ポケモンになった《妖怪・幻獣》前編
ポケットモンスター、縮めてポケモン。
知らない人はまずいないでしょう。
動物や物、果ては食べ物など、様々な”元ネタ”が存在するポケモンですが、
妖怪や幻獣がモチーフのポケモンも結構いるのです。
今回は、初代~金銀までの妖怪モチーフのポケモンと、その元ネタを紹介します。
〖キュウコン/九尾の狐〗
キュウコンはその名前と容姿の通り、九尾の狐がモチーフです。強力な妖獣の代表格と言ってもいいでしょう。
日本では玉藻前と名乗った個体が有名ですね。
玉藻前は、国を傾けてやろうと美女に化け鳥羽上皇に近づいて寵愛を受けましたが、陰陽師に悪狐であることを見抜かれて那須(栃木県)まで逃げました。
追い詰められた末に岩に姿を変えた玉藻でしたが、岩となった玉藻は毒気を噴出し、近付いた生き物を次々と殺していきました。
玄翁という高僧が岩を砕いたことで殺生石は地方に分散し、毒気の威力は弱まったのですが、噴出が途絶えることはありませんでした。
松尾芭蕉も奥の細道で那須を訪れ、殺生石について「石の毒気いまだ滅びず」と記しています。
そして現代でもなお、殺生石付近で生物の死骸が発見されることがあります。
毒気の正体は火山ガスの硫化水素。硫黄温泉の名所でもある那須には、硫化水素が溜まりやすい場所もあります。体高の低い動物だと下に溜まったガスの影響を受けやすいのですね。
このように悪狐のエピソードが有名であるがゆえに九尾の狐=悪い妖怪というイメージがあるかもしれませんが、中国の書物には「良い時代にしか姿を現さない瑞獣(ありがたい霊獣)」「天から遣わされた神獣」との記述もあります。
紀元前中国の地理書「山海経」にも描かれており、歴史の長さが伺えますね。
恐ろしい存在である反面、神聖な力を持つともされる九尾の狐。
この二面性は、尻尾を掴むと1000年祟るとも9人の聖者が合体したものとも言われるキュウコンに通じるものがあります。
〖ウインディ/獅子・狛犬〗
キュウコンの対になるポケモンといえば…そう!ウインディじゃな!
初代図鑑には「中国の言い伝えにある伝説のポケモン」と書かれており、ライチュウ・ゴースのインドぞうやポニータの東京タワーと並びツッコまれていますね。
図鑑説明の通り、ウインディは中国由来の獅子や狛犬がモチーフとなっています。
獅子・狛犬の元祖となった動物は、犬ではなくライオン。
欧州でも力の象徴とされ紋章のデザインにもなっているライオンですが、特にオリエントやアジアでは古来よりライオンが神聖視され、守り神や霊獣として崇拝する文化がありました。(スフィンクスもその一端)
現代でも百獣の王と言われるくらいですし、ライオンの勇猛さや屈強さは古代から地域問わず人々を魅了してきたのでしょうね。
シルクロードを通じた交易が活性化する中で、ライオンの存在はライオンの生息しない中国にも獅子という瑞獣・幻獣として伝わりました。
中国や朝鮮から伝えられた獅子は唐獅子や狛犬と呼ばれ、日本でも守り神としての役割を与えられることとなります。(ガーディの名前の由来もおそらく守護者(Guardian)もしくは番犬(Guard dog)を表したものでしょう)
沖縄のシーサーも、中国から獅子(シーズー)が伝来して独自の発達を遂げたものだと思われます。ちなみに、しずえさん中国原産のシーズー犬も「獅子狗」という中国名が由来だったりします。
また、獬豸(かいち)という麒麟に似た幻獣も、獅子と共に狛犬の起源のひとつではないかと言われています。
獬豸は公正や正義を司る瑞獣であり、台湾では法治の象徴として憲兵の腕章にも用いられています。隠れ特性「せいぎのこころ」を持つウインディにイメージがピッタリですよね。
朝鮮でも建造物の守り神として(麒麟のような姿ではなく獅子の姿をした)獬豸像が設置されることがあります。
ヒスイウインディのように角を持つ狛犬がいるのも、獬豸の影響を受けてのことかもしれません。
獅子や獬豸といった中国の瑞獣に、狛犬から連想される犬要素(番犬や警察犬のイメージ)が複合的に加えられたのがガーディ・ウインディであると推測できますね。
〖スリープ/獏〗
獏はこれまた中国発祥の幻獣です。
日本では、悪夢を食べてくれる縁起の良いものだとされています。(スリープは本家の獏と違い、悪夢よりも良い夢を好んで食べてしまうそうですが…)
獏について書かれた中国の文献によると、ゾウのような鼻を持ち、眼はサイ、脚はトラに似ているとか、クマに似た姿で白黒模様、竹を食べ四川省にいるとか様々な記載が残っています。後者は絶対パンダですよね。東南アジアに生息するマレーバクが中国で幻獣の獏と結び付けられ(もしくは伝説の存在として言い伝えられ)、更にマレーバクと同じく白黒模様のパンダも混同されてしまったのだと思われます。
アジアのマレーバクの他にも中南米に何種類かバクの仲間がいますが、スリープのようなツートンカラーの模様を持つのはマレーバクのみです。
スリープの夢を食べる性質は幻獣としての獏、見た目はマレーバクがモチーフとなっているのでしょう。
作中でスリープの近縁種とされるムンナ・ムシャーナも獏がモチーフではありますが、こちらは幻獣としての側面が強く、動物のバク要素はスリープに比べると薄くなっていますね。スリーパーは動物要素も幻獣要素も薄いけど
〖ノコッチ/ツチノコ〗
ノコッチのモチーフはツチノコであり、名前もツチノコのアナグラムになっています。
ツチノコは1970年代に一世を風靡したUMA(未確認生物)であり、国民的漫画「ドラえもん」でも取り上げられたほどの知名度を誇ります。
ミミズや目の無いヘビのような姿をした妖怪「野槌(のづち)」の別名でもあり、両者が同一視されることもあります。
ツチノコは短いヘビといった形のUMAで、以下のような特徴があるとされます。
ノコッチも蛇ポケモンにしては珍しく「ころがる」を覚えますし、大きな瞼でいつも目を閉じています。
背中の小さな羽で少し飛べることはツチノコの跳躍力を表しているのではないでしょうか。
臆病で特性が「にげあし」な点や、(初登場の金銀では)出現場所や出現率が限られている点は、遭遇することが難しいツチノコを彷彿とさせますよね。
金銀までの章は、ひとまずここでおしまいです。(妖怪モチーフとは言っておきながら幻獣やらUMAやらがメインだった気もしますが…)
「ばけねこポケモン」のニャースは妖怪というより招き猫なので割愛しました。
第3世代(ルビサファ)は妖怪ポケモンがたくさん登場する世代なので、後編ではそちらも紹介したいですね。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。