ミオリネ・レンブランに輝く愛を見た 「機動戦士ガンダム 水星の魔女」考察
アニメ「機動戦士ガンダム 水星の魔女」では、TVシリーズ初の女性主人公というのもさることながら、メジャータイトルとしては極めて稀な、主人公の、女性同士の恋愛が描かれたことでも、大きな話題を呼びました。
第1話で成り行きから婚約関係となった主人公スレッタと、ヒロインのミオリネ。
ミオリネの方はかなり早い段階から、スレッタに好意を抱いたと捉えられますが、スレッタ側にとって決定的だったのは、どこなのか。
これを考えることで、2人が愛し合うようになった理由を考えます。
スレッタから見たミオリネとは
結論を言えば第7話で、魔女裁判のごとき大人たちの糾弾から、スレッタを庇った、あの場面。
なぜ魔女を庇うのか、サリウスに問われての、「決まってるわ。あの子の、花嫁だからよ!」と、その後の「守るわよ。私が、あんたを!」の場面が、決定的でした。
ミオリネはキャラクターデザインのモグモ氏が「作中1番の美人くらいのつもりでデザインしています」と語る通りの公式美少女ですので(アニメージュ2022年12月号のインタビュー等)、可愛い、綺麗といったイメージが先行しがちです。
ですが、綺麗はスレッタも思ってるでしょうが、それ以上に彼女にとってのミオリネは、「格好いい」なのです。
たとえば第1期の円盤CM、ロングバージョンでのやり取り。
スレッタが、ミオリネの物真似をしているのを、本人に見られる所で、こう言っています。
また全校集会の昼の部、スレッタとミオリネが第1期を振り返るパートにて、ここでも物真似しながら、「ミオリネさんが、すんごい、素敵な一言を〜」と、「守るわよ。私が、あんたを!」を言わせようとするひと幕が有ります。それだけ、スレッタにとっても印象的だったと言えます。
このように、スレッタから見たミオリネの印象は、「可愛い」より「格好いい」が大きいということを、まず念頭に置いて欲しいです。
至高の、無償の愛
7話ミオリネの言動が、スレッタと、ファンに強く響いたのは、毅然と大人たちに立ち向かう姿も大きいですが、あれが気高く純粋な「無償の愛」だったから。
私はそう考えます。
無償の愛と言えば、第1期と第2期の間の頃、グエスレ派のこんなポストを見ました。
「役割を求めないグエルの無償の愛が、スレッタを救う!」。
しかし一般的な使い方として、無償の愛とは、「役割を求めない」ではなく、「見返りを求めない」愛を指すのではないでしょうか。結果としてはスレッタと結ばれたとはいえ、見返りを求めなかったミオリネの愛の方が、無償の愛と呼ぶに相応しいでしょう。辞書読もうな?
この7話の時点でミオリネは、「スレッタが好きなのはエラン」と思い込んでいます。それは、この時点では事実と言えます。
一部の人に釘を刺しておくと、恋人同士になったのでも、将来を誓い合ったのでもありませんが。
ともあれミオリネは、自分を愛して欲しいと、見返りを求めてスレッタを助けたのではありません。
同じ7話冒頭でスレッタに「誰かのことで頭がいっぱいになったり、しないんですか」と聞かれ、「無い」と即答。「私の頭に有るのは、地球に行くことだけ」と言い切りました。
それでも。その地球行きの目的も投げ捨てて。
ずっと父親に反発してきた、意地もプライドもかなぐり捨てて。
「貴女が私を愛さなくても、私は貴女に、全てを捧げるのです」とばかりの、輝くような、目映い愛。
歴代ガンダムシリーズでも屈指の、愛の場面です。しかもミオリネは「あの子を愛してるからよ」とは言わないんですね。「あの子の花嫁だからよ」と言うのです。この、恩を着せない、見返りを求めない姿勢は、ミオリネ・レンブランを語る上で外せません(それが行き過ぎてしまったのが17話とも言えますが)。
そして、「守るわよ」の言葉を、有言実行。これが、格好いいのです。
ファンがSNS等で彼女を呼ぶ時、よくミオリネさん、と、さん付けをします。これはスレッタの呼び方に倣ってるのも有りますが、やはり、この格好良さに敬意を払っている部分は有るでしょう。
男子たちと比べて
一部の視聴者は「あんなにカッコいい男子たちがいるのに、ミオリネに惹かれるなんて理解できない」と言いますが、答えは簡単です。
男子たちより、ミオリネの方が格好いいからです。少なくともスレッタにとっては。
エランも、グエルも、スレッタに「カッコいい場面」はとくに見せてないんですね。
厳しい人は、エランがスレッタに優しくしたのも、エアリアルの秘密を探る為だったと指摘しますが、私はさすがに全部がそうだったとは思わない。彼の優しさ、善意の全てが偽りだったはずはない……でも、それだけです。
既製品のお弁当を差し入れてもらった、「困ってる?」と聞かれた。もちろん学生が好意を持つ理由にはなりますが、それだけで将来を約束したり、永遠の愛を誓ったりまではしません。そんな男に都合いいチョロイン、いませんよ。
そしてエランは、格好いい部分は本編で描写されてません。まさか5話の決闘でグエルをいたぶり、見せつけるように、わざわざ手でディランザのブレードアンテナを折ったのを見て、「エランさん、素敵」とスレッタが思いますか? 思うわけ無いじゃないですか、主人公ですよ。
格好いい部分を見せてないのは、グエルも同じ。
この5話の決闘、彼の言動によってはスレッタに好印象を与えることは、出来たと思います。スレッタにとって印象良くなかったのは、この時点ではまだエランに好意を持っているのに、「俺が勝ったら、こいつに近づくな」と無駄に彼氏面してしまった点。
「俺が勝ったら、スレッタに謝れ」だったら、スレッタが好印象を抱いたのではと思います。それでも、エランに勝てなければ同じですが。
5話以降も、9話で助っ人要請を断ったり、12話、15話の戦いもスレッタは見ていませんし(見たところで、スレッタを守る為に戦ったわけでもない)。
むしろ男子で、スレッタに格好いい部分を見せてるの、マルタンぐらいなんですよね。16話で、地球寮に嫌がらせする生徒たちの前に、立ちはだかったり。
だから、ミオリネなのです。彼女が誰より、スレッタに格好いい所を見せている。
「困ってる?」と聞くのと、行動の伴ってない「お前が大切なんだ」と、「守るわよ。私が、あんたを」で本当に大人たちから、スレッタ自身もエアリアルもまとめて守ってくれるのと。
スレッタ視点で一番格好いいのが誰か、議論の余地は無いでしょう。仮に異性だと1億倍、格好良く見えるとしても、0×1億は0なので。ミオリネより下です。
まず「水星ってお堅いのね」を真面目に聞こう
以上のように、スレッタ側もミオリネに惹かれるようになった理由は、ミオリネが格好いいところを見せたからと、あまりにもシンプルな答えです。
「格好いい」「守ってくれた」は、恋する理由としては充分ではないですか? それが同性同士だと納得できないという人は、納得するまで第1話を見直して下さい。
第1話のラストで「水星ってお堅いのね。こっちじゃ全然有りよ」と言っているのは、ギャグでもジョークでもありません。そのままの意味です。同性愛も同性婚も、特別なものではないと世界観を説明しているのです。
意味も無く1話ラストでこれを言ってるわけではないのです。何故かあの台詞に意味を持たせたがらない、ミオリネの軽口程度に扱いたがる人がいますが。
先日NHK朝ドラで同性愛描写が有った際、一部の人が「チェーホフの銃」を持ち出して「作中に意味も無く同性愛描写を出すな」と主張し、反論でフルボッコにされてましたが、あの人たちはきっと逆に、同性愛OKな世界であると示す明確な意味有る描写に対しては、「考え過ぎ。たいして意味有る台詞じゃないよ」とか言うんでしょうね!
少し話が逸れましたが、第1話の「水星ってお堅いのね」をちゃんと聞いていれば、性別は重要でないと認識していれば、スレッタがミオリネに惹かれることに、何の不思議も有りません。
だってミオリネが、一番格好いいのだから。
輝く愛に、祝福を
最後に私の話を少しだけ。長年百合ジャンルで小説を書いてきた私ですが、リアルタイム時、1話はもちろん衝撃的でした。けれど実際に女性同士で結ばれると、確信していたわけではありません。
友情だの相棒だので誤魔化され、ずっと裏切られて来ましたから。6話後半などは、正直「結局いつも通りか」とだいぶ冷めてました。
そこへ、6話ラストの衝撃から1週挟んでの、第7話。思えば本気でこの作品を、スレミオを応援すると決めたのは、「あの子の、花嫁だからよ」に魅了されてからです。
私はあの姿に、本物の無償の愛を感じました。
輝くような愛を、見出しました。そして「大切な人の為に、嫌いな相手に頭を下げる」と言う、物理的にも、現実にも実行可能な、けれど実に難しいことをやってのけた気高さに、胸を打たれました。
「報われて欲しい」と願ったのです。そこから…作中でも、現実世界でも、紆余曲折有りましたが、監督により結婚も明言され、本当に良かった。
だから私は、水星の魔女という作品とともに、7話のあの場面を語り継ぐでしょう。
これからも、スレッタとミオリネに、目一杯の祝福を!