見出し画像

「科幻世界」を読む(8)何かを変えられるまで:索木「若虫之森」


あらすじ

「科幻世界」2023年第1期掲載。

近未来の日本。高校のクラスメイト同士であるリョウタ、タクマ、マユ、そして転校生のマルは、全員が18歳で卒業を控えている。しかし彼らの肉体年齢は一人ひとり違っていた。リョウタは一生12歳の肉体で生き続ける運命にある。同じように、マユは8歳、マルに至っては1歳で学校でもゆりかごに入っている。あるウイルスが世界中に蔓延し、人間たちは脳以外成長しなくなっていたのだ。
その中でタクマは唯一、肉体が思春期に達している珍しい生徒だった。タクマは時折、山の上の研究所へ出かけて何かをしている。ある日、リョウタたちはその秘密を知ることになる。それはこの世界を救うための壮大な計画だった……。

感想

中国の小説なのに舞台は日本という設定が目を引きます。まだ水の入っていない田んぼ、夜になるとカエルの大合唱が聞こえる小川、山の上の古びた神社など、日本の田園風景がリアルに描写されています。作者は日本の田舎を旅したことがあるのか、それとも日本と気候の似た中国の地域を参考にしたのでしょうか。
成長しない子供たちというモチーフは時折見かけますね。年を取れないまま生きていくことへの思索が物語中にちりばめられていますが、その静かで切ない雰囲気から森博嗣さんの「スカイ・クロラ」シリーズを思い出しました。
ところでその映画版「スカイ・クロラ」が発表された当時、押井守監督が「この映画を通して若い人に希望を与えたい」とおっしゃっていた記憶があります。結末でカンナミは撃墜されてしまいますし、最近までその意味がわからなかったのですが、見直してみるとこんなセリフが。

「君は生きろ。何かを変えられるまで」

映画「スカイ・クロラ」

クサナギから自分を撃ってくれと頼まれたカンナミは、わざと弾を外して彼女にこう言います。
このセリフはまだしばらくは生き続けなければならないであろうクサナギだけでなく、観客にも向けられていたのですね……というわけで「希望」の意味に一人納得したのでした。
話を戻すと、この小説でも「何かを変えられるまで」生きていくこと、その変化が起こった未来を想像することが、成長しない子供たちにとって一筋の希望になっています。
結末では長い一日が終わって日が暮れていますが、それはリョウタたち「子供」世代の夕暮れであると同時に、変化の前夜でもあるのでしょう。

作者について

索木さんは2002年生まれ。上海大学科幻協会社長(会長)を務めました。15歳から「科幻世界」を主戦場に執筆を続け、すでに9編の短編があります。
本作で銀河賞短編小説部門と新人部門にノミネートされました。80後(80后、80年代生まれ)、90後(同)に続く00後の作家として期待大ですね。