【長編小説】新世界秩序 1
第一章
〜アメリカのフロリダ州とある警察署〜
「で、相手をボコボコにしたと。」
「あぁ、でもオレは正当防衛だ。やつが先に光り物を出したんだからな、それにオレはこいつしか使っていないんだせ、愛ある拳だ!身の程を弁えさせて理解させなきゃいけねぇからな、分かったか?BB!ハハハハ。」
「BBって呼ぶんじゃない、同僚か。お前は。」
ある取調べが行われている部屋に2人の男がいる。1人は警察官のブライアン・ブキャナン刑事。仲間内や親しい人からはBBと呼ばれている。
「BB、オレとお前の仲じゃないか。オレの調書取るのは何枚目だ?知らねぇ仲じゃねぇだろう?」
「・・・8枚目だ。友達のように言いやがって、オレはお前より10は年上だぞ。」
「へぇ・・・。BBいくつ?」
「36。」
「マジかよ、オレ24だぜ、ピッチピチのな!」
悪事を全く悪びれない男はスコット・テイラー。フロリダ州を根城にする不良の1人だ。黒髪で癖っ毛の強いロングヘアー、アロハシャツの前ボタンは外して首には金色のチェーンネックレスを身に着けている。彼は頻回に警察のやっかいになっていて、最近では事件を起こす度にBBが取調べをする流れが出来上がっている。
「なぁ、BB。分かってるんだろ?ケンカでナイフ出した奴がオレに負けた。それだけってことをさ!」
「そいつを決めるのは検察官や裁判官だ、オレの仕事はお前の証言を聞いて、書いて、サインさせて、しかるべき所に野放しにするのか捕まえとくのかお伺いを立てるとこまでだ。第一な、相手がナイフ出してきたとはいえ、通報者が『人が死んでる!』って言う程にしといてすぐに帰れるわけないだろ。」
BBの発言を聞いてスコットは不満そうに窓の外を眺めつつ、もう慣れた手続きが終わるまでの辛抱だと割り切って黙って座っていた。一方のBBは一所懸命にテープレコーディングの内容を書き起こすためにペンを走らせていた。数分が経過した頃に取調室の扉が開いた。
「BB、あっちの調書出来たぞ、ちょっと見せてくれ。」
そこに現れたのは壮年の男性警官だった。
「誰かと思えばビンス署長陛下じゃねーか。人手不足かこの警察署はハッハッハ。」
スコットは少し驚きながらも高笑いをし、壮年の男性警官に視線を向けた。
「お前らが隠居させてくれんもんで、仕事が次から次へと湧いてくるんでな、サインするだけの仕事も進まんよ。」
うすら笑いを浮かべながら壮年の男性警官はそう言葉をかけた。彼の名前はビンス・マクドナルド。この街で知事の名前は知らなくとも彼の名前は誰もが知っていると呼ばれる警察署長だ。若い頃から辣腕を振るい、現場からもキャリア組からも尊敬されている。
「へっ、だからって署長がする仕事かよ。落ちぶれたもんだなぁ、アンタも警察もよ!人手不足たぁな。オレでも雇うか?ハハハ。」
誰に対しても悪態を付くスコットには皆が慣れきっており、その不遜な態度を咎める人もいない。
「うむ、だいたい証言は同じような感じだな。BB、文字起こしだけは頼むぞ、老眼には筆記作業はいささかしんどいんでな」
「署長、お任せください」
一仕事を終えたビンス署長はそのまま部屋を出ようとドアへ歩みノブに手を掛けたが、その刹那、スコットの方を振り返り話しかけ始めた。
「お前らとはもう会わなくて済むなら会いたくもないのだが・・・きっとそういうわけにもいかんのだろうな」
ビンス署長は笑みを浮かべて取調室を後にした。
「・・・BB、なんか署長気持ち悪かったな。」
「ノーコメント。」
「BB。こういう時に上司に対して文句言わねぇと。ストレス溜めるとあっという間に禿げるって聞くぞ?言えるチャンスなんて滅多にねぇんだから!ほら、言えよ!気持ち悪いって!」
「ノーコメント」
BBはノーコメントを貫いたが、内心ではスコットの言う気持ちも分からないわけではなかった。意図が読めない、しなくてもいい不必要な行動。ビンス署長がそういう行動を取ることは少なくともBBが警察官になってここに赴任するまではなかったことだ。とはいえ、することはしなければならない。テープレコーディングしたものからの文字起こしをして、スコットにサインをさせて、然るべきところから拘留か釈放か指示をもらわなければならないのだ。
数十分の後、すべての作業が終わった。スコットは釈放されることになった。相手が武器を持っていたことが考慮されたとのことで、今回の件で立件されることはないとのことだ。BBは拘束を解かれ、身支度をし、取調室から出口へと移動し始めた。階段の途中でスコットはBBに声をかけた。
「サンキュー、BB、また逢う日までな~。」
「また、オレに逢いに来るのかよ、もうオレは腹いっぱいだよ。」
「逢いに来るつもりはねぇけどさ、どーせまた逢うんじゃねーの?」
相変わらず軽口を叩きながら反省の色のないスコットを見てBBは再会を確信していた。
「ケビン、待たせたな!」
「スコット、終わったか!オレなんて署長直々の取り調べよ、手厚い待遇に感謝だぜ。」
ケビン・マッキャノン。スコットといつもペアで行動している男で、金髪のロングヘアーで2メートルを超える大柄な身体が街中でも目立つ男だ。ビンス署長が直々に取り調べをしていたのもこの男だ。
「じゃ、というわけであばよーBB!」
「署長の取り調べはお前と一味も二味も違ったぜ~」
軽口を叩いている二人の姿をBBは眺めていた。なんで署長が取り調べをしたのか。どうしてもさっきのセリフが頭から離れなかった。そうこう考えているうちに二人の足取りは軽く颯爽と町の中へ消えていったのだった。