NECRONOMIDOL - R'LYEH 楽曲解説

あたり前の話だが、音楽の作り方は人によって異なる。作る理由も異なれば、使う楽器やツールも異なる。制作にかける時間も、手順も違う。

自分はNECRONOMIDOLというアイドルに依頼を受け楽曲提供している。アイドルと言ってもAKB48グループや乃木坂46を始めとする坂道シリーズとは異なり、バンドで言うところの「インディーズ」のアイドルである。細かい定義の違いはあるが、NECRONOMIDOLを始めとするライブハウスで活動するインディペンデントなアイドルグループを「地下アイドル」と呼ぶ人もいれば、「ライブアイドル」「楽曲派アイドル」と呼ぶ人もいる。呼び方にはそれぞれの拘りがある訳だが、それらについては割愛する。

この点あまり触れてこなかったが、現在23歳の自分にとって「アイドル」というジャンル・プラットフォームには強い親しみがある。何故なら「アイドル」は自分と同世代の人からすると、常にリアルタイムで体験することができた唯一のムーブメントであり枠組みだからだ。例えば、自分はデスメタルが好きだが、このジャンルをリアルタイムに感じることはほとんど不可能であった。聴く作品のほとんどが後追いになってしまう。

ここで、アイドルとはジャンルではなくプラットフォームであって音楽ジャンルと性質を比較するのもおかしい、というツッコミが入る。その通りだ。

ただ、Perfume、でんぱ組.inc、ももいろクローバー、BiS、BABYMETALと音楽を聴き始めた当初から否が応でも彼女たちの経済的・音楽的成功は目に耳に入ってきた。自分にとって、もっともエキサイティングだと常に感じていたムーブメントがやはりアイドルだった。

そんな自分がNECRONOMIDOL - R'LYEHという曲を作る上で影響を受けた7曲、そしてR'LYEHのデモ版を公開する。

無料記事として5曲の解説とデモ版の冒頭30秒(試聴のみ)、500円の有料記事として残り2曲の解説とデモ版前半3分ほどのMP3(DL可能)を公開する。

はじめに

今回、解説するR'lyehはbandcampでも試聴できる。

この曲は自分が作編曲を行い、作詞やギターの音作り、ミックスダウンからマスタリングまでは運営側とスタジオのエンジニアが担当している。自分がどこまで作っているかなど気になる人もいると思うが、是非、今回公開するデモ版を聴いていただいて知ってもらえればと思う。

デモ版 冒頭30秒


1. NECRONOMIDOL - ITHAQUA

いきなり何を言い出すのか、と思う人も多いだろうが、R'LYEHの最初のインスピレーションは同グループのITHAQUAという楽曲から得ている。より正確に言うと、冬の映像にマッチする凍てつく雰囲気の楽曲を作りたい、バンドサウンドにシンセを導入したサウンドを自分なりにアップデートしたい、と感じていた。

自己模倣に対するネガティブなコメントをよく見かけるが、一度うまくいったパターンを踏襲することで、作曲のコストを落とし、新しいアイディアを盛り込む余裕を作ることは創造性だと自分は捉えている。

2. Cataplexy - Dawn of the Black Sun

実はプロデューサのリッキーさんには最初にこの曲のリンクを簡単なリファレンスとして送っていた。以前提供したEnd of Daysやpsychopompは静と動がはっきりしていたが、今回は流れるように続いていく楽曲を作りたいという意味でこの曲を選んでいた。

NECRONOMIDOLと私のバンド、明日の叙景でFeDCに出演し、Cateplexyと対バンしたばかりで出来すぎている話なのだが、この曲は正真正銘メールでリンクを送っていた。

3. Maison book girl - karma

最初に書いた通り、自分は「アイドル」という枠組みには思い入れがあるのだが、単純に楽曲を聴くのも好きなので熱心に聴いている。Maison book girlは簡単に言えばミニマルミュージックを代表するスティーヴ・ライヒの音をポップに仕上げた音楽をベースに活動しているアイドルグループである。

このkarmaという曲は4つ打ちならぬ、「3つ打ち」の珍しい楽曲である。グルーヴやリズムとして近いのは3拍子のブレイクコアかなと思う。

この楽曲の牧歌的なメロディラインと繰り返すコード進行が好きでかなり聴いていたし、ライブも何度か観てライブハウスの照明を最大限生かしたパフォーマンスに感動していた。

R'LYEHを作る段階でこの曲を意識していた訳ではないが、R'LYEHが3拍子のリズム(正確には4拍子の3連のリズム)であることや、曲の構成がミニマルミュージック的であることに深く影響を与えているなと、後になって気づいた。

4. fam - recall

2016年に再結成し、2018年6月に2nd Albumをリリースした千葉の3ピースメロディックバンドのfam。彼らは、(特に再結成前は)メロディックハードコアバンドの立ち位置でありながら、日本らしさを感じるメロディ、メランコリックでありながら明るさのある楽曲やシングルコイルのギターの音など、他のバンドと一線画す音楽を作っていた。

彼らのmini album『changes here』の1曲目である「recall」は疾走感あふれる3拍子でツービートの楽曲である。今でこそマスロック系のリズムとして3拍子ツービートのリズムは多く聴けるが、当時、fam以外でこのリズムを演奏しているバンドはいなかったように思う。

R'LYEHでは1:24~のサビでこのリズムを使っている。鋭い人はもう気づいていると思うが、NECRONOMIDOLに提供してるpsychopompという曲のサビもこのリズムである。

3拍子についてはそれだけでも複数記事が書けるほど奥が深い拍子だが、この3拍子ツービートにのみ焦点をあてて軽く解説をする。簡単に言えば、3拍子ツービートを使うと疾走感と浮遊感を同時に出すことができる。

3拍子のツービートが作れる疾走感と浮遊感

ツービートととは、簡単に言えばバスドラムとスネアが交互に「ドカドカ」と鳴るリズムのことである。

図1. 3拍子と4拍子のツービート

4拍子の場合は「ドカドカドカドカ」、R'LYEHのような3拍子の「ドカドカドカ」という具合になる。前者は例えばHI-STANDARDのStay Goldが当てはまる。


図2. 3拍子と4拍子のツービートの頭でリズムをとる

ここからがこの話のポイントだ。例えば、先ほどのHI-STANDARDの「ドカドカドカドカ」の頭の「ド」を意識してリズムをとってみて欲しい。「カドカドカドカ」とリズムをとってみると、テンポが遅すぎてノリづらい。強いていうなら2倍の早さで「カドカカドカ」だろう、という気持ちになる。

次に、3拍子のリズム「ドカドカドカ」の頭の「ド」を意識してリズムをとってみて欲しい。「カドカドカ」とリズムをとってみると、ゆったりとしたリズムとして聴けるのである。

これが自分が「3」のリズムで楽曲を作る理由で、ゆったりしたリズムと「ドカドカドカ」の早いリズムを両立することができる。改めてR'LYEHを聴いてみて欲しい、疾走感は感じるが、ゆったりとも聴けるとわかると思う。

こういうリズムの多様性は楽曲を作る上では大事なことだと思っている。アイドル楽曲においては「PPPH」など定型リズムパターンを作ることが良しとされているが、それはもう古い話である。

実は、日本でのライブではR'LYEHをゆったりとした曲として聴いている人が多いが、海外でのライブでは早いリズムにノッている人が多かった。楽曲を作る上で、最大公約数的に作るか否かは頻繁に話題になるが、そもそも答えを複数用意することも可能だと自分は思っている。

5. Metal One - Melody of Passion Ⅱ

自分はスペイン由来のハードコアテクノのジャンルであるMakinaが大好きである。使われている音色や楽曲の構造はハッピーハードコアと似ているが、途中から一転して哀愁漂う強烈な泣きメロが炸裂狂気のごとくそのメロディがループするのが特徴である。

この強烈な泣きメロと特徴的なコード進行をブラックメタルに輸入したいと常々思っており、その第一弾がR'LYEHである。R'LYEHにおいてシンセが奏でるメロディと上記のMelody of Passion Ⅱが近似していることはわかってもらえると思う。

このMelody of Passion Ⅱのメロディは人生で一番好きなメロディラインの一つだ。日本を代表するMAKINAのプロデューサーM-ProjectとDJ DEPATHが等楽曲をリミックスしているので、上の音源が古臭くて正直聴きづらいと感じる人はこちらをどうぞ。

全くの宣伝で申し訳ないが、M-Project氏がMasteringを行ったBreakcoreのコンピレーションCDに自分も参加しており、ついこの間リリースされたのでチェックしてほしい。

細かい部分であるが、この手の音楽はクラブではDJが楽曲を繋げていくのが一般的である。すると、繋ぎの部分は不協和しているが、曲が切り替わった途端にその不協和音が綺麗に無くなるという現象がある。

実を言うと、R'LYEHの3:04~からの歌のメロディラインは一部ギターと不協和している。具体的には「教室の外に」の「と」が不協和している。このメロディラインはひたすら続いていき不協和は続くが、3:30~からリズムが雪崩れ込んでからはギターのコード進行が若干変化してメロディとギターが不協和しないようになり、開放感が一気に増す仕組みである。こういうクラブミュージック的な快楽をバンドサウンドに持ってくることも一つの自分の大きなモチベーションだったりする。

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