押し気味だったみたいで、自分たちは少しだけ巻くよう伝えられ、途中で演奏が止められちゃう可能性があるかも、なんて言われつつ本番スタート。
モニターがリハ通りではなかったり、ライブ直前に時間調整をさせられて動揺気味ではあったが、「無心で演奏をする練習」をしてきた明日の叙景はいつも通りプレイ。50分の演奏後にアンコールが起こるが、YiQiからのNGサインでプレイできず、終了。
楽屋に帰って軽くビールを飲み始めると、明日の叙景メンバーの元に人だかりができ始め、サイン会が開始。如何にもHIP HOPを聴いていそうな服装の青年が緊張しながら声をかけてくれた。わざわざ伝えたいことをGoogle翻訳に入れてもってきてくれた彼はピックを欲しがっていたので2枚渡す。
女性客や若いお客さんも多く、文化や土壌がない分フラットに音楽を聴きにきている人が多くて、そういう意味で手応えがあった。自分たちは、もしかすると中国の音楽文化ができあがるところに立ち会えているのではという気もしてくる。
撤収し、Hexisのメンバーと談笑しながら宿に帰る。明日は5時起きで高速列車に乗ると言われていたので早々に就寝。1日目終了。