国会会議録を閲覧しよう(2) 国会の議事における記者の不規則発言
令和5年6月8日、参議院法務委員会において鈴木宗男議員は、入管難民法改正案の採決に際しての新聞記者の不規則発言を問題視し、厳重注意などしかるべき措置を求めました。
これに対し、同委員会委員長は、後刻理事会において協議する旨の発言がありましたが、・・・その後、どうなったのか不明です(筆者は無能なので調べきれてないのかもしれません)。
対国民との関係において事実関係、措置内容(再発防止策を含む。)について説明責任を果たしてもらいたいところ。議員なら懲罰委員会付議、懲罰対象議員の弁明の機会の付与を踏まえて、処分の検討といった流れになるでしょうが、新聞記者の妨害行為は議事の秩序維持のため委員長の職権で制止することもできないような仕組みなら、その仕組みは、見直すべきです。議事内容については両院ともリアルタイムで動画配信されている現状で、報道陣が入ることの要否についてそもそも論から議論してもらいたい(国会中継がインターネットで配信される前は、報道機関を通じて提供される情報に依存せざるを得なかった面があり、・・・現在と環境が異なる。)。その上で、記者が報道のための取材行為と全く関係ない行為(妨害行為)について許容される余地があるのか明らかにしてほしい(記者の所属する報道機関の弁明の機会の付与を含む)。まあ、パフォーマンスとしての妨害行為を繰り返し、弁明の機会を付与すると、その場しのぎの反省の意思を表明する議員には、有権者が改選時にノーを突きつけることはできるが、妨害行為をする記者には委員会なら委員長に委ねるしかない。国権の最高機関として毅然たる対応を期待したい。
なお、報道のための取材の自由について、判例では、「報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、国民の「知る権利」に奉仕するものである。したがつて、思想の表明の自由とならんで、事実の報道の自由は、表現の自由を規定した憲法二一条の保障のもとにあることはいうまでもない。また、このような報道機関の報道が正しい内容をもつためには、報道の自由とともに、報道のための取材の自由も、憲法二一条の精神に照らし、十分尊重に値いするものといわなければならない。」(最大判S44.11.26博多駅フィルム事件)とされており、当然ながら、この判例からは国会における議事の妨害行為が正当化される余地はありません。報道機関の自律機能が、破綻しているとは断じることはできません(むしろ、報道機関を信じたい)。そして、いわゆるオールドメディア(老舗の意味)やニューメディアの報道内容を信用するかは個別に国民が判断するものなのだろう。報道機関に限らず、信頼を失った組織のその後について、社会全体で、もっと注目すべきなのかもしれません。
【参考】経緯
■令和5年6月8日参議院法務委員会における入管難民法改正案の採決
令和5年6月8日、参議院法務委員会において、入管難民法改正案(出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案(閣法第四八号)(衆議院送付)について討論の後、可決
■令和5年6月8日参議院法務委員会における法務及び司法行政等に関する調査を議題とした質疑における鈴木宗男議員の発言の要約
⏩️法案採決に際しての傍聴議員のルール違反
・入管難民法改正案の採決に際して、ルールとして傍聴に来た国会議員が発言が禁止されているにもかかわらず、良識の府参議院とは思えないほど傍聴議員が声を出していたことを指摘
⏩️法案採決に際しての新聞記者の不規則発言
・法案の採決に際して、一人の新聞記者による不規則発言が何回もあったとして厳重注意などしかるべき措置を要求
⇒これに対し、同委員会委員長は、後刻理事会において協議する旨の発言
■令和5年6月13日の参議院法務委員会において鈴木宗男議員の発言の要約
・令和5年6月8日の参議院法務委員会における入管難民法改正案の採決に際して、傍聴に来た委員以外の国会議員が委員会審議を妨害
・傍聴人の山本太郎議員が実力行使に対し、しかるべき対応を要求
・東京新聞の記者が、石川大我委員の討論のとき、大声で相づちを打っていたことは規則違反になることから、しかるべき対応を要求
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【参考】第211回国会 参議院 法務委員会 令和5年6月8日 会議録(抜粋) [出所:国会会議録検索システム]
【参考】第211回国会 参議院 法務委員会 令和5年6月13日 会議録(抜粋) [出所:国会会議録検索システム]
【雑感】
当日の参議院インターネット中継(法務委員会)の動画を視聴してみましたが動画からは、事実関係が判然としなかったです(当該記者が妨害行為に当たる発言がなかったと認めるに足りる証拠はなかった)。ただ、当該記者による妨害行為があったとする国会議員の発言は重く受け止めるべきです。
今後のことを考えると、中継用のカメラ以外に防犯ビデオを設置するなど、抑止効果を期待するとともに、妨害行為の確認できるような措置が必要かもしれません(残念なことですが・・・)。もっとも、そのために国民の税金を投入するぐらいなら、記者は、公式のインターネット中継をリアルタイムで閲覧できるので、議場への入室を認めないほうがいいかもしれません。
【余談】前掲の動画から不規則発言等が疑われる人物を探していたら、傍聴議員の中に、翌年、辞職し、某自治体の首長選挙に立候補するも惨敗したあの人によく似た人が写っていました。懐かしい。
【補記】
令和5年6月9日、第211回通常国会において「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律」が成立し、同月16日に公布されました(令和5年法律第56号)。
この改正法は、送還停止効の例外規定の創設、罰則付き退去命令制度の創設、収容に代わる監理措置制度の創設、「補完的保護対象者」認定制度の創設、在留特別許可の申請手続の創設等を内容とするものです。「補完的保護対象者」認定制度の創設については、令和5年12月1日から、送還停止効の例外規定の創設、罰則付き退去命令制度の創設、収容に代わる監理措置制度の創設、在留特別許可の申請手続の創設などについては、令和6年6月10日から施行されました。(出入国在留管理庁HP「令和5年入管法等改正について」による)。