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ミニシアター再訪〈リヴィジテッド〉都市と映画の物語 1980-2023 大森さわこ
『ミニシアター再訪 都市と映画の物語 1980-2023』(大森さわこ)読了。
吉祥寺バウスシアターの終焉(2014年)から、いったん六本木にWAVEがニョキっと生えてきた頃(1983年)までページを戻り、そこからまたリビジテッドし直していたら読了まで3ヶ月もかかってしまった。おかげで毎週土曜の朝に近所の某大学構内にあるセガフレードカフェで読み耽る習慣ができたので、今後も別の本を抱えて習慣を続けようと思う。
ひとこと、とても有機的でフィジカルな本だった。この感触は著者が文字通り12年にわたって足で稼いできた情報の重さによるものが大きい。もちろん多くの文献にも当たっているのだけど、質・量ともに圧倒的な現場情報で溢れていて、脚に心地よい筋肉痛を感じるような読後感が残る。
この本からもっとも大きな感銘を受けたのが、ノスタルジーの無さ。コロナ後の現在までが記録されているからじゃないのよ。関係者による述懐含めて、生き生きとした「今」が克明に綴られていた。老舗の意気揚々とした立ち上げ当時の「今」、ライバル館が互いの特色を模索してせめぎ合ったあの頃の「今」、シネコンや配信やコロナに喘いだこないだの「今」。ミニシアターの祖・原石であった岩波ホールの立ち上げから50年に亘り、どこをとってもその時々の「今」「今」「今」で602ページ。本を閉じて最初に思うのは、当時は良かったな、というしんみりではなく、さぁて、この後は何が起きるのかな、ミニシアターは、映画館はどう転がっていくのかな、というこれから。目を潤ませて後ろを振り返るような陶酔はここにはありません。各支配人やプログラム担当の皆さんも、次の波、時代に揉まれていく気満々で臨むご様子。
著者の取材によってこれまでをおさらいする機会を得たミニシアターが、それを次なる「今」を乗り切る知恵とするならば、それってバートン校のハナム先生がアンガスに説いたアレよね。「歴史は過去を学ぶだけでなく、今を説明すること」
ちなみにこの本には、取り上げられた映画館の掲載ページが巻末のINDEXに記載されているんですけど、最近はテキスト検索で一つ一つはわけなく拾えるにしても、こうして見るとなかなかの狂気で、おれは平易でおだやかな文体の奥底に湛える著者の執念というやつをここに見ましたね。
アステスパブリッシング
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2024年9月10日facebookの投稿より転記