気候変動対策として代替肉を捉えないといけないのではないか・・・
約3年前の2021年、私が気候変動に興味をもって最初に色々な本を読みあさったときに、家畜の影響による温室効果のインパクトが書かれていていました。
温室効果ガスというと、自動車や飛行機の排気ガスや、化石燃料を使った火力発電などを想起してしまいますが、実は畜産によって排出される温室効果ガスの影響は小さくないということでした。
そしてその対策として代替肉の開発が進んでいるということが気候変動の書籍では紹介されていました。
しかし3年の時が経て、今朝の日本経済新聞の記事には驚きました。このままでは気候変動対策が後退してしまうのではないか、そして食料危機を加速させてしまうのではないかということを。
1.代替肉などの投資が大きく減っている
今日の日本経済新聞には、世界のフード・アグリテック企業への投資金額のグラフがあり、私が気候変動関連の書籍を読んでいたことはまさにピークだったようです。あまり代替肉などのメニューが広がってきていないとは感じていたのですが、明らかに下火になっているようです。
なおフードテックとは食料(Food)とテクノロジー(Technology)を掛け合わせた造語で、食の分野にロボット、AI、IoTなど先端技術を活用した新しいサービスやビジネスのことを言います。一方のアグリテックとは、農業(Agriculture)とテクノロジー(Technology)を組み合わせて作られた造語で、ロボット、AI、IoTなど先端技術を活用した新しい農業の形です。フードテックもアグリテックも呼び方の違いはあるもののそれぞれの定義は曖昧で、その違いを明確に区別することは難しいと言われているようです。
いずれにしても培養肉や植物肉といった家畜を使わずに代替肉を作り出す技術への投資が細っているという状況のようです。「そこまでおいしくないうえ、本物に似せるための添加物も気になり買わなくなった」という消費者の声が書かれていますが、これを見ていると代替肉が消費者にあまり受け入れられていないと感じました。消費者もこれが気候変動対策につながっているという意識もあまり強くはないのだとも感じました。
この記事は、人口増加と気候変動に伴う食料不足回避策としての代替肉の文脈が書かれているのですが、私としては家畜によって発生する温室効果ガスを減らすというさらに大きな目的がこの記事では述べられていない点が、気になりましたので、そのあたりについての補足をここではしたいと思います。
2.家畜による温室効果ガスとは?
家畜が排出する温室効果ガスの中でも特に問題視されているのがメタン(CH₄)と二酸化炭素(CO₂)です。具体的には、以下のような影響があります。
メタン(CH₄): メタンは二酸化炭素の約25倍の温室効果を持つ強力な温室効果ガスです。家畜、特に反芻動物(牛や羊など)の消化過程で生成されるメタンが大気中に放出されます。また、家畜の糞尿や飼料の腐敗過程でもメタンが発生します。
二酸化炭素(CO₂): 家畜の飼育には大量の飼料や水、土地が必要とされます。これにより、森林伐採や土地の転用が進み、CO₂の排出が増加します。また、飼料の生産過程や運搬にも多くのエネルギーが使用され、その結果としてCO₂が排出されます。
なお温室効果ガス総排出量に占めるガス別排出量がどのようになっているのかというと、以下の記事にあるようにメタンは全体の18%程度となっています。
そして農林水産省のホームページに掲載されているページを見ると、農林水産分野における温室効果ガス排出量の全体において
・家畜排せつ物管理 4.7%
・家畜消化管内発酵 15.0%(つまり、おならやげっぷ)
を占めていて、合わせて約20%も占めています。メタンガスにおいては、43.5%のうちに20%なのでほぼ半分を家畜が占めているという状況です。
全ての家畜のげっぷ・おならからメタンが発生するわけではありません。牛は人間には消化できない植物を食べることができますが、これは消化管内発酵と呼ばれるプロセスによって胃の中の細菌が植物のセルロースを分解・発酵することで消化を可能にしています。そして、このプロセスを経てメタンが発生し、げっぷやおならとなって大気中に放出されます。
このような消化管内発酵ができる動物は「反すう動物」と呼ばれ、牛、ヒツジ、ヤギ、シカ、ラクダが該当します。畜産の用途で飼われている反すう動物は圧倒的に牛が多いので、牛から発生するメタンが課題とされているのです。一方で、家畜の排せつ物から発生するメタンは、牛だけでなくどの家畜からも発生するものです。
そして
3.家畜による温室効果ガス削減の方法とは?
家畜産業による温室効果ガスの排出を削減するためには、複数のアプローチが考えられます。以下に主な方法を紹介します。
3.1 代替肉の普及
代替肉は植物由来や細胞培養による肉であり、従来の畜産に比べて温室効果ガスの排出が大幅に少ないとされています。具体的には、以下の点で優れています。
メタン排出の削減: 代替肉の生産過程では、家畜の消化過程で発生するメタンが不要となります。
土地利用の効率化: 植物由来の代替肉は、同じ量のタンパク質を生産するために必要な土地面積が少なくて済みます。
エネルギー消費の削減: 代替肉の生産には、従来の畜産に比べてエネルギー消費が抑えられます。
3.2 飼育方法の改善
家畜の飼育方法を改善することで、温室効果ガスの排出を削減することが可能と考えられています。
上記のページに色々な先進事例が書かれていましたので、紹介しておきます。以下以外にも色々と興味深い取り組みがされていましたので、目を通してもらえればと思います。
牛用マスク:ベルト式になっていて、牛の出すゲップから直接メタンを除去しようという取り組みで、メタンガスが60%削減できるということです。また、取り込まれたメタンは水とCO2に分離され、水は水蒸気として排出されるといいます。
海藻をエサに使う:カギケノリという高さ10~30 cmくらいで、オーストラリアなどの熱帯・亜熱帯海域に分布している紅藻類という海藻の一種を一定程度牛の飼料に含ませて90日間育てたところ、最大98%のメタンが削減されたということです。さらに、牛の体重の増加も見られ、牛の成長にも良い影響を与えていることがわかったということです。
「カシューナッツ殻液」をエサに用いる:カシューナッツの殻を絞って抽出した液体をさします。牛は、食べたものを胃の中にいる微生物が発酵、分解することで、栄養素を作っていますが、微生物のなかには悪玉菌も含めてさまざまな種類がいます。カシューナッツ殻液には、胃の中にいる消化を助ける菌は維持しつつ、メタンガスの原因となる菌に作用する効果がある。
4.今後について
代替肉は食料不足を解消するということのみではなく、気候変動対策としての役割も今後ますます重要になると考えられます。
特に食料なので、消費者一人ひとりの選択が市場に大きな影響を与えると考えられます。味の問題はありますが代替肉を積極的に選ぶことで、需要が増加し、さらなる技術革新や価格の低下が促進されると思います。
啓発活動が企業任せのようにも思え、国を挙げて啓発活動を通じ、代替肉の利点を広く伝えることが重要なのではないかと思います。
最近台風を見ていても、気象予報士が言っていましたが、このように台風が迷走したり、台風の目がはっきりと見えるということはこれまでは南の海上では起こっていたようです。つまり今の日本は完全に温暖化、亜熱帯化が進んでいるということです。
災害対策も大切ですが、それよりもこの抜本的な予防をすること、つまりは気候変動対策を本気で取り組むこと、なのでないでしょうか。自民総裁選などを見ていても、気候変動のことを触れていた人はいたのだろうか・・・