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ある日のこと。


ある日、君とお別れをした。

これから先、絶対会えない、そんなお別れじゃない、そんなバイバイじゃない。そんなことはわかっていた。

別に寂しくなんかない、寂しくなんかない。けど、少し、もう少し一緒だったら良かったのになと思った。
一緒にいる時間が多ければ多いほど、この感情が大きくなることもちゃんと知ってるはずなのに、そんなことを考えていた。

帰るために電車に乗る。隣には君がいて、触れてないのに感じる温度があった。
乗り換えの駅。君と別れる駅。電車が来る。

乗りたくないなぁ、とぼんやり考える。涙腺がなにかに刺激される。
何、刺激してんの。困る。泣かないって決めてんのに。

君の顔を少しだけ見る。のぞき込む。私の目が潤んでしまってるのがなるべくばれないように。泣いてるの?なんて、聞かれないように。君を困らせないように。
そんなことを聞かれて、自分が抱きつきたくならないように。
我慢しながら、少し気をつけながら、君の顔をのぞき込む。

君はいつもと変わらなそうで、少しだけ安心する。
なーんだ、私だけか。なんて考えて、ふふって笑って、君がいない方を向いて咳をするふりをして涙を拭く。
あぁ、行かなきゃね、なんて呟いて。またね、って言って。

電車に乗り込もうとして、言い忘れたことがあったのを思い出して、振り返って君に言う。


あ、うまく笑えてたかな、なんて考えながら電車に乗る。
電車のドアが閉まる。君が見えなくなるまで手を振る。またね、と心の中で言う。
心では泣きながら、顔には笑顔を作って。

またね、が君との数日だけは特別になって。君が隣にいなくなるとき、いつものに戻った。
いつもの?そう、いつもの。「またあしたね」じゃない、それ。
明日はもう会えないんだよなぁ、なんて当たり前のことを考える。変な私。

「また会おう」。
その気持ちはいつまでそこにいてくれるんだろうか。どこかに行ってしまったりしないんだろうか。
自分の持ってるこの気持ちとか、いろいろってやつは。
また会う約束をする日はちゃんと来てくれるのだろうか、すこし一人で考えて泣きそうになる、すこし?いや、だいぶなる。
だいぶ泣きそうってなんだよ、泣いてるの?

君と私のあいだに、また会える「いつか」がやって来たとして、そのときも変わらず、君に会いたいと思ってもらえたらいいなぁと。
そんな私でいたいなぁと。そんなことを考えた。

電車の中。隣の座席に君はいない。

うん、何も変わらない。何も変わらない、はずだったのになぁ、と呟いてしまった一人きりの電車。

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