朗読『ふぎむにん』
冬の短い夕暮れ時に鴉が鳴いていた。
こんな日は昔にあった、ある出来事を思い出す。
地方独特の方言が当たり前のように使われていた小さな町だった。
まだ私が右も左も知らないような幼い少年だった時に、ふぎむにんを見た。
そいつの顔は伸び放題の黒い髪で覆い隠されていて分からなかった。ごみ袋に群がる鴉の汚らしい羽を、大きな防寒着に貼り付けていた。手に持ったビニールの中には、安物の酒が幾つも入っていた。そこに居るだけで、空気が濁っているような感じがした。
冬なのにサンダルで歩いていて、時