ちょっとだけ記憶のフタが開く
「食べていいよ」と言われて覗いた冷蔵庫の中に、1つの箱。
右上には「KASHINOKI」と書かれている。
あぁ・・・・・・果子乃季。
山口県民は広く知っているであろう菓子店。
お店の名前は知らなくても、「月でひろった卵」は知っている人が多いんじゃないだろうか。
山口で生まれ、幼少期を山口で育ってきた自分にとって、山口の有名なお菓子といえば、これが筆頭に挙がってくる。
カスタードクリームをカステラ状の生地で包んだ丸いお菓子と言えば、かすたどんでも、萩の月でもない。と言うか、萩の月は最近知ったに等しいくらい自分にとっては「後出し」のもので。「月でひろった卵」がそうなのだ。
まぁ、今回食べたのは「月でー」ではなく、「魅惑のザッハトルテ」というお菓子だったのだが。
幼い頃には果子乃季のザッハトルテを食べた記憶が無い。
しっとり。というかすごくなめらかで、めちゃめちゃ美味しい。短いチョコバーの様な形状を、ちょっとずつ食べ進めていく。
1日1本ずつ食べて、しっかり5本いただいてしまった。
記憶はすごく曖昧で、幼少の頃のものなんか、ものすごくまばらな記憶しかない。
果子乃季は菓子店なのに食べたものの想い出が一切浮かんでこない。けれど、バスでお店の外観を眺めながら通り過ぎたような、親戚の家に行くときに渡すちょっといいものを買いに行くような。ちょっと遠目から眺めているような場所だった。
ただ、お店の名前だけでなんとなく懐かしい気持ちになる。地元の同世代の人間にしか共感を得られないようなお店が、実はその場所に居たことをものすごく感じさせるものなのかもしれない。よくおつかいにいったスーパー、休日に歩いて食べに行ったラーメン屋。言ったってすぐには分からないようなお店の名前が、自分にはものすごく故郷の感じを響かせる。
たまたま食べたザッハトルテ、それ自体に深い想い出はないのだけれど。
ちょっとだけ記憶のフタが開く、そんな時間をもらっていた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?