夏の夜は短くて、

夏の一歩手前みたいな空の日だった。

五月。
梅雨にもなってないくせに、サンダル、半袖。
誰かに求められること、愛されることを望んでいた僕は もうここにはいない。そんなことを思った。

思えば、ふざけた日々だった。

連絡がいつ来てもいいようにと、両の手でiPhone5cを握りしめて眠った夜。

付き合ってもないくせに、手も繋いでくれないくせに、頭だけは優しく撫でたあの右手。

来てくれてありがとう なんて言いながら、抱き寄せられた二十三時八分。

抱き締めて、「会いに行くから」なんて 小説みたいじゃん と思った慣れない駅のホーム。

酔ったときだけ、好き とか言っちゃう、ずるすぎるバカ。

そして、それを酔った時のコトバは本音とかいう迷信とともに信じてしまった 僕もバカだったりした。

それに、素面で「好きだと思った」とか言うから、体温が0.8度上がったみたいな気持ちになった僕はきっとまだ幼かったのだと思った。

首元で君を感じたくせに、知らん顔をした夏の日に戻れば 少しはマシな結末だったのだろうか。

たいして変わらないだろ、って言われなくても知ってる。

キスをしたって、隣で瞳を閉じたって、それ以上をするでもなんでもなくて、結局 僕たちは恋人にもなれなかった。

だからといって、二人の間にあったものは友情でもなかったから 僕たちは友人でもなかったし、あっけなく終わった連絡や繋がりは やっぱり友人にさえなれなかった ということを改めて実感させた。

君に貸したっきりあげてしまった気に入ってたあのタオルは、今頃どうなっているだろう。もう燃えてなくなってるかもな。
そんなことを考えながら、鬱陶しいほど青い空を見上げて 笑ってしまった。


大学の授業は、相変わらずつまらないものの方が多い。どれだけの学生が真面目に来てるんだろうな。

君が教えてくれた歌を口ずさめる僕。
君がつくった歌をいまだ口づさんでしまう僕。
そのくせ、君の声がどんどん思い出せなくなる僕。

君の匂いは、もう忘れた。

すり込まれたみたいな酒の好みは本当に笑える。

あなたはもっと幸せになるべきだよ ってそういった君は、僕を決して幸せにはしてくれなかった。

あの最後の日の「またね」、すごく愛おしくて すごく嬉しくて すごく辛かった。
「またね」なんて来ないじゃんか。


思えば、愛しい日々だった。


もう泣くことも 悲しむこともないし、もう一度 君を好きになることもない。
それと同じように、君を嫌いになることも きっとない。とは思うんだけど、もう一度 「ちょっとは大人になったんだ。もう子供じゃないんだ。」って言いながら、いつか会いたいと思った。


夏の夜は短い、なのに どうしてあんなに永く続くように感じていたんだろうね。


#エッセイ

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