物語の創作とは救済であり、エールでもある | 村上春樹さん 『風の歌を聴け』
かつて誰もがクールに生きたいと考える時代があった。
僕にとって、クールの象徴といえば、村上春樹さんの小説に登場する主人公たちがそれだ。「やれやれ」という言葉と共に、やや斜め上から世界を見下ろし、悟ったかのように人生を語り出す。同時に、独特のセンスの持ち主ゆえに、ある種の人々を惹きつけ、生活にも女性にも困っておらず、一定の余裕を持って世界と接しているように見える。
大学一年生の時に、村上春樹さんの小説を読みはじめた僕は、一時期、村上作品の主人公たちに憧れていた。『ノルウェー