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こんなことたぶん二度は起こりませんよ、(評価:9)
キスを我慢せよ。 筋書きも役回りも知らされぬままいきなり物語の中に放り込まれた劇団ひとりが、セクシー女優たちとのキスシーンの誘惑を我慢とアドリブでかわしていく。キスの誘惑に負けてしまえばそこで終了。 欲望と使命のせめぎ合いに身をよじるひとりの葛藤をケラケラ楽しむあのどシンプルなTV企画が、劇場版2作目にして極上の劇場型エンターテインメントに化けた。 物語の主人公がいる。彼は何者かに利用されようとしている。そんな世界は巨大な何かに操られている。それをさらなる高みから見物する者がいる(コメンテーターのおぎやはぎとバナナマン)。しかし所詮それらはみな企画者の手の内にあり、さらに総ては我々観客の俯瞰に晒されている。これが本作を取り巻くブ厚い構造だ。 この重層的な支配構造はひとりを中心とした同心円上に拡がり、円の中心にいるひとりは「無力な被支配者」として弄ばれる。我々を含む各支配層はそれを笑っていればよかった。 ところがある時、ひとりの機転が放った痛快なアドリブが一気通貫に支配層をつんざき、この企画自体を揺るがすコトを起こした。いわば、たかが物語の主人公が、その世界を構築する枠組みである「企画」の胸ぐらをひっつかみ、腕力で物語に引きずり込んでしまったのだ! かくして企画はひしゃげて物語に織り込まれ、主人公の手のひらの上で結着してしまった!何だこのスペクタクル! 思うに、あのとき劇場で沸いた拍手は、最も安全な外周で安穏としていた観客の、「してやられた」心地よい敗北感からくる労いではなかったろうか。 こんなことたぶん二度は起こりませんよ、ぜひ劇場で体験を。 劇場で見る意味?それは、何これちょー面白いンだけど!と思ったその時、すぐ隣に顔を見合わせて同じ空気を分かち合える人たちがいるってことしか思いつかないけど、それが総てじゃないのかね。ともかく四の五の言ってたら公開終わっちゃいますよ? 実名レビューサイト Freak!! No.338:ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE2 サイキック・ラブ/2014年月10月某日 投稿文より転載
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トイストーリー4のフォーキーとは
https://youtu.be/LDXYRzerjzU トイ4を見たという映画的友人とのLINEのやりとりを転記。人と話すと考えがまとまるな。ネタバレとは思わないけど、内容、というかウッディの心情に触れてます。おれの思い込みだけどね。 2021/5/24/23:52 おれはね、フォーキーは、オモチャとは何か、自分は何者か、という問いに目覚めてしまったウッディの心が具現化した存在だと思っているよ。実際に具現化したものかはともかく、フォーキーにオモチャの根源の・ようなものを見て、オモチャとしての自分の核を改めて定義し確固たるものにしたい!オモチャとしての自分の価値を信じたい! ウッディのフォーキーに対する執着は尋常じゃないでしょ?その確たる説明もないままに。 ウッディはフォーキーの存在にすがるような思いで、フォーキーをゴミと認めたくなく、フォーキーがゴミならないよう必死に取り繕っているように見えたでしょ? 2021/5/25/0:04 なんであんな奴(フォーキー)のことそこまで気にするの?みたいに、周囲とウッディの温度差が激しかったよね。 あの娘が自分で作ったフォーキーは不細工なゴミ同然の出来損ない。でもそういうことじゃないんだよね、子供にとって大事なのは。それを目の当たりにしたウッディはちょうど自分の新しい持ち主であるその娘との関係を最初の持ち主であるアンディとの関係のように磐石にしようと四苦八苦中で、やりすぎくらいに持ち主に尽くすのに、響かず、アイデンティティがぐらぐら。自分はもうダメなのか、アンディの時のような関係はもう築けないのか。 ウッディのそんな心情を踏まえて見るとちょっとすごい。 俺もトイ4はいつか見直したいと思ってます。 2021/5/25/0:12 上手く行ってるかのように取り繕いながらも心の中は不安でいっぱいのウッディ。フォーキーに対しても保護者ヅラしてるけど、自分にないもの(かつては持っていたかもしれないもの)がフォーキーには備わってる気がして…。それが何なのかはわからない。でもきっととてつもなく大切なことで、今の自分に欠けている何かがそこにある気がしてならない! 2021/5/25/0:18 フォーキーが、自分はオモチャじゃない!居心地わるい!とすぐゴミ箱に飛び込もうとする行為が、オモチャとゴミという、紙一重なのにやたらとでかい振り幅で揺れているウッディの不安の現れに見えた。 2021/5/25/0:21 そんなフォーキーに振り回されるようにしてウッディが導かれたのが、宿主への希求が怨念のように渦巻く古道具屋を経由したあのラスト!と思えば、やっぱりフォーキーとはウッディの心の奥深くから湧いてきた悩みが化身となって、ウッディを進むべき道に導いたもしくはその決断を促した何がしかの「使い」に思えやしないだろうか!(おしまい) 【後記】 つまり、フォーキーは『ばしゃ馬さんとビッグマウス』で馬淵みち代を「夢」の出口に導いた天使、天童義美なのだね。 と、おれの好きな落としどころに収まった。
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エデンの東
月例映画会/est 2006 本日お集まりの皆さん、ありがとうございました。 緊急事態宣言の延長が本格化する中、 天井が果てしなく高く、20分ごとにすべての空気が入れ替わる換気システムを完備した、世界で一番安全な映画館という場所で、 マスクに黙してひたすらに前方を見つめ続ける映画鑑賞というものに興じてきました。 参加した4名が仲良くひとつとびに並んで鑑賞した作品は、 伝説的な名画『エデンの東』/新宿ピカデリーでした。 マリリン・モンローと並ぶ、映画史に輝く永遠のアイコン、 ジェームズ・ディーンの生誕90周年を記念したリバイバル公開です(誕生日は2月8日)。 クラシック映画はとかく不勉強な私ですが、 実は映画音楽と試写会応募に明け暮れていた中学時代、父の通うテニスクラブに所属していたアナウンサー(名前失念)がパーソナリティのラジオ番組【文化放送シネサロン】の番組テーマ曲として、毎週2回(オープニングとエンディングに)聴いていたのが『エデンの東』の切なくも美しい旋律でした。 今回はその懐かしのスコアをスクリーンから全身に浴びるために観に行こうと思い立ったのです。 * 旧約聖書の『創世記』第四章に登場する兄弟「カインとアベル」を下敷きにしたスタインベックの原作を映画化したものだそうですが、 いやまさかこんな、愛が欲しいばかりのダメ男がひねていじけて拗らせて、 新農業ビジネスの立ち上げと兄の結婚という一縷の望みで再生しかけていた家族をかき回した挙句、完全崩壊させ、 そのくせ自分だけは独りよがりな愛を美しいテーマ曲とともに享受する(兄の婚約者を奪い、廃人寸前にまで陥れた父親の寵愛を独り占めにする)話だとは思いませんでした。正直びっくりだ。 それでも、自分本位で不恰好な姿を取り繕おうともしないディーンの哀愁漂う上目遣いは確かに可愛らしく、理屈を超えた魅力とは、演技力や演出だけでは得られないのだと思い知りました。 スターとはかくあるべし。というか、こういう映画を成立させるためにスターがいるんですね。 いじらしさ、と、いじましさは一文字ちがい。 ちなみに、映画本編で使われているスコアは、少しテンポが早く、若干軽薄さを覚えるもので、私が中学時代に聴き惚れていた気品溢れる流麗なアレとは別物だったこともまた、新鮮な驚きでした。 中学時代に聴き惚れていたアレ https://youtu.be/h1fOFlG5b2w いや、ことごとく目論見が外れ、はしご外されまくりでしたが、映画体験としては間違いなく楽しみました。 思い込みで高を括って見ないなんて、もったいないですね。 一気にディーンに興味が湧き、最低でも『理由なき反抗』と『ジャイアンツ』くらいは死ぬまでに見ておこうと誓いました。 結果として、得られなかったものに得たものが大きく、とても勉強になりましたということになります。 さて今月で月例映画会は16年目に入りました。 また来月。 まだまだ続けます。 2021年1月31日 Facebookへの書き込みを転記
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大林と花火と戦争の話
花火師は、自分の花火が放つ色、夜空への広がり方、それを見上げる人々の表情までも思い描きながら花火を作る。でも戦時中に同じ火薬で爆弾を作らされていた時は、それがどこに落とされて、落とされた人々がいったいどんな顔をするのか、想像することなんてとてもできなかった。(大意) その台詞を聞いて、空から落ちて町中に火炎を広げる焼夷弾、という真逆の光景が浮かんだ。 落ちて広がる爆弾で死んだ人々を、登って広がる花火が追悼する。 真逆の力学で抗う尺玉に花火師が込めたもの。 三年前、大林宣彦の『この空の花-長岡花火物語』で、人々が花火に込めたひとかたならぬ念持を知った。 その年、真珠湾攻撃を指揮した山本五十六の故郷である長岡市が、真珠湾のあるホノルル市と姉妹都市を締結し、これからの平和を誓い合った。 そして戦後70年の終戦の日、真珠湾で長岡花火が打ち上げられた。日本軍の奇襲に遭った当時の敵国の犠牲者家族が招かれ、涙を流す姿がニュースで流れた。 今日の舞台『明日花』(あしたばな)の台詞は、そんな流れを決定づけるようなもので、この先、花火の見方を変えてしまうほどのものとして響いた。 これから打ち上げられる花火が、世界中に落とされた爆弾の数を超えてしまえばいい。 2015年8月28日Facebook投稿より(時制調整のため加筆修正) 日穏-bion- Vol. 7「明日花-あしたばな-」/劇場MOMO(中野)
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