新世界秩序 3
釈放されたスコットとケビンは海岸線沿いの道を歩いていた。潮風が釈放された二人に心地よく吹き、カモメが空を飛び回り夕暮れの空はこれから来る闇夜を知らせるように徐々に明度を下げてきていた。
「しかし、ケビンよ。署長の相手たぁ、お前も大物になったな!」
「そうでもねぇぞ、スコット。BBの方が慣れてっから気持ちが楽ってもんだ。オレでも署長が来た時にはちょっとだけ驚いちまったもんよ。」
「人手不足ったぁ、悲しいねぇ。オレたちには一切関係ない話だけどな!」
二人は先ほどまでの出来事を茶化し合いながら海岸線の通りから大通りの方へ歩を進めた。大通りには家電量販店に飲食店にファッションショップとあらゆるテナントが所狭しと並んでいる。警察署から数十分ほどの距離だが、一気に町が街となり大都会の様相となる。二人は繁華街を堪能しながら歩を進め、ある音楽レコード店の前に飾られたテレビにスコットの視線がふと向いた。
「おい、今、オレたちが映ってなかったか?」
ケビンはスコットに訝しんだ視線を向ける。
「スコットぉ・・・いくらなんでも自己顕示欲が過ぎるぜ、オレたちゃ殺人もしてなけりゃメジャーリーガーでもねぇ。テレビに出るなんてありえねぇよ。」
スコットはそうだよなと思い直し、自分の勘違いだとケビンに謝った。しかし、その瞬間に伝えられた臨時ニュースはスコットが正しかったことを証明したのだった。
『臨時ニュースを申し上げます、昨今の犯罪増加、および凶悪事件の発生件数増加に対し警察及び公安組織は犯罪者に懸賞金を掛け、市民による逮捕への協力を募る新たなる治安対策を実施すると発表しました。犯罪者の居場所を通報したり、私人逮捕をすることで懸賞金を支払うとの事です。なお、やむを得ず強い抵抗にあった場合は正当防衛も認めるとのことで関係各所への連携と協力を要請した模様です。』
スコットとケビンは呆気に取られて言葉が出てこない状態に陥った。人手不足を揶揄っていたが、警察組織がここまで追い詰められていたとは想定していなかったのだ。
「おいおい、どういうこった、こいつぁ・・・。」
流石に何回もご厄介になってきた警察、それに悪態を付いてきた現実。自分たちの立場が非常に悪いものであることは容易に想像が2人にはついた。ニュースはさらに2人に都合の悪い事柄を告げる。
『なお、警察は一斉に懸賞金を掛けた場合は混乱を来すということでまずは5人に懸賞金を掛けることにしたと発表しました。5人の名はスコット・テイラー。ケビン・マッキャノン・・・。』
そこにはご丁寧に顔写真まで添えて懸賞金を掛けたというニュースが発表されていた。このニュースを見た人間であれば2人の顔はすぐに分かる、それくらい不必要なほどの高画質の画像でご丁寧に特徴が述べられていた。
「ちくしょう、オレたちだけなんであんな高画質なんだよ、後の3人は監視カメラレベルじゃねぇか!とりあえず・・・ケビン、どうする?」
焦るスコットを尻目にケビンは冷静に頭を回転させてある結論を導き出した。
「ちょっと遠いけど、ファーザーんところに行こう。あそこなら身を隠せるはずだ。」
「確かに!あそこならバレねぇだろう。」
ファーザー。パパと呼ばれたり、ピンプと呼ばれたり、時にはゴッドファーザーとも呼ばれる男で、法は犯してないがグレーゾーンを攻め込む天才と裏社会では知られている。クラブ、娼婦、怪しげなカルト集団集会場。その街にいる人間は全員が職務質問に値する。そんな空間をコントロールしている。それがファーザーだ。
2人は繁華街を抜け出し、海岸線の道まで戻り、ファーザーの居場所へ向けて移動手段を探していた。辺りはすっかり夜の闇に飲み込まれ、繁華街の灯りが遠くから暗い海にわずかに反射する。暗闇で簡単には人の判別が出来ないのは好都合だ。だが、ファーザーの所までは車でも45分は掛かる。アメリカなら近場と言える距離だが、歩いていくにはあまりにも遠い上にリスクが高い。使い古されて放置された自転車やバイクはないかと探しまわっている時のことだった。
「あれぇ?もしかして懸賞首のスコットとケビンってこいつらぁ?」
海岸線で屯しているゴロツキ連中だ。明らかに酔っ払っているが、周りに5人ほどだろうか、視線を2人に向けている。
「えぇ、間違いないです。」
ゴロツキの一人がぶっきらぼうに答える。
「おまえらぁ、殺せば金持ちだ!2匹ぶっ殺してやろうぜ!」
ゴロツキどもはそれぞれに武器を抜いて二人に襲い掛かってきたのだった。