エステルとは何か?
果物は色とりどりの見た目と良い香り、甘い味わいで我々を楽しませてくれます。ところで、果物の香りの成分はどんなものなのでしょうか?様々な成分が果物中に含まれていますが、香りの成分にはエステルと呼ばれている化合物群があります。聞きなれない言葉ですが、エステルとは何でしょうか?エステルとは図1のような構造を持つ化合物(R-COOR’)です。
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構造をよく眺めてみるとカルボン酸(R-COOH)と構造が類似していることに気付くかもしれません(図2)。
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何となく予想ができるかもしれませんが、エステルはカルボン酸とアルコールから合成することができます(式1)。ゆえにエステルにはカルボン酸の構造の名残がありますが、カルボン酸が悪臭を持つ傾向があるのに対して、エステルは果実臭を持つ傾向があり、香りが大きく異なります。香りの変化の例を挙げると、酢酸(CH₃COOH)はお酢の臭いですが、酢酸とエタノール(CH₃CH₂OH)から合成される酢酸エチル(CH₃COOCH₂CH₃)(式1)は果実臭です。香りが濃いといわゆる接着剤のセメダインの臭いになります。酢酸エチルは溶剤としても使われています。
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多くの化学反応は電子の移動を曲がった矢印で表すことで、その機構を説明することができます。矢印のふもとから先端方向に向かって電子が流れて反応が進行しているイメージです。式1に記した酢酸とエタノールからの酸触媒による酢酸エチル合成(フィッシャーエステル合成)の反応機構を式2に示しました。酢酸のカルボニル基が酸で活性化され、エタノールのヒドロキシ基からの求核攻撃を受けます。エタノールが付加して中間体が生成した後、エトキシ基の酸素上の脱プロトン化に続くヒドロキシ基のプロトン化が起こります。水の脱離に続いて、カルボニル基が再生され、プロトン化された酢酸エチルが生成し、続く脱プロトン化で酢酸エチルが生成します。エステルの合成法には、他にも様々な方法があるので調べてみてください。
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官能基としてエステルを指したい場合は、分子内の構造に対応するアルコールの名前を用いて”アルコキシカルボニル基”という言い方をします。例えば、酢酸エチルの場合は、酢酸とエタノールを縮合させた分子と言えるので、エタノールから名前を取り、エトキシカルボニル基と呼ばれます。または単に”エステル結合”や”エステル部位”といった言い方をされることがあります。