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【小説】鏡越しの君

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小説「鏡越しの君」をまとめています。
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2024年8月の記事一覧

鏡越しの君#3 絶望と喪失

ぼんやりとご飯を口に運ぶ。
「お腹空いたな。腹が減ってはなんとやら」矢本は俺の隣に座った。
「今日はハンバーグ定食か。得した気分だな」
「うん」
昨日のことでそれどころではない。
ご飯が喉を通らない。

「なんか元気ないよな」
やっぱり矢本には見透かされている。
だけど、こういう時はいじってこない矢本の優しさに余計に惨めな気分になるから言うのはやめておく。

「俺の唐揚げあげる」
唐揚げ定食の大き

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鏡越しの君#2 大事な物

次の日の朝、まるでいつも通りかのように起きて電車に乗り、会社についた。
身体は覚えていて悩むことはなく順調に会社に着いた。
いつもこんな満員電車に乗っているのかと我ながら感心する。

狐につままれた気分で恐る恐る社員証をかざすと、扉が開いた。

「よっ、田渕」
肩を掴まれて振り返ると、男の俺から控えめに言っても爽やかで格好いい男がいた。

「おはよう。矢本」
するりと名前が出てくる。
この奇妙な感

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鏡越しの君 #1

#1ルビー・サファイア

鬱々とした曇り空を見上げた。ため息が吸い込まれていく。学生を横目にトレーを席に運ぶ。

この辺りではここにしかないってのもあるが、ここのファーストフード店はいつも賑わっている。

ハンバーガーを口に運ぶと、何も考えていなかった学生時代を思い出す。

この春、就活に失敗した。お祈りメールを何通もみた。◯人と聞いて何を思い浮かべるだろう。

俺は凡人だ。どこまで行っても凡人に

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